このページは別記事で描いたVaundyの『灯火』という曲をモチーフにした、私の妄想ストーリーの完結編ですφ(・ω・`)
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それでは「灯火 完結編」(´っ・ω・)っすた~と
『灯火(完結編:揺るがない灯り)』
第一章:変わらないもの、変わったもの
ステージ袖に立った瞬間、空気が変わった。
肌に触れる温度が、少しだけ違う。
熱を持っている。
人の数。
視線の密度。
期待みたいなものが、見えない形で漂っている。
「……でかいな」
思わず、口から漏れる。
舞台の向こう側。
カーテンの隙間から見える景色。
前とは、明らかに違う。
人がいる。
ちゃんと、“こっちを見てる人”が。
前は——
まばらだった。
音が届いているのかも分からない中で、
ただ必死に鳴らしていた。
あのときの景色が、ふと頭をよぎる。
数人の観客。
曖昧な反応。
手応えのない拍手。
それでも——
やめなかった。
理由なんて、ちゃんとはなかったけど。
ただ、“やめたくなかった”から。
それだけで続けてきた。
「……ここまで来たな」
小さく呟く。
実感は、ある。
でも——
達成感とは、少し違う。
ゴールに立った感じじゃない。
むしろ——
「まだ途中だな」
そう思う。
ここは終わりじゃない。
ただの通過点。
それが、自然に分かる。
「何が?」
隣から、月菜の声。
振り向くと、いつも通りの顔で立っている。
特別な表情じゃない。
でも——
その“変わらなさ”が、妙に安心をくれる。
「……全部」
少し考えてから、そう答える。
曖昧な言い方。
でも——
それでいい。
月菜は、少しだけ笑う。
「雑すぎでしょ」
軽く突っ込まれる。
でも、そのやり取りが、やけに落ち着く。
「ああ……」
小さく息を吐く。
やっぱり、変わってない。
ここまで来ても。
この距離も。
この空気も。
「……でもさ」
少しだけ続ける。
言葉を探しながら。
「確実に、変わってるよな」
今度は、ちゃんとした言い方。
自分でも分かるくらいに。
月菜が、少しだけ頷く。
「うん」
短く、それだけ。
でも——
ちゃんと同じ認識。
変わったもの。
景色。
音の届き方。
人の数。
求められるもの。
そして——
自分たちの“立っている位置”。
前よりも、明らかに遠くに来ている。
「……でもさ」
ふと、言葉が続く。
「変わってない部分も、あるよな」
それは、確認に近かった。
月菜が、少しだけこちらを見る。
「どこ?」
その問いに、少しだけ考える。
頭の中で、いろんなものが浮かぶ。
そして——
「理由」
そう答える。
シンプルに。
でも——
一番核心の部分。
「なんでやってるか」
続ける。
「そこ、変わってない」
その言葉に、月菜が少しだけ目を細める。
「……だね」
小さく頷く。
「やめたくないから」
その一言で、全部が繋がる。
最初と同じ。
何も見えてなかった頃。
それでも続けていた理由。
それが——
今も変わっていない。
「……それで、ここまで来たんだよな」
少しだけ笑う。
才能とか、運とか。
いろいろあるかもしれない。
でも——
一番大きいのは、それだった。
「やめなかったこと」。
それだけ。
しばらく、沈黙。
でも——
重くない。
むしろ、心地いい。
過去と今が、静かに繋がっていく感じ。
「ねぇ」
月菜が、ふいに口を開く。
「……ん?」
「最初のときさ」
少しだけ笑う。
「めちゃくちゃ下手だったよね」
その言葉に、思わず笑う。
「お前もな」
すぐに返す。
「いや、私は今もそんな変わってないし」
「それは否定しろよ」
軽くぶつける。
そのやり取りが、やけに懐かしい。
あの頃と同じ。
何もなかった頃。
でも——
一番大事なものがあった頃。
「……でもさ」
月菜が、少しだけ真面目な声になる。
「楽しかったよね」
その一言に、少しだけ黙る。
楽しかった。
確かに。
うまくいかなくても。
何も見えてなくても。
ただ、音を鳴らしてるだけで。
「……ああ」
小さく頷く。
「今も、そうだけどな」
その言葉に、月菜が少しだけ笑う。
「だね」
短く、それだけ。
でも——
それで十分だった。
変わったものと、変わらないもの。
両方がある。
どっちも本当。
どっちも大事。
「……なぁ」
ふと、口を開く。
「ここまで来ると思ってた?」
少しだけ、過去に向けた質問。
月菜が、少しだけ考える。
そして——
「思ってない」
即答。
でも——
その顔は、前を向いている。
「でも」
続ける。
「来れる気はしてた」
その言葉に、少しだけ息を吐く。
ああ——
それだ。
確信じゃない。
保証もない。
でも——
“行ける気がする”。
その感覚だけで、ここまで来た。
「……不思議だな」
小さく呟く。
「うん」
月菜が頷く。
「でも、それでいいんだよ」
その言葉に、少しだけ頷く。
全部分かってたら、ここにはいない。
見えないから、進めた。
分からないから、続けられた。
「……そろそろだな」
スタッフの合図が聞こえる。
出番が近い。
「うん」
月菜が頷く。
その一瞬で、空気が切り替わる。
さっきまでの静かな時間から——
“ここに立つ理由”へ。
「……行くか」
小さく言う。
「うん」
短く返ってくる。
それだけで、全部が揃う。
変わったもの。
変わらないもの。
全部持ったまま——
ステージへ向かう。
第二章:揺れたから、分かる
本番前の控室。
さっきまでのざわめきが、少し遠くに感じる。
ドア一枚向こうには、あの熱がある。
でもここは——
妙に静かだった。
「……静かだな」
小さく呟く。
自分の声が、少しだけ浮く。
「緊張してる?」
月菜が聞く。
ギターの弦を、軽く触りながら。
ジャラン——
かすかな音が、空気を揺らす。
「……してる」
正直に答える。
隠す意味もない。
「まぁ、そりゃするか」
小さく笑う。
でも——
それだけじゃない。
ただの緊張とは違う。
ここまで来た重みみたいなもの。
それを、少しだけ感じている。
「ねぇ」
月菜が、ふと口を開く。
その声で、少しだけ意識が引き戻される。
「……ん?」
「この前のさ」
少しだけ間を置く。
「すれ違ったやつ」
その言葉に、自然と視線が落ちる。
忘れていない。
むしろ——
ずっと残っている。
「……ああ」
短く返す。
それだけで、十分伝わる。
「あのときさ」
月菜が続ける。
「ちょっと怖かった」
その一言に、少しだけ息が止まる。
“怖い”。
その言葉の重さを、ちゃんと受け取る。
「何が」
自然と聞く。
ちゃんと知りたかった。
「壊れるかもって思った」
静かな声。
でも——
はっきりしている。
逃げていない。
その言葉が、胸に落ちる。
あのときの空気。
言葉のぶつかり。
止まった音。
確かに——
一歩間違えれば、終わっていたかもしれない。
「……だな」
小さく頷く。
否定できない。
「でも」
月菜が続ける。
「壊れなかった」
その言葉に、少しだけ笑う。
「だな」
もう一度、同じ言葉。
でも——
さっきとは意味が違う。
「なんでだと思う?」
月菜が、こっちを見る。
試すように。
でも——
ちゃんと答えたいと思う。
少しだけ考える。
あのとき、何が違ったのか。
どうして終わらなかったのか。
そして——
「逃げなかったからだろ」
そう答える。
シンプルに。
でも——
それが一番しっくりくる。
「……うん」
月菜が頷く。
「それもある」
少しだけ柔らかい声。
「でもさ」
一歩、近づく。
距離が、ほんの少し縮まる。
「それだけじゃないと思う」
その言葉に、少しだけ息を呑む。
「じゃあ、何だよ」
自然と聞く。
今度は、ちゃんと聞ける。
月菜が、少しだけ考える。
そして——
「壊れないって、どっかで分かってた」
その一言が、静かに落ちる。
でも——
深く刺さる。
「……なんで?」
聞かずにはいられない。
月菜が、少しだけ笑う。
「分かんない」
正直な答え。
でも——
それでいい。
「でも」
続ける。
「ここまで来たから」
その言葉に、全部が繋がる。
ああ——
そうか。
一回の言葉じゃない。
一回の感情じゃない。
これまでの全部。
出会って、
迷って、
続けて、
ぶつかって。
その積み重ねが——
「壊れないって思える理由」になっている。
「……なるほどな」
小さく息を吐く。
腑に落ちる。
全部。
「あのときさ」
ふと、口を開く。
「正直、めんどくさいって思った」
正直な言葉。
隠さない。
月菜が、少しだけ笑う。
「私も」
同じだった。
やっぱり。
「でも」
続ける。
「やめようとは思わなかった」
そこが、違う。
一番大事なところ。
「うん」
月菜が頷く。
「それが全部だと思う」
その言葉に、少しだけ笑う。
シンプルすぎるくらい。
でも——
間違っていない。
「……結局さ」
少しだけ天井を見る。
「やめないって決めてるんだよな」
それが、全部。
どんなにズレても。
ぶつかっても。
見えなくなっても。
「……だね」
月菜が、小さく答える。
その声が、やけに近い。
「だから、怖くても戻れる」
続ける。
「だから、壊れない」
その言葉に、月菜が少しだけ目を細める。
「……うん」
それだけで、十分だった。
沈黙。
でも——
今度の沈黙は、重くない。
むしろ、落ち着く。
全部、言葉にしなくても分かる。
「……なぁ」
ふと、口を開く。
「ん?」
「ありがとう」
小さく言う。
照れもある。
でも——
言いたかった。
月菜が、少しだけ驚いた顔をする。
そして——
「急に何」
少しだけ笑う。
でも、その目は柔らかい。
「いや、なんか」
言葉を探す。
「ちゃんとぶつかってくれて」
それが、本音だった。
避けずに。
逃げずに。
向き合ってくれたこと。
「……そっか」
月菜が、小さく頷く。
「こっちこそ」
短く、それだけ。
でも——
それで十分だった。
ジャラン——
ギターを軽く弾く。
音が、柔らかく響く。
さっきよりも、ずっと近い。
「……行くか」
小さく言う。
「うん」
月菜が頷く。
その一瞬で、全部が揃う。
揺れたから、分かった。
ぶつかったから、繋がった。
それが——
この関係の強さ。
ドアの向こうに、光がある。
でも——
もう迷わない。
ここまで来た理由が、ちゃんと分かっているから。
第三章:確信
ステージへ向かう通路。
薄暗い照明の中を、ゆっくり歩く。
コツ、コツ。
足音が、一定のリズムを刻む。
さっきまでの控室の静けさとは違う。
少しずつ、音が近づいてくる。
歓声。ざわめき。期待。
全部が混ざった空気。
でも——
不思議と、重くない。
「……なぁ」
歩きながら、口を開く。
前を見たまま。
「うん?」
月菜が、隣で返す。
その距離が、やけに自然だった。
「ここまで来たな」
ぽつりと呟く。
確認みたいな言葉。
でも——
実感だった。
あの頃。
何も見えてなかった頃。
音だけを頼りに、進んでいた頃。
その全部が、ここに繋がっている。
「……だね」
月菜が、小さく頷く。
それだけで、十分だった。
全部共有されている。
「でもさ」
少しだけ言葉を続ける。
「まだ途中だな」
自然に出た言葉。
強がりでも、謙遜でもない。
ただの事実。
「うん」
月菜も頷く。
「むしろ、ここからでしょ」
その一言に、少しだけ笑う。
ああ——
同じことを思ってる。
ゴールじゃない。
通過点。
それが、ちゃんと分かっている。
通路の先に、光が見える。
ステージの光。
強くて、白い。
その先に、音がある。
でも——
足は止まらない。
迷いもない。
「……なぁ」
もう一度、口を開く。
今度は、少しだけゆっくり。
「うん?」
「なんかさ」
言葉を探す。
でも——
ちゃんと伝えたい。
「分かった気がする」
そう言う。
月菜が、少しだけ視線を向ける。
「何が?」
その問いに、迷わず答える。
「なんでここまで来れたのか」
その言葉に、少しだけ空気が変わる。
静かに。
でも、確実に。
月菜は、何も言わない。
ただ、聞いている。
「最初はさ」
少しだけ、過去を辿る。
「あいつの音、なんかいいなって思っただけだった」
曖昧な理由。
でも——
それが全部の始まり。
「で、続けて」
「見えなくて」
「それでもやって」
言葉が、自然と繋がる。
「途中で、何回も分かんなくなって」
「ぶつかって」
「それでもやめなくて」
そこまで言って、少しだけ息を吐く。
「……で、ここ」
短くまとめる。
でも——
全部入っている。
月菜が、少しだけ笑う。
「長いね」
軽く言う。
でも、その声は柔らかい。
「まぁな」
少しだけ笑い返す。
「でもさ」
続ける。
ここが、一番大事なところ。
「全部、それでよかったって思える」
はっきりと言う。
迷いなく。
あの迷いも、
あのすれ違いも、
あの不安も。
全部含めて。
「……うん」
月菜が、静かに頷く。
その一言で、全部が繋がる。
同じ場所にいる。
同じ感覚で。
「だからさ」
最後に、言葉を置く。
「どこまででも行ける」
それは、強い言葉だった。
でも——
大げさじゃなかった。
未来は見えない。
成功も分からない。
それでも——
「行ける」
そう思える理由が、ちゃんとある。
胸の中に。
「……そっか」
月菜が、小さく笑う。
少しだけ、優しい顔で。
「私も」
短く、それだけ。
でも——
それで十分だった。
同じ確信。
同じ灯り。
それがある。
通路の先。
光が、すぐそこまで来ている。
音も、はっきり聞こえる。
もうすぐ。
「……行くぞ」
小さく言う。
「うん」
月菜が頷く。
その一瞬で、全部が揃う。
迷いも、不安も、全部持ったまま。
でも——
それでも進める。
それが、確信。
一歩、踏み出す。
光の中へ。
音の中へ。
そして——
その先へ。
最終章:揺るがない灯火
光が、視界を覆う。
一歩踏み出した瞬間、世界が変わる。
暗闇から、一気に白へ。
眩しさに、ほんの一瞬だけ目が細くなる。
そのあと——
景色が、戻ってくる。
客席。
人の影。
無数の視線。
全部が、こっちを見ている。
「……」
何も言わない。
言葉は、いらなかった。
隣を見る。
月菜が、そこにいる。
いつも通りの距離。
いつも通りの立ち位置。
でも——
その存在が、今は何よりもはっきりしている。
「……行くか」
小さく言う。
声に出す必要はないくらいの音量。
それでも——
ちゃんと届く。
「うん」
月菜が、短く頷く。
それだけで、全部が揃う。
深呼吸をひとつ。
肺に空気が入る。
心臓が、強く鳴る。
でも——
怖くはない。
逃げたいとも思わない。
ただ——
「ここだな」
そう思う。
ジャラン——
一音目を鳴らす。
その瞬間、空気が変わる。
分かる。
音が、ちゃんと前に出ている。
ただの振動じゃない。
意志を持った音。
ここから、鳴っている音。
月菜の音が重なる。
ジャラン——
リズムが合う。
ほんの少し揺れる。
でも——
それでいい。
揺れたまま、重なる。
それが、強さになる。
歌い出す。
声が出る。
震えない。
完璧じゃない。
でも——
逃げていない。
その一音一音に、ちゃんと意味がある。
観客の表情が、少しずつ変わる。
分かる。
ほんの少し。
でも確実に。
届いている。
いや——
「届かせてる」
その感覚が、はっきりある。
サビに入る。
音を強くする。
声を上げる。
前よりも、ずっと遠くへ。
でも——
一番大事なのは、そこじゃない。
「ここにいること」
その実感。
それだけで、全部が満たされる。
あの頃。
何も見えていなかった。
ただ、音を鳴らしていただけ。
それでも——
やめなかった。
理由なんて、分からなかったけど。
ただ——
「やめたくなかった」
それだけで続けてきた。
迷って、
ぶつかって、
見えなくなって。
それでも——
戻ってきた。
何度でも。
その全部が、今ここにある。
ジャラン——
音が広がる。
前よりも、遠くへ。
でも——
確実に、ここから。
隣を見る。
月菜が、同じように弾いている。
同じリズムで。
同じ温度で。
その瞬間、確信する。
「……ああ」
心の中で、静かに思う。
間違ってなかった。
ここまで来たことも。
続けてきたことも。
この人とやってきたことも。
全部。
ふたつの音が、重なる。
ひとつになるわけじゃない。
それぞれのまま。
でも——
重なって、強くなる。
それが、この関係。
それが、この音。
観客の向こう側。
さらにその先。
見えない未来。
その全部に向かって、音が伸びていく。
届くかどうかは、分からない。
でも——
「行ける」
そう思える。
理由は、もう分かっているから。
灯りは、消えなかった。
揺れた。
何度も。
見えなくなったこともあった。
でも——
消えなかった。
むしろ——
強くなった。
ふたつになって。
重なって。
揺るがないものになった。
ジャラン——
最後の音を鳴らす。
余韻が、空間に広がる。
静寂。
一瞬の、完全な静けさ。
そのあと——
拍手。
音が、返ってくる。
前よりも、はっきりと。
大きく。
でも——
それ以上に。
「……届いたな」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもなく。
ただ、自分の中で。
隣を見る。
月菜が、少しだけ笑う。
何も言わない。
でも——
分かる。
同じことを思っている。
光の中。
音の中。
その中心に、2人がいる。
でも——
それがゴールじゃない。
ただの“今”。
この先も、続いていく。
どこまでも。
どこまでも。
灯火を持ったまま。
エピローグ:その先に続く光
夕方の光が、街をやわらかく染めていた。
少しだけ低くなった太陽。
長く伸びる影。
その中を、ふたりで歩いている。
コツ、コツ。
足音が、ゆっくりと重なる。
「……懐かしいな」
ぽつりと呟く。
この道。
何度も通った帰り道。
何もなかった頃も、
少しずつ変わっていった頃も、
全部ここを歩いていた。
「だね」
月菜が、少しだけ笑う。
その表情は、昔と少しだけ変わっている。
でも——
変わっていない部分の方が、はっきり分かる。
「最近さ」
少しだけ空を見上げる。
「こういう時間、減ったよな」
ライブも増えた。
遠くに行くことも多くなった。
忙しくなった分、
こうして並んで歩く時間は減っていた。
「そうだね」
月菜が頷く。
でも、その声は落ち着いている。
寂しさよりも、受け入れている感じ。
「でも」
少しだけ続ける。
「なくなってはない」
その一言に、少しだけ笑う。
ああ——
そうか。
全部が変わったわけじゃない。
ちゃんと、残っている。
「……なぁ」
ふと、口を開く。
「うん?」
「覚えてる?」
少しだけ笑いながら言う。
「あのときのこと」
具体的には言わない。
でも——
それで伝わる。
月菜が、少しだけ考える。
そして——
「どれ?」
わざとらしく返す。
「いっぱいあるでしょ」
少しだけ笑う。
そのやり取りが、懐かしい。
「……最初のやつ」
言い直す。
「音、聞いたときの」
その言葉で、空気が少しだけ変わる。
静かに。
でも、確実に。
「ああ」
月菜が、小さく頷く。
「あれね」
少しだけ、遠くを見る目。
思い出している。
同じものを。
「下手だったよな」
「うるさい」
即座に返ってくる。
でも——
その声は柔らかい。
「でもさ」
少しだけ続ける。
「あのときの音、なんか良かった」
正直に言う。
飾らずに。
月菜が、少しだけ黙る。
そして——
「そっちもね」
小さく返す。
それだけで、十分だった。
沈黙。
でも——
心地いい。
コツ、コツ。
足音が、夕方に溶けていく。
「……結局さ」
ふと、口を開く。
「なんで続けてんだろうな」
今さらの問い。
でも——
ちゃんと考えたくなる。
月菜が、少しだけ笑う。
「またそれ?」
少し呆れたように。
でも——
嫌じゃなさそうに。
「いや、なんかさ」
言葉を探す。
「昔は、“やめたくないから”だったじゃん」
あの頃の理由。
シンプルで、曖昧なもの。
「今は?」
月菜が聞く。
少しだけ興味を持った顔で。
少しだけ考える。
そして——
「……それもあるけど」
正直に言う。
「それだけじゃないな」
続ける。
月菜が、黙って聞いている。
「ここまで来たから、とか」
「まだ見たいから、とか」
言葉を並べる。
でも——
どれもしっくりこない。
「……でもさ」
少しだけ笑う。
「一番は、たぶん」
言葉を選ぶ。
ちゃんと、届くように。
「一緒にやってるからだな」
その一言で、全部がまとまる。
月菜が、少しだけ止まる。
そして——
ゆっくり歩き出す。
「……そっか」
小さく頷く。
「それなら、納得」
その言葉に、少しだけ息を吐く。
ああ——
やっぱり、ここに戻るんだ。
「そっちは?」
軽く聞く。
月菜が、少しだけ考える。
そして——
「同じ」
短く、それだけ。
でも——
それで十分だった。
コツ、コツ。
足音が、また重なる。
夕日が、少しずつ沈んでいく。
空の色が、ゆっくり変わる。
「……なぁ」
ふと、口を開く。
「うん?」
「どこまで行けると思う?」
昔と同じ質問。
でも——
意味は少しだけ変わっている。
月菜が、少しだけ笑う。
「分かんない」
即答。
でも——
その顔は、前を向いている。
「でも」
少しだけ続ける。
「まだ行けるでしょ」
その言葉に、少しだけ笑う。
ああ——
変わってない。
この感じ。
「……だな」
小さく頷く。
未来は見えない。
それは、今も同じ。
でも——
もう迷わない。
「行ける」と思える理由が、ちゃんとある。
胸の中に。
灯りとして。
コツ、コツ。
足音が、夜へと変わる時間に溶けていく。
光は、少しずつ弱くなる。
でも——
消えない。
あのとき見つけた、小さな灯火。
それは今も、ここにある。
揺れながら。
重なりながら。
少しずつ強くなりながら。
この先も、ずっと。
どこまでも。
どこまでも。
~完~
また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ












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