本日ご紹介するのは、『Vaundy(バウンディ)』のナンバーから
『常熱』【作詞・作曲:Vaundy】
歌詞全文はこちらのリンクから→https://www.uta-net.com/song/346763/
Vaundyの楽曲「常熱」(じょうねつ)は、2024年にリリースされた楽曲で、リクルート「ゼクシィ」のCMソングや、映画『GEMNIBUS vol.1』のテーマソングに起用された。作詞・作曲・編曲のすべてをVaundy自身が手がけた、情熱的かつ叙情的なメロディーが特徴の楽曲です。
この曲の歌詞をざっくり考察します。(´っ・ω・)っすた~と
この曲の歌詞は、かなり独特で、
**「恋=体温や生理現象としての異常な高まり」**をテーマにした曲です。
ただの恋愛ではなく、中毒・侵食・ループまで含んだ深い構造になっています。
ここでは、流れに沿って“かなり深く”解説していきます。
■ 全体テーマ(最重要)
この曲の核はシンプルに言うと
「恋が“平熱”を壊して“常熱”になる瞬間」
- 平熱=普通の日常・理性・安定
- 常熱=冷めない恋・中毒・暴走する感情
つまりこれは
“恋に落ちる”ではなく、“状態が変わる”物語
■ 冒頭:宇宙とループの意味
太陽系をちょうど抜けたあたりで
思い出した
何億年もループを抜けない旅をしてたようなVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここはかなり重要。
●「太陽系を抜けた」
→ 日常からの完全離脱
→ 現実のルールが通用しない領域
●「何億年もループ」
→ 恋は初めてじゃない
→ 同じような感情を何度も繰り返している
つまりここで
**“この恋は偶然じゃなく、繰り返されてきたもの”**と示唆
■ 動悸・靄=恋の侵食
動悸に気づき出した
視界にはもう靄がかかっていくVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
●動悸
→ 心臓の異常な高鳴り=恋の始まり
●視界が靄がかかる
→ 理性がぼやける
→ 客観的に物事が見れなくなる
ここで
恋=感情ではなく“身体の異常”として描かれている
■ 「正気を取り戻した頃には遅い」
正気を取り戻した
そのころには、その機体はすでに止まっているVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
これはかなり怖い表現。
- 正気に戻る=冷静になる
- でもその時には「機体(自分)」は止まっている
つまり
気づいた時にはもう抜け出せない
■ サビ:「常熱」の正体
いつだって君のことは
底なしで触れてたいなVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここは欲望そのもの。
- 「底なし」=限界がない
- 触れたい=肉体的・精神的な接触欲求
平熱も上がるような毎日をあげるから
Vaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここがタイトル回収の入口。
平熱 → 上昇 → 常熱へ
つまり
恋によって“日常の温度が変わる”
君の心が溶け出して
焦るほどの常熱をVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここが一番危険な部分。
●溶ける
→ 理性が崩壊
→ 自我の境界がなくなる
●焦るほどの熱
→ 快感と危険が同時に存在
つまり
愛ではなく“侵食”に近い状態
■ 海底圏:さらに深い領域
海底圏がちょうど見えたあたりで
思い出したVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
宇宙 → 海底 という対比が面白い。
- 宇宙=外へ広がる
- 海底=内側・深層心理
ここで意味は
恋が“外の世界”から“内側の深い領域”に侵入した
何重圧も肌に溶ける
血圧が上がるようなVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここは完全に生理描写。
- 圧力=精神的・肉体的負荷
- 血圧=興奮・緊張・快感
恋が
身体を支配している状態
■ 言葉が溶ける=理性の崩壊
言葉が溶け出していく
指先痺れだしVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここはかなり象徴的。
- 言葉=理性・思考
- 溶ける=コントロール不能
つまり
もう“考える恋”じゃなく、“感じるだけの状態”
■ 終盤:夢見心地=中毒
脳圧満たして
またもう夢見心地さVaundy「常熱」作詞・作曲:Vaundy
ここは完全に中毒表現。
- 脳圧=脳が刺激される
- 夢見心地=現実感喪失
つまり
恋=快楽的なトランス状態
■ この曲の本当の怖さ
この曲が普通のラブソングと違うのはここ
① 愛じゃなく「現象」
恋が
- 動悸
- 血圧
- 脳圧
で描かれている
感情ではなく“身体反応”
② 抜け出せない構造
- 気づいた時には遅い
- ループしている
恋=自由じゃない
③ 境界が消える
- 心が溶ける
- 言葉が溶ける
「自分」と「相手」の区別が消える
■ 一言でまとめると
「恋が理性を溶かして、身体ごと支配する“常温を超えた状態”」
以上私なりの歌詞解釈でした。
続きまして、この曲を聴いて膨れ上がった私の妄想ストーリ(歌詞解釈)をチラッとお見せいたします
|ω・)チラッ
『常熱』
第一章:抜け出したはずの場所
あの日、俺は“日常”から抜け出したと思っていた。
毎朝、同じ時間に鳴るアラーム。
決まった時間に乗る電車。
決まった位置に立つ人間たち。
まるで、誰かがプログラムしたみたいに、
一日が何のズレもなく繰り返されていく。
気づいたのは、ある朝だった。
ホームで電車を待っているとき、
ふと、周りの人間の動きが“同じ”に見えた。
スマホを見るタイミング、
顔を上げる角度、
電車が来た瞬間の一歩。
全部が揃いすぎていて、気持ち悪かった。
「……なんだこれ」
思わず声が漏れた。
その瞬間だけ、世界が一瞬止まった気がした。
でもすぐに、また動き出す。
何もなかったかのように。
その日から、違和感は消えなかった。
同じ会話をしている気がする。
昨日も、先週も、もっと前も。
同じ言葉を、同じトーンで、同じタイミングで。
「それ前も言ったよな」
そう言いかけて、やめる。
誰も気づいていないからだ。
いや、気づいていない“ふり”をしているのかもしれない。
どっちでもいい。
ただ、俺だけがこのループに気づいてしまった。
そんな気がした。
夜になると、少しだけ楽になる。
誰もいない部屋。
音もない空間。
そこでようやく、自分の思考だけが残る。
でも、その静けさの中でさえ、
どこかで“何かが繰り返されている”気がしていた。
記憶が、ズレている。
今日の出来事なのに、
何度も思い出したことがあるような感覚。
初めてじゃないのに、初めてみたいな。
既視感。
いや、もっと深い。
「何億回も繰り返してきたみたいだな……」
冗談みたいに呟いたその言葉が、
やけに現実味を帯びていた。
耐えきれなくなったのは、その数日後だった。
理由なんて、大したものじゃない。
ただ、ふとした瞬間に思った。
「もういいや」
それだけだった。
全部がどうでもよくなった。
同じ日々も、
同じ人間関係も、
同じ感情も。
全部が“繰り返し”なら、
ここにいる意味なんてない。
そう思った。
荷物はほとんど持たなかった。
スマホと財布と、最低限の服だけ。
行き先も決めずに電車に乗った。
知らない駅で降りて、
知らない街を歩く。
それだけで、少しだけ呼吸が楽になった。
「……ああ、抜けたかもな」
ぽつりと呟く。
あのループから。
あの息苦しさから。
海が見えたのは、夕方だった。
街の端に、ぽっかりと広がる水平線。
沈みかけた太陽が、海を赤く染めている。
その景色を見た瞬間、
胸の奥が少しだけ軽くなった。
「やっと、現実だ」
そう思った。
初めて、自分の足で立っている感覚。
初めて、今この瞬間を生きている感覚。
ようやく、ループから抜け出した。
そう、確信した。
——そのはずだった。
「……あ」
波の音の向こうで、
誰かが立っていた。
風に揺れる髪。
夕焼けに溶ける横顔。
ただ、それだけなのに。
心臓が、強く跳ねた。
ドクン、と。
不自然なほどに。
「……なんで」
息が浅くなる。
視界の端が、少しだけ歪む。
そして、ふと。
思い出してしまった。
さっきまで、忘れていたはずの感覚を。
“何億年もループを抜けない旅をしていたような感覚”
それが、一気に蘇る。
「……嘘だろ」
ここまで来ても、まだ続くのか。
逃げてきたはずなのに。
抜け出したはずなのに。
彼女が、振り返った。
その瞬間——
世界が、また“始まった”。
第二章:動悸
彼女が振り返った瞬間、
時間の流れが一拍、遅れた気がした。
風の音が消える。
波の音も遠のく。
ただ、心臓の音だけが、やけに鮮明に響く。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
「……はじめて、じゃない」
口に出していた。
自分でも、なぜそう思ったのか分からない。
でも確信だけがあった。
この瞬間を、俺は知っている。
彼女は何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を細めて、
こちらを見ている。
まるで、俺の言葉を“聞いていた”みたいに。
「……どこかで、会った?」
ありきたりな言葉を選んだつもりだった。
でも、声はわずかに震えていた。
違う。
聞きたいのはそんなことじゃない。
“何回目だ?”って、聞きたかった。
「ううん」
彼女は首を横に振る。
でもその否定は、どこか曖昧だった。
完全に否定していない。
むしろ——
“知っているけど言わない”みたいな。
「でも」
少しだけ間を置いて、彼女が続ける。
「なんか、変な感じするね」
その一言で、背筋が冷えた。
同じだ。
同じ違和感を、彼女も持っている。
俺だけじゃない。
あのループの中にいたのは、
俺だけじゃなかった。
「……ここ、よく来るの?」
話題を変えたつもりだった。
でも、逃げているのは自分でも分かっている。
彼女は少し考えてから、答えた。
「“よく”っていうか……」
言葉を探しているような間。
「気づいたら、ここにいる感じ」
その答えは、あまりにも正確だった。
俺も同じだったから。
“来た”んじゃない。
“気づいたら、ここにいた”。
選んだ記憶が、曖昧だった。
「……名前、聞いてもいい?」
また、普通の会話に戻ろうとする。
でも、その“普通”がどこか嘘くさい。
「……」
彼女は一瞬だけ、黙った。
まるで、自分の名前を思い出そうとしているみたいに。
「……葵」
小さく、そう言った。
その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。
——知ってる。
その名前を、俺は知ってる。
どこで?
いつ?
思い出せない。
でも確実に、“初めてじゃない”。
「俺は——」
名乗ろうとして、言葉が詰まる。
自分の名前なのに、
一瞬だけ、遠く感じた。
「……遼」
ようやく出た声は、少し遅れていた。
沈黙が落ちる。
でも不思議と、気まずさはない。
むしろ、言葉が要らないくらいに
“分かっている感覚”がある。
それが、余計に怖い。
「ねぇ」
葵が、少しだけ近づいてくる。
距離が縮まる。
それだけで、鼓動が一気に速くなる。
ドクン、ドクン、と
さっきまでとは比べ物にならないくらい強く。
「さっきさ」
彼女が、俺の目をまっすぐ見て言う。
「“はじめてじゃない”って言ったよね」
逃げ場がなかった。
否定すればいいのに、できない。
「……ああ」
短く答える。
その一言で、全部を認めた。
葵は、少しだけ笑った。
でもそれは、嬉しそうな笑顔じゃない。
どこか、諦めたような。
それでいて——
待っていたような顔だった。
「やっぱり」
小さく呟く。
「今回も、気づいちゃったんだ」
その言葉の意味を、理解する前に。
胸の奥で、何かが暴れ出した。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓が、痛いほどに鳴る。
視界の端が、また歪み始める。
「……“今回も”って、何だよ」
声が、少し強くなる。
でも葵は答えない。
ただ、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
触れられる直前。
そのわずかな距離で、
時間が、また歪む。
「ねぇ、遼」
彼女の声が、やけに近い。
「どこまで覚えてる?」
触れられた瞬間——
全身に、熱が走った。
それは恋なんて言葉じゃ足りない。
もっと直接的で、
もっと危険で、
もっと逃げられない何か。
動悸が、止まらない。
いや、違う。
止まらないんじゃない。
“止めたくない”。
その瞬間、理解した。
俺は逃げてきたんじゃない。
ここに戻ってきたんだ。
何度も、何度も。
彼女のところに。
「……またかよ」
小さく笑った。
でもその笑いは、自分でも分からない。
絶望なのか、安心なのか。
葵の手は、まだ俺の手に触れている。
その温度が、少しずつ上がっていく。
平熱じゃない。
明らかに、何かが上昇している。
「ねぇ」
葵が、もう一度囁く。
「今回は、どこまで行く?」
その問いに、答えはなかった。
でもひとつだけ、分かっていた。
この鼓動は、もう戻らない。
そしてこの熱は——
ここから、さらに上がっていく。
第三章:侵食(濃密版)
最初に違和感を覚えたのは、時間だった。
「……あれ?」
時計を見る。
まだ昼過ぎのはずなのに、
外はもう夕焼けに染まりかけている。
「そんなに経ったか?」
呟く。
でも、体感ではほとんど時間が流れていない。
葵と話していただけだ。
ただ、座って、
ただ、同じ景色を見て、
ただ、言葉を交わしていただけ。
それだけなのに。
「ねぇ」
隣から、葵の声。
「今、何時だと思う?」
心臓が、一瞬だけ跳ねる。
「……夕方、くらい?」
答えると、葵は少しだけ笑った。
「そっか」
それ以上、何も言わない。
でもその“含み”が、逆に怖かった。
時間が、抜け落ちている。
いや、違う。
“削られている”。
俺と葵の間にある時間だけが、
異常な速度で流れている。
もしくは——
外の時間が、どうでもよくなっている。
「なぁ、葵」
少しだけ声を低くする。
「これ、普通じゃないよな」
葵は、少しだけ空を見上げた。
夕焼けの色が、彼女の横顔に溶けている。
「うん」
あっさりと、肯定した。
「でもさ」
彼女は続ける。
「普通って、そんなに大事?」
その問いに、言葉が詰まる。
大事なはずだ。
元の生活、元の時間、元の自分。
全部がそこにあるはずなのに。
「……いや」
気づけば、否定していた。
どうでもいい。
正直に言えば、そうだった。
時間が狂ってもいい。
現実が歪んでもいい。
ただ、葵といるこの瞬間だけが、
異様に“鮮明”だから。
「ほら」
葵が、俺の手を取る。
自然すぎて、抵抗する隙もなかった。
その瞬間——
体の奥で、何かが弾ける。
ドクンッ。
鼓動が、一気に跳ね上がる。
血が巡る音が、耳の奥で響く。
指先から、じわじわと熱が広がっていく。
「……っ、これ」
言葉がうまく出ない。
思考が、遅れる。
「ね?」
葵が、少しだけ楽しそうに言う。
「わかるでしょ」
わかる。
わかりすぎる。
これは、ただの“触れる”じゃない。
もっと直接的で、
もっと危険で、
もっと逃げられない何か。
「……やめたほうがいい」
かろうじて、そう言った。
理性が、最後に出した言葉。
でも葵は、手を離さない。
むしろ、少しだけ強く握る。
ドクン、ドクン、ドクン。
鼓動が、さらに速くなる。
体温が、明らかに上がっていく。
平熱なんて、もうとっくに超えている。
「ねぇ、遼」
葵が、静かに言う。
「なんで“やめたほうがいい”の?」
答えは簡単だった。
「……戻れなくなる」
そう。
これはきっと、境界線だ。
ここを越えたら、もう戻れない。
元の生活にも、
元の自分にも。
でも。
「……戻りたい?」
葵の問いが、すべてを壊した。
答えられなかった。
頭の中で、いろんなものが浮かぶ。
元の街。
元の生活。
ループしていた日常。
でも、その全部が。
“色が薄い”。
今、この瞬間のほうが、圧倒的に濃い。
圧倒的にリアルだ。
「……いいよ」
気づけば、口が動いていた。
「戻れなくても」
その一言で、何かが決定的に壊れた。
葵が、少しだけ目を細める。
嬉しそうでも、悲しそうでもない。
ただ——
“知っていた”みたいな顔。
「そっか」
小さく呟く。
そのまま、距離がさらに縮まる。
呼吸が、混ざる。
思考が、完全に追いつかない。
「ねぇ」
耳元で、囁く。
「これが、“常熱”だよ」
その言葉と同時に——
体の奥で、何かが完全に“起動”した。
ドクンッッ。
今までとは比べ物にならない鼓動。
全身の血が、一気に駆け巡る。
視界が、白く滲む。
言葉が、溶ける。
思考が、崩れる。
でも、不思議と怖くない。
むしろ。
「……気持ちいい」
そう思ってしまった。
それが、すべての終わりだった。
第四章:溶解
気づいたとき、もう“会話”は成立していなかった。
「……」
言葉を発しようとしても、形にならない。
頭の中では、何かを考えているはずなのに、
それがそのまま崩れて、外に出てこない。
音にならない。
意味にならない。
「ぁ……」
自分でも、何を言っているのか分からない。
ただ、息と一緒に漏れるだけの音。
葵は、それを見て少しだけ笑った。
「ね、言ったでしょ」
優しく、でもどこか確信を持った声。
「言葉、溶けるんだよ」
その一言が、やけにクリアに聞こえる。
他のすべてがぼやけているのに、
その言葉だけが、はっきりと脳に残る。
「……なんで」
やっとの思いで、言葉を絞り出す。
葵は答えない。
ただ、ゆっくりと近づいてくる。
距離が、ゼロになる。
その瞬間、世界がまた変わった。
触れている。
ただ、それだけのはずなのに。
全身の感覚が、そこに集中する。
皮膚の温度。
呼吸の揺れ。
わずかな震え。
それ以外が、全部消える。
視界も、音も、思考も。
「……っ」
息が乱れる。
鼓動が、もう数えられない。
速すぎて、ひとつの音に聞こえる。
ド———————
連続した振動みたいに、身体の中を駆け巡る。
「ほら」
葵が、耳元で囁く。
「もう、わかるでしょ」
わかる。
いや、理解じゃない。
“感じている”。
これは、恋じゃない。
もっと直接的で、
もっと深い場所に刺さるもの。
「……やばいな」
笑ったつもりだった。
でも、声はかすれていた。
「でしょ」
葵が、少しだけ嬉しそうに答える。
そのまま、時間が溶けていく。
どれくらい経ったのか分からない。
数分かもしれないし、何時間かもしれない。
もしかしたら、もっと。
でも、どうでもよかった。
「ねぇ、遼」
少し離れて、葵が俺を見る。
その目が、妙に深い。
底が見えない。
「まだ、戻る気ある?」
質問の意味は、分かっている。
元の生活。
元の自分。
元の“温度”。
全部を、指している。
でも。
「……無理だな」
即答だった。
もう、比べられない。
あっちは“冷たい”。
ここは、“熱い”。
ただ、それだけで十分だった。
葵は、ゆっくりと頷く。
「そっか」
その声には、少しだけ安堵が混ざっていた。
「じゃあ、最後まで行こうか」
その言葉に、違和感が残る。
「……最後?」
葵は少しだけ考えるようにしてから、答える。
「うん」
「ちゃんと“溶けるところ”まで」
その意味を、理解する前に。
彼女の手が、胸に触れる。
ドクンッ。
心臓が、跳ねる。
でもそれは、今までと違った。
内側からじゃない。
“外から”触れられている感覚。
まるで、鼓動そのものに触れられているみたいに。
「……っ、やめ——」
止めようとした。
でも、その言葉も途中で崩れる。
葵の指先が、少しだけ沈む。
ありえないはずなのに。
皮膚の内側に、触れてくる。
「ねぇ」
静かに囁く。
「これが、ほんとの“常熱”」
その瞬間——
視界が、完全に白く飛んだ。
音も、感覚も、全部が一度消える。
そして。
残ったのは——
鼓動だけだった。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
それが、自分のものなのか。
それとも、葵のものなのか。
もう、分からない。
第五章:常熱(濃密版)
鼓動だけが、残っている。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
それ以外は、全部、曖昧だった。
視界は白い。
音もない。
体の輪郭すら、はっきりしない。
「……ここ、どこだ」
思ったはずなのに、
その“思考”すら輪郭がぼやけている。
ただ、ひとつだけ確かなものがある。
鼓動。
それが、自分のものなのか、
葵のものなのか、
もう区別がつかない。
「……遼」
声が、直接“内側”から響いた。
振り向く感覚もない。
でも、そこに“いる”のがわかる。
「葵……か」
問いかけたのか、確かめたのかも分からない。
「うん」
優しく、でも確実に、返ってくる。
その声は、耳からじゃない。
鼓動と一緒に、体の奥で鳴っている。
「ねぇ」
葵が続ける。
「ここ、何回目だと思う?」
その問いに、妙な既視感があった。
何回目。
その言葉を理解した瞬間、
断片が、頭の奥から浮かび上がる。
海辺。
夕焼け。
彼女の横顔。
そして——
同じ会話。
同じ触れ方。
同じ鼓動。
何度も。
何度も。
何度も。
「……繰り返してるのか」
「うん」
葵は、あっさりと肯定した。
「遼が、ここまで来るたびに」
「……ここまで?」
「うん」
少しだけ、間が空く。
「“溶ける直前”まで」
その言葉で、全部が繋がった。
俺は逃げてきたんじゃない。
“ここに来るために”、
何度もループしていた。
日常の違和感も、
逃げ出した衝動も、
全部がこの一点に収束していた。
「……なんで」
絞り出すように、聞く。
「なんで、繰り返す」
葵は、少しだけ静かになった。
そして、ゆっくりと答える。
「遼が、やめないから」
その一言は、あまりにも静かで、
あまりにも重かった。
「……俺が?」
「うん」
鼓動が、少しだけ強くなる。
「毎回、同じところで迷うの」
「戻るか、進むか」
「でも結局、遼は——」
一拍、間を置いて。
「こっちを選ぶ」
思い出す。
“戻れなくなる”と分かっていても、
それでも手を取った瞬間。
“冷たい日常”よりも、
“熱いこの瞬間”を選んだ感覚。
それが、何度も繰り返されていた。
「……じゃあ、今回も」
言いかけて、止まる。
葵は、すぐに答えなかった。
代わりに、少しだけ近づいてくる“気配”。
触れているのか、
もう分からない距離。
「ねぇ、遼」
鼓動と重なる声。
「今回は、どうする?」
それは、最後の問いだった。
戻るなら、ここで終わる。
また、あのループに戻る。
また、あの“冷たい世界”へ。
進むなら——
完全に、溶ける。
自分と葵の境界も、
時間も、記憶も、全部。
「……」
少しだけ、考えた。
本当に、少しだけ。
そして、気づく。
考える必要なんて、最初からなかった。
「……決まってるだろ」
小さく、笑う。
「ここまで来て、戻るわけない」
その瞬間。
鼓動が、爆発した。
ドクンッッッッ——
今までとは次元が違う振動。
体も、意識も、全部が一気に引き剥がされる。
でも、怖くない。
むしろ。
「……ああ」
満たされていく。
空白だった何かが、
全部埋まっていく。
「それでいいよ」
葵の声が、すぐそばで響く。
「それが、“常熱”だから」
その瞬間——
“境界”が消えた。
自分と葵の区別が、なくなる。
どこまでが自分で、
どこからが彼女なのか。
もう、分からない。
ただひとつ。
鼓動だけが、残る。
ドクン。
それは、ひとつの音。
でも、ふたつ分の存在。
「……ねぇ」
声が、重なる。
「ずっと、ここにいようか」
それが誰の言葉なのか、もう分からない。
でも。
答えは、同じだった。
——ああ。
その肯定と同時に、
世界は、完全に“閉じた”。
最終章:平熱(戻った世界)
気づいたとき、俺は電車の中にいた。
ガタン、ゴトン、と規則的な揺れ。
吊り革を握る手。
同じ方向を向く人間たち。
見慣れた光景。
「……あれ」
小さく、呟く。
どこかで見たことがある。
いや、見たことがあるどころじゃない。
“何度も見てきた光景”。
でも、少しだけ違う。
空気が、冷たい。
冷房のせいじゃない。
もっと、内側から冷えている感覚。
「……戻った、のか」
記憶が、ゆっくりと戻ってくる。
海。
夕焼け。
葵。
そして——
“選ばなかった”感覚。
胸の奥が、少しだけ痛む。
ドクン。
鼓動が鳴る。
でも、その音は。
やけに、小さい。
「……こんなもんだったか」
違和感が、広がる。
前は、これが普通だったはずなのに。
この静かな鼓動も、
この均一な日常も。
全部が“正しい”はずなのに。
「……なんで」
ぽつりと、言葉が漏れる。
こんなに、物足りないんだ。
会社に着く。
いつもの席。
いつものパソコン。
いつもの仕事。
「おはよう」
同僚の声。
「ああ、おはよう」
自然に返す。
会話は成立している。
ちゃんと、意味もある。
言葉は、溶けていない。
なのに。
「……薄いな」
すべてが、薄い。
色も、音も、感情も。
“熱”がない。
昼休み。
外に出る。
空を見上げる。
青い。
ただ、それだけ。
以前なら、何も思わなかったはずなのに。
「……こんな色だったか」
どこか違う。
いや、違わない。
正しい色だ。
でも、“足りない”。
帰り道。
人の流れに乗って歩く。
信号が変わる。
人が動く。
全部が、整いすぎている。
「……まただ」
同じ感覚。
あのとき感じた、“ループ”。
でも今は、それが違う形で迫ってくる。
「……ここに、戻ったのか」
理解してしまう。
ここは、元の世界。
でも。
「……これ、ほんとに“現実”か?」
その夜。
部屋に戻る。
電気をつける。
静かな空間。
「……」
ふと、手を見る。
何もない。
触れていない。
でも。
「……残ってる」
微かに。
ほんの微かに。
熱が、残っている。
指先から、じわりと広がる感覚。
ドクン。
鼓動が、一瞬だけ強くなる。
「……っ」
その瞬間、フラッシュバックする。
夕焼け。
海。
葵の声。
“これが、常熱だよ”
「……葵」
思わず、名前を口にする。
返事はない。
でも。
「……いるだろ」
確信だけがあった。
ベッドに倒れ込む。
天井を見上げる。
白い。
何の変哲もない天井。
でも。
その“シミ”が、ふと目に入る。
「……あれ」
どこかで見たことがある。
いや。
“何度も見てきた”。
その瞬間。
天井のシミが、少しだけ歪む。
ゆらり、と。
「……は?」
目を凝らす。
何も変わっていない。
ただのシミだ。
でも。
“さっき、動いた”。
ドクン。
鼓動が、少しだけ強くなる。
「……またかよ」
思わず、笑ってしまう。
完全には、戻れていない。
いや、違う。
「……戻ってないんだな」
この世界は“平熱”。
でも。
俺の中には、まだ残っている。
あの、異常な熱。
「……どこまで、来るんだよ」
小さく、呟く。
そのとき。
耳元で、かすかな声がした。
「ねぇ」
反射的に、体が固まる。
「……遼」
振り返る。
誰もいない。
でも。
確かに、聞こえた。
「……」
しばらく、何も言えない。
そして、ゆっくりと。
笑う。
「……まだ終わってないのか」
鼓動が、少しずつ速くなる。
平熱の中に、混ざる“常熱”。
この世界は、確かに現実だ。
でも。
“あっち”も、確かに存在している。
そして。
その境界は、もう——
曖昧になっている。
ドクン。
次に目を閉じたとき。
どちらにいるのかは、わからない。
~完~
彼女(月菜)側の視点ストーリも書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ
現実再会編のストーリも書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ
また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ








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