『灯火』Vaundy。”分からないままでいい。それでも進め”

Vaundy

本日ご紹介するのは、『Vaundy(バウンディ)』のナンバーから

『灯火』【作詞・作曲:Vaundy】

歌詞全文はこちらのリンクから→https://www.uta-net.com/song/284825/

Vaundyの「灯火(ともしび)」は、2020年4月29日に配信リリースされた楽曲で、1stアルバム『strobo』に収録されています。FODドラマ『東京ラブストーリー』の主題歌として書き下ろされ、ドラマの切ない雰囲気とマッチしたバラード曲として話題になりました。

この曲の歌詞をざっくり考察します。(´っ・ω・)っすた~と

この曲は、かなり抽象的な言葉で書かれているけど、実は一貫して
「見えない中でも進み続ける人間の本質」
「不完全なままでも生きる強さ」
を描いている曲。

■全体テーマ

この曲を一言でいうと

「見えないまま進むための“内側の光(灯火)”の話」


■冒頭:感情と自己の分解

単調な足音に
メロディーを乗せたら
感情が淘汰してく
自尊心と僕の悲哀を

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy

ここはかなり重要。

●意味

  • 単調な足音=日常・生きることそのもの
  • メロディー=音楽・表現・感情

日常に「音楽(表現)」を乗せた瞬間、
自分の中の感情が削ぎ落とされていく。


●「淘汰してく」の意味

  • 不要な感情が消える
  • 本質だけ残る

音楽=自分の本音を浮き彫りにするもの


■核心①:「見えない」と「見えている」の対比

見えない見えないものを
見えてる見えてる「本当」に
見えない見えない本当を
見えてる見えてる感動に

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy

ここはこの曲の哲学。


●構造

  • 本当は見えてないものを「見えてる」と思い込む
  • 本当は見えてるものを「見えてない」と思う

●意味

人は“認識を間違えて生きている”

  • 感動=分かった気になっている状態
  • 本当=まだ理解できていない深い部分

●つまり

「分かってるつもり」が一番危ない


■核心②:運命と世界の歌

探した僕の運命と
揺るぎない世界の歌
そんな場所に僕たちは
いつまでも生きている

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy


●意味

  • 運命=自分が選び取るもの
  • 世界の歌=変わらないルール・現実

個人と世界の間で生きているのが人間


●ポイント

「見つけた」じゃなくて「探した」

つまり
答えはまだない(でも探している)


■裏テーマ:裏切られる現実

交わした天の約束を
裏切られたとしても
そんなことに僕たちは
気付かずに生きていくだけ

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy


●意味

  • 理想や約束は壊れる
  • でも人はそれに気づかず(または目を逸らして)生きる

人間の鈍感さ=生きるための防御


■現実の認識

完璧な理想郷など
僕らにはあり得はしないから

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy

ここで一度、現実を断言する。

理想の世界は存在しない


でもこの曲は絶望で終わらない。


■核心③:「それでも進む」意志

揺るぎないね僕たちは
何度も声を上げて
ありもしない滑走路
羽を広げ走る

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy


●意味

  • 滑走路=未来・成功の道
  • ありもしない=保証はない

それでも人は飛ぼうとする


●ポイント

「飛ぶ」じゃなくて「走る」

→まだ飛べていない
→でも止まらない


■クライマックス:迷いと選択

どうしよう
どこへ行こうか

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy

ここで一気に“人間らしさ”が出る。

迷っている状態そのものがリアル


●でも続く

見えない地図を僕は必死に探して歩いている

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy

未来は見えない前提


■最重要メッセージ(ここがタイトル回収)

まだ見えない未来を僕ら
灯火で照らしていくから

Vaundy「灯火」作詞・作曲:Vaundy


●灯火の正体

外の光じゃない
“自分の中の小さな意志”


●意味

  • 完璧な答えはない
  • 正しい道もない

それでも

自分の小さな光で進むしかない


■ラスト:ループ構造の意味

最後に同じ歌詞が繰り返される。


●意味

人間はずっと同じことを繰り返す

  • 迷う
  • 探す
  • 見えない
  • それでも進む

■まとめ(この曲の本質)

この曲の本当のメッセージは

「分からないままでいい。それでも進め」


●さらに深く言うと

  • 見えなくていい
  • 正解じゃなくていい
  • 完璧じゃなくていい

それでも

「やめないこと」それ自体が灯火

以上私なりの歌詞解釈でした。

続きまして、この曲を聴いて膨れ上がった私の妄想ストーリ(歌詞解釈)をチラッとお見せいたします
|ω・)チラッ

『灯火』

第一章:単調な足音

夜の駅のホームは、どこか現実感がなかった。

終電間際の時間帯。
人はいるのに、まるで“いない”みたいに静かで、
空気だけがやけに澄んでいる。

コツ、コツ、コツ。

自分の足音だけが、やけに大きく響いた。

一定のリズム。
狂いのないテンポ。
まるで機械みたいに繰り返されるその音に、ふと違和感を覚える。

「……なんか、音楽みたいだな」

誰に聞かせるでもなく、呟く。

その瞬間だった。

頭の中で、勝手にメロディーが乗る。

単調だったはずの足音に、意味が生まれる。
ただの“歩く音”だったはずのものが、
まるで何かを伝えようとしているみたいに変わっていく。

でも——

そのメロディーは、どこか歪んでいた。

綺麗じゃない。
整ってもいない。
むしろ、感情が削ぎ落とされていくような、不気味な感覚。

「……違うな」

小さく首を振る。

今の自分には、音楽を“乗せる資格”なんてない。

そう思った瞬間、
胸の奥に沈んでいたものが、じわりと浮かび上がってくる。

——辞めたんだろ?

誰かの声みたいに、それは響いた。

大学を。

音楽を。

“夢だったはずのもの”を。

理由なんて、いくらでも並べられる。

才能がないと思ったから。
現実を見たから。
周りに置いていかれた気がしたから。

でも本当は——

「怖かっただけだろ」

自分で、自分に言い聞かせる。

続けることも。
失敗することも。
成功してしまうことさえも。

全部、怖かった。

だから、やめた。

それだけの話だ。

自尊心は、まだどこかに残っているくせに。
それを支えるだけの覚悟は、どこにもなかった。

中途半端なまま、ここにいる。

コツ、コツ、コツ。

また足音が響く。

さっきまで“音楽”に聞こえていたそれは、もうただの音に戻っていた。

いや、違う。

ただの音ですらなくなっていた。

意味を持たない、ただの繰り返し。

それが、今の自分そのものみたいで。

「……はは」

乾いた笑いが漏れる。

視界の端で、電車がゆっくりと滑り込んできた。

風が吹く。
冷たい空気が、頬を撫でる。

その瞬間だけ、少しだけ現実に引き戻される。

でもまたすぐに、感覚はぼやける。

何をしているのか。
どこへ向かっているのか。

分かっているはずなのに、分からない。

見えているのに、見えていない。

そんな感覚。

ふと、改札の向こうに視線がいった。

誰かが、立っている。

こちらを見ている。

そして——手を振った。

一瞬、誰か分からなかった。

でも、その仕草だけで分かる。

昔から変わらない、少し大きめの動き。

「……月菜か」

思わず、小さく呟いた。

月菜(るな)。

幼なじみ。

気づけば、ずっと隣にいた存在。

でも、今は少しだけ距離がある気がする。

時間のせいなのか。
自分のせいなのか。

分からないまま、足を進める。

コツ、コツ、コツ。

今度の足音は、さっきよりも少しだけ重かった。

改札を抜けると、月菜は少しだけ眉を寄せて言った。

「遅いよ」

その声は、いつもと同じだった。

変わらないはずのその一言に、なぜか少しだけ安心する。

「……悪い」

短く返す。

それ以上の言葉が出てこない。

月菜は、じっとこちらを見ていた。

何かを見透かすような目。

でも、何も言わない。

ただ、少しだけ息を吐いてから——

「行こ」

それだけ言って、歩き出した。

その背中を追いながら、ふと思う。

きっと月菜には、見えている。

今の自分が、どれだけ曖昧で、
どれだけ中途半端で、
どれだけ“見えないものの中”にいるのか。

でも、自分にはまだ見えない。

未来も。
本当も。
進むべき道も。

それでも——

なぜか、完全に暗闇じゃない気がした。

月菜の背中が、ほんの少しだけ。

“灯り”みたいに見えたから。

第二章:見えているもの

夜の街は、やけに静かだった。

駅前の喧騒を抜けると、急に音が減る。
車の音も、人の話し声も、遠くに引いていく。

その中で、ふたりの足音だけが残る。

コツ、コツ。

規則的なはずなのに、どこか不揃いなリズム。

さっきホームで感じた違和感が、まだ消えていなかった。

「コンビニ寄っていい?」

前を歩く月菜が、振り返らずに言った。

「……ああ」

短く返す。

それだけなのに、言葉がやけに重く感じる。

店内に入ると、人工的な光が一気に視界を満たした。

明るすぎるくらいの白い光。
整いすぎた陳列。
同じ形のものが、同じように並んでいる。

全部が“分かりやすい”。

全部が“見えている”。

でも——

「……なんか、息苦しいな」

無意識に漏れた言葉に、自分で少し驚く。

月菜が、ちらっとこちらを見る。

「分かる」

あっさりと、そう言った。

「ここ、なんでも揃ってるのにさ」

カゴに適当に飲み物を入れながら続ける。

「なんか、“何もない感じ”するよね」

その言葉に、妙に納得してしまう。

選べるはずなのに、選べない。
満たされてるはずなのに、空っぽ。

それは、今の自分そのものだった。

会計を済ませて外に出ると、夜の空気が少しだけ優しく感じた。

ベンチに座る。

缶コーヒーのプルタブを開ける音が、やけに大きく響いた。

しばらく、沈黙。

でも、その沈黙は苦しくなかった。

むしろ——何かが始まる前の、静かな“間”みたいだった。

「最近さ」

月菜が、ぽつりと口を開く。

「何してんの?」

予想していた質問だった。

でも、答えは用意していなかった。

「……別に。なんも」

自分でも分かるくらい、薄い返事。

「嘘だね」

即答だった。

間髪入れず、まっすぐに。

「……なんでそう思うんだよ」

少しだけ棘のある声になった。

月菜は、それを気にした様子もなく続ける。

「なんもしてない人ってさ」

一度言葉を区切ってから、

「そんな顔、しない」

その一言で、呼吸が止まった気がした。

「……どんな顔だよ」

なんとか絞り出す。

月菜は少しだけ考える素振りをしてから、

「“探してる顔”」

そう言った。

その言葉が、まっすぐ胸に入ってくる。

否定しようとした。

でも、できなかった。

探している。

何を?

分からない。

でも確かに、何かを探している。

ずっと。

「ねぇ」

月菜が続ける。

「今さ、見えてる?」

「……何が」

「自分の行き先」

夜風が、少しだけ強く吹いた。

缶コーヒーの表面に、冷たい水滴が浮かぶ。

「……見えてるわけないだろ」

苦笑混じりに答える。

「そっか」

それだけだった。

否定も、励ましもない。

ただ受け止めるだけの一言。

その“何も言わなさ”が、逆に重かった。

「でもさ」

月菜が、空を見上げながら言う。

「見えてる人なんて、いないと思うよ」

「……は?」

「みんなさ、“見えてるフリ”してるだけ」

街灯の光が、彼女の横顔を照らす。

その表情は、いつもより少しだけ大人びて見えた。

「“これが正しい”とか、“これが本当”とか」

静かに、でもはっきりと続ける。

「全部、後付けじゃん」

言葉が、胸の奥に沈んでいく。

「感動したものを“本当”だって思い込んで」

「それに意味をつけて、納得してるだけ」

——じゃあ、本当って何だ?

口に出そうとして、やめた。

きっと、それも“答えのない問い”だ。

「見えないものをさ」

月菜が、小さく笑う。

「“見えてる”って言ってるだけなんだよ、たぶん」

風が止む。

一瞬、世界が静止したみたいに感じた。

見えているもの。

信じているもの。

正しいと思っていたもの。

全部が、少しだけ揺らぐ。

「……じゃあさ」

自分でも驚くくらい、小さな声が出た。

「俺が信じてた“夢”も、そうなのかよ」

少しだけ間があいた。

月菜は、すぐには答えなかった。

その沈黙が、やけに長く感じる。

そして——

「うん」

静かに、でもはっきりと頷いた。

「たぶん、そう」

胸の奥で、何かが崩れる音がした。

でも同時に——

どこかで、少しだけ楽になった気もした。

「でもさ」

月菜が続ける。

「それって“ダメ”なことじゃないよ」

視線をこちらに向ける。

まっすぐに。

「むしろ、それしかなくない?」

その言葉に、息が詰まる。

見えないものを信じるしかない。

不確かなものに意味を見つけるしかない。

それが——

「……人間ってことか」

ぽつりと呟く。

月菜は、少しだけ笑った。

「たぶんね」

その笑顔は、どこか柔らかくて。

でも同時に、逃げ場を与えない強さがあった。

遠くで、車の音がした。

現実が、少しずつ戻ってくる。

それでも——

さっきまでとは、少しだけ違う。

見えていないことを、認めたからかもしれない。

「……帰るか」

立ち上がる。

月菜も、何も言わずに立ち上がった。

また歩き出す。

コツ、コツ。

足音は相変わらず単調だ。

でも——

ほんの少しだけ、その音に“意味”が戻ってきた気がした。

まだはっきりとは見えない。

でも確かに、何かが動き始めている。

そんな感覚だけが、胸の中に残っていた。

第三章:本当は見えない

帰り道の途中、公園に寄った。

理由はなかった。
ただ、なんとなく足が止まっただけ。

夜の公園は、昼間とはまるで別の場所みたいだった。

遊具は影になって、
ベンチは冷たく、
街灯の光だけが、ぽつぽつと地面を照らしている。

その“途切れた光”の中に、ふたりで座る。

「ここ、昔よく来てたよね」

月菜が、ブランコの方を見ながら言った。

「……ああ」

短く返す。

小さい頃は、何も考えずにここに来ていた。

笑って、走って、転んで。

“意味”なんて、ひとつもなかったのに、
あの時間は確かに“本物”だった気がする。

「ねぇ」

月菜が、静かに続ける。

「“本当”ってさ」

少しだけ間を置いて、

「見えてると思う?」

その問いは、軽いようで重かった。

「……分からないな」

正直に答える。

分からないものを、分かったふりする気にはなれなかった。

「だよね」

月菜は、小さく頷いた。

「私も分かんない」

その言い方が、少し意外だった。

もっと“答えを持ってる側”だと思っていたから。

「でもさ」

彼女は、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「たぶん、“見えてる”って思ってるものほど、怪しいよ」

風が吹いて、木の葉が揺れる。

その音が、やけに近く感じた。

「“これが正しい”とか、“これが本当だ”とか」

「そういうのってさ、だいたい誰かが決めたやつじゃん」

「親とか、先生とか、社会とか」

言葉が、静かに積み重なっていく。

「それを、自分の中にそのまま入れて」

「“これは正しい”って信じてるだけ」

胸の奥が、じわじわと熱くなる。

思い当たることが、多すぎた。

「……じゃあさ」

思わず口を開く。

「自分で選んだつもりのものも、結局は誰かの影響ってことかよ」

「うん」

迷いなく、頷く。

「たぶんね」

あまりにもあっさりしていて、
逆に逃げ場がなかった。

「でもね」

月菜は続ける。

「だからって、“全部嘘”ってわけじゃないと思う」

視線を空に向ける。

雲の隙間から、かすかに星が見えた。

「見えてないだけで、“ある”ものもあるじゃん」

「例えば?」

「……気持ち、とか」

その言葉に、少しだけ息が詰まる。

「好きとか、悔しいとか、楽しいとか」

「それって目に見えないけど、“ある”でしょ?」

「……まあな」

「でも、それもさ」

少しだけ声のトーンが落ちる。

「本当に“本当”かどうかは、分かんないよね」

その一言で、世界がまた揺れた。

感情すら、確かなものじゃないのか。

じゃあ——

何を信じればいい?

何を軸にして、生きていけばいい?

「……じゃあさ」

声が、少しだけ震えた。

「俺が今まで信じてきたものって、なんだったんだよ」

夢。

音楽。

“これで生きていく”って決めた、あの日の気持ち。

あれすらも、不確かなものなのか。

月菜は、少しだけ考えるように黙った。

その沈黙が、やけに長く感じる。

そして——

「“本当”じゃなくても、よくない?」

静かに、そう言った。

「……は?」

思わず聞き返す。

「だってさ」

月菜は、少しだけ笑う。

「“本当かどうか”って、そんなに大事?」

言葉を失う。

「それよりさ」

こちらをまっすぐ見る。

「“それを信じたいかどうか”の方が、大事じゃない?」

胸の奥で、何かが引っかかった。

「信じたいか……」

小さく繰り返す。

「うん」

月菜は頷く。

「見えてるかどうかじゃなくて」

「“見たいかどうか”」

その言葉は、妙にしっくりきた。

見えていない未来。

不確かな夢。

それでも——

「……俺は」

自然と、言葉が出る。

「音楽、やりたいと思ってる」

それは、久しぶりに口にした“本音”だった。

誰に言い訳するでもなく、
誰かに見せるためでもなく。

ただ、自分の中から出てきた言葉。

月菜は、それを聞いて、少しだけ安心したように笑った。

「それでいいじゃん」

シンプルな一言。

でも、それだけで十分だった。

「本当かどうかなんてさ」

彼女は立ち上がる。

「あとから勝手についてくるよ」

夜風が、少しだけ強く吹いた。

木々が揺れて、影が揺らぐ。

その中で——

さっきまで見えなかったものが、少しだけ形を持ち始めた気がした。

確信じゃない。

答えでもない。

でも——

「……見えなくても、進めるか」

ぽつりと呟く。

月菜は、振り返らずに言った。

「むしろ、その方が普通だよ」

その背中を追って、歩き出す。

コツ、コツ。

足音は変わらない。

でも、その一歩一歩に、少しだけ“意志”が乗った気がした。

見えないままでいい。

分からないままでいい。

それでも——

自分で選んで、進む。

その小さな決意が、胸の奥に灯った。

まだ弱い。

今にも消えそうな光。

それでも確かに——

“灯火”だった。

第四章:天の約束

夜は、少しだけ深くなっていた。

街灯の数が減っていくにつれて、
光と影の境目が曖昧になる。

見えているはずの道が、ところどころで途切れる。

まるで——
これから先の未来みたいに。

「ねぇ」

前を歩いていた月菜が、ふいに立ち止まった。

その背中に、わずかな緊張が混じっているのが分かる。

「覚えてる?」

振り返らないまま、そう言った。

「……何を」

分かっている気もした。

でも、あえて聞き返す。

少しでも、この流れを遅らせたかった。

「約束」

短く、それだけ。

風が止む。

周囲の音が、少し遠くなる。

「昔さ」

月菜が、ゆっくりと振り返る。

その表情は、いつもより少しだけ真剣だった。

「言ってたじゃん」

一歩、こちらに近づく。

「“いつか一緒に、音楽で生きていこう”って」

その言葉で、時間が戻る。

小さなライブハウス。
帰り道のコンビニ。
意味もなく語り合った夜。

根拠なんてひとつもないのに、
全部うまくいくと信じていたあの頃。

「……覚えてるよ」

視線を逸らしながら、答える。

忘れたことなんて、一度もなかった。

ただ——

思い出すのが、怖かっただけだ。

「あれさ」

月菜が言う。

「まだ、有効だから」

一瞬、意味が分からなかった。

「……は?」

思わず声が漏れる。

「無理だろ、そんなの」

言葉が、少し強くなる。

「もう状況違うし」

「現実も見えてるし」

「俺、途中でやめたし」

並べるように言い訳が出てくる。

止まらない。

止められない。

「……そんなの、成立するわけないだろ」

最後に吐き出すように言った。

静寂が落ちる。

月菜は、少しだけこちらを見つめていた。

その視線は、責めるでもなく、
かといって受け流すでもなく。

ただ、まっすぐだった。

「うん」

小さく頷く。

「知ってる」

その一言で、言葉が詰まる。

「完璧な理想なんて、ないよ」

少しだけ空を見上げる。

「全部うまくいく未来なんて、どこにもない」

風が吹く。

彼女の髪が、わずかに揺れる。

「でもさ」

またこちらを見る。

その目は、揺れていなかった。

「だからって、“やらない理由”にはならなくない?」

胸の奥が、強く打たれる。

「現実がどうとか、可能性がどうとか」

「そんなのさ、やった後にしか分かんないじゃん」

言葉が、逃げ場を塞いでいく。

「やる前から諦めるのって」

一歩、近づく。

「ただの“怖さ”でしょ」

核心だった。

分かっていたことを、真正面から突きつけられる。

「……違う」

反射的に否定する。

でも、その声には力がなかった。

「違わないよ」

即答だった。

「だって、あの頃のあんた」

少しだけ笑う。

「めちゃくちゃ無謀だったもん」

その言い方に、少しだけ苦笑が漏れる。

確かにそうだった。

何も持ってなかったくせに、
何でもできると思っていた。

「でもさ」

月菜の声が、少しだけ柔らかくなる。

「その無謀さ、嫌いじゃなかったよ」

その言葉に、心が揺れる。

「……今は?」

思わず聞いていた。

月菜は、少しだけ間を置いた。

ほんの一瞬だけ、視線を逸らしてから——

「今は」

またこちらを見る。

「ちょっと、つまんない」

その一言は、優しかった。

でも、鋭かった。

「……悪かったな」

小さく吐き捨てる。

悔しさと、情けなさが混ざる。

「うん」

あっさりと頷く。

「もったいないなって思う」

その言い方が、余計に刺さる。

責められるよりも、ずっと重い。

「……どうすればいいんだよ」

気づけば、言葉が出ていた。

「現実も見えてる」

「可能性も低い」

「途中でやめたやつが、今さら戻って」

「何になるんだよ」

全部、本音だった。

全部、逃げてきた理由だった。

月菜は、それを静かに聞いていた。

そして——

「別に、何にもならなくてよくない?」

さらっと、そう言った。

「……は?」

「結果とか、成功とか」

肩をすくめる。

「そんなのどうでもよくない?」

その発想は、なかった。

「約束ってさ」

少しだけ真剣な声になる。

「“叶えるためのもの”じゃなくて」

「“忘れないためのもの”だと思うんだよね」

その言葉に、息が止まる。

「忘れないため……?」

「うん」

頷く。

「自分が何をしたかったのか」

「何を信じてたのか」

「それを、ちゃんと覚えておくためのもの」

夜の空気が、少しだけ冷たくなる。

でも、不思議と嫌じゃなかった。

「だからさ」

月菜が、一歩下がる。

「やるかやらないかは、あんたが決めればいい」

「約束に縛られる必要はないよ」

その言葉は、自由だった。

でも同時に——

全部を委ねられた感覚だった。

「……でも」

月菜は、少しだけ笑う。

「私は、まだやるつもりだから」

その一言で、世界が少しだけ変わる。

ひとりじゃない。

少なくとも、ここに“続けてる人間”がいる。

「どうする?」

問いかけは、シンプルだった。

でも、重かった。

逃げるのは簡単だ。

今まで通り、“見えない”ふりをすればいい。

でも——

胸の奥で、あの小さな灯りが揺れる。

消えかけていたはずの、それが。

「……やる」

気づけば、口にしていた。

小さな声だった。

でも、はっきりと。

月菜は、一瞬だけ目を見開いて——

すぐに、笑った。

「そっか」

それだけだった。

でも、その一言に、全部が詰まっていた。

風が吹く。

見えない道の先は、まだ暗いまま。

でも——

その中に、確かに“進む理由”が生まれた。

それは約束じゃない。

義務でもない。

ただ、自分で選んだもの。

その小さな決意が、またひとつ灯った。

第五章:滑走路はない

スタジオの前で、足が止まった。

雑居ビルの三階。
古びた看板に、かすれた文字。

“REHEARSAL STUDIO”

何度も来た場所なのに、
今日はやけに遠く感じる。

「入んないの?」

隣で、月菜があっさり言う。

すでにドアノブに手をかけていた。

「……いや、入るけど」

そう言いながらも、足が動かない。

理由は分かっている。

ここに入った瞬間、
“やる”って決めたことが、現実になるからだ。

逃げ場がなくなる。

言い訳もできなくなる。

ただの“気持ち”だったものが、
“行動”に変わってしまう。

「……怖い?」

月菜が、振り返る。

その問いに、少しだけ間が空く。

「……当たり前だろ」

正直に答えた。

隠す意味なんてない。

「そっか」

月菜は、少しだけ笑う。

「じゃあ、大丈夫だね」

「……は?」

意味が分からない。

「怖いって思えてるなら」

ドアを開けながら言う。

「ちゃんと、やろうとしてる証拠でしょ」

その言葉に、少しだけ呼吸が軽くなる。

カチャ、とドアが開く。

中から、かすかな音が漏れてきた。

ドラムの残響。
ギターのノイズ。
誰かの笑い声。

全部が混ざって、懐かしい空気を作っている。

「行こ」

月菜が先に入る。

その背中を見て、ようやく足が動いた。


部屋の中は、思っていたより狭かった。

アンプが並んで、
ケーブルが床を這って、
空気は少しだけ重たい。

でも、その全部が——

「……変わってねぇな」

思わず漏れる。

「うん」

月菜がギターケースを開きながら答える。

「変わってないよ」

その言い方が、どこか意味深だった。

“場所は変わってない。でも——”
そんなニュアンス。

アンプの電源を入れる。

ブツッ、という音とともに、
微かなノイズが空気を満たす。

その瞬間、心臓が少し強く打った。

「久しぶりでしょ」

月菜が弦を軽く弾く。

ジャラン、と音が鳴る。

それだけなのに、胸の奥がざわつく。

「……ああ」

短く答えながら、自分のギターを取り出す。

指が、少しだけ震えていた。

「ねぇ」

月菜が言う。

「何やる?」

その問いに、言葉が詰まる。

曲なんて、決めていない。

準備もしていない。

ただ、“やる”って決めただけ。

「……適当でいい」

そう言うしかなかった。

「いいね」

月菜は迷いなく頷く。

「その感じ、好き」

チューニングをしながら、軽く笑う。

その余裕が、少しだけ羨ましかった。

「じゃあ——」

彼女がコードを鳴らす。

静かな音。

でも、芯のある響き。

それに、無理やり合わせるように、自分も弦を弾く。

最初は、ぐちゃぐちゃだった。

タイミングも合わない。
音もぶつかる。
リズムも揺れる。

「……やばいな、これ」

思わず苦笑する。

「うん、やばいね」

月菜も笑う。

でも——

その笑いは、どこか楽しそうだった。

「でもさ」

弾きながら、彼女が言う。

「これでいいじゃん」

「……何がだよ」

「ぐちゃぐちゃでもさ」

もう一度、強く弦を弾く。

「“音出してる”ってだけで、前より進んでるでしょ」

その言葉に、手が止まりかける。

確かにそうだった。

やっていなかった頃の自分と、
今ここで音を出している自分。

どっちが“前”にいるかなんて、明白だった。

「滑走路なんてないんだからさ」

月菜が言う。

「綺麗に飛ぼうとしなくていいんだよ」

音が重なる。

少しずつ、ほんの少しずつ、噛み合い始める。

「……でもさ」

弾きながら、言葉が出る。

「失敗したらどうすんだよ」

「もうしてるじゃん」

即答だった。

思わず笑ってしまう。

「確かに」

ぐちゃぐちゃな音。

未完成なリズム。

それでも——

「……楽しいな」

気づけば、そう呟いていた。

久しぶりだった。

何も考えずに、ただ“やる”ことが。

月菜は、その言葉を聞いて、少しだけ笑った。

「でしょ」

短く、それだけ。

でも、その一言で十分だった。

音が、少しずつ形になっていく。

完全じゃない。
綺麗でもない。

でも——確かに“今ここにある音”。

それが、何よりもリアルだった。

「ねぇ」

演奏を止めて、月菜が言う。

「これ、続けようよ」

「……何を」

「さっきのやつ」

指で軽くリズムを刻む。

「今の、ちょっと良くなかった?」

少しだけ考える。

確かに、ほんの一瞬だけ、
“何か”が繋がった感覚があった。

「ああ……悪くなかった」

「でしょ」

嬉しそうに笑う。

その顔を見て、思う。

ああ、この感じだ。

昔、何もなくても信じてたあの感覚。

根拠もないのに、“いける気がする”って思えた瞬間。

「……やるか」

ギターを構える。

月菜も、同じように構える。

目を合わせる。

言葉はいらない。

次の音を、同時に鳴らす。

ジャラン——

その一音が、やけに響いた。

まだ何も始まっていない。

でも——

確かに、何かが始まった。

滑走路なんてない。

正解もない。

それでも——

羽を広げて、走り出すしかない。

その一歩が、今ここで鳴った。

第六章:見えない地図

最初のライブは、あっけなかった。

ステージに立った瞬間、少しは何かが変わると思っていた。

景色が違って見えるとか、
音が特別に感じるとか、
“やっとここまで来た”みたいな実感とか。

でも——

「……少な」

思わず、口から漏れた。

客席にいるのは、十人もいない。

そのうちの何人かは、明らかに別のバンド目当てで、
スマホを見ていたり、ドリンクを飲んでいたりする。

自分たちを見ている人間なんて、ほとんどいない。

「……まぁ、こんなもんか」

自分に言い聞かせるように呟く。

分かっていたはずだ。

いきなり人が集まるわけがない。
評価されるわけがない。

それでも——

どこかで、期待していた。

「いくよ」

隣で、月菜が言う。

その声は、驚くほどいつも通りだった。

「……ああ」

頷く。

ギターを構える。

ライトが当たる。

少しだけ眩しい。

深呼吸をして、弦を弾く。

ジャラン——

音は、ちゃんと出た。

スタジオで鳴らしていた音と、何も変わらないはずなのに。

なぜか、全然違って聞こえた。

軽い。

薄い。

届いていない。

そんな感覚。

歌い出す。

声が、少しだけ震える。

リズムが、ほんのわずかにズレる。

そのズレが気になって、さらに崩れる。

「……くそ」

小さく舌打ちする。

焦れば焦るほど、音はバラバラになる。

頭の中で、冷静な声が響く。

——向いてないんじゃないか?

——やっぱり無理だったんだよ

——戻ってきても、何も変わらない

その声を振り払うように、強く弦を弾く。

でも——

音は、思ったほど響かなかった。

演奏が終わる。

拍手は、まばらだった。

義務みたいな、薄い音。

「……ありがとうございました」

マイクに向かって言う。

その言葉が、やけに空虚に響いた。

ステージを降りる。

足取りが、少し重い。

控え室に入った瞬間、張り詰めていたものが一気に緩む。

「……ダメだな」

壁にもたれながら、呟く。

「全然、届いてねぇ」

悔しさよりも先に、空虚さが来る。

“やってみた結果”が、これだった。

「……まぁね」

月菜が、水を飲みながら言う。

その声は、相変わらず落ち着いていた。

「最初はこんなもんでしょ」

「……そうだけどさ」

分かってる。

頭では理解してる。

でも——

「思ったより、キツいな」

正直な言葉が漏れる。

月菜は、少しだけこちらを見る。

何かを言いかけて、やめたような表情。

そして、ゆっくりと口を開く。

「ねぇ」

「……なんだよ」

「やめる?」

その一言で、時間が止まった。

冗談じゃない。

試すようでもない。

ただ、選択肢としてそこに置かれた言葉。

「……は?」

思わず聞き返す。

「今なら、まだ戻れるよ」

淡々と続ける。

「やっぱ違ったって言って、普通に戻るのもアリ」

その言い方は、優しかった。

だからこそ、残酷だった。

逃げ道を与えられている。

でも同時に——

“選べ”と言われている。

「……ふざけんなよ」

低く、言葉が出る。

「やっと戻ってきたのに」

拳を握る。

「こんなんで、やめられるかよ」

その声には、さっきまでになかった熱があった。

悔しさ。
情けなさ。
でもそれ以上に——

消えきらない“何か”。

月菜は、それを見て、少しだけ笑った。

「そっか」

短く、それだけ。

でも、その表情はどこか安心していた。

「じゃあ、続けよう」

シンプルな一言。

でも、それで十分だった。

控え室を出る。

廊下は、少しだけ暗い。

さっきよりも、ずっと。

「……見えねぇな」

ぽつりと呟く。

未来も、道も、何もかも。

はっきりしたものは、何ひとつない。

「うん」

月菜が隣で頷く。

「見えないね」

そのまま、少しだけ歩く。

足音が、また響く。

コツ、コツ。

あの時と同じ音。

でも——

「……でもさ」

自分から、言葉が出る。

「止まる理由には、ならないな」

月菜が、ちらっとこちらを見る。

「うん」

小さく笑う。

「それでいいと思う」

外に出ると、夜風が頬を撫でた。

街灯の光が、ぽつぽつと道を照らしている。

その先は、暗いまま。

全部は見えない。

遠くまでは、届かない。

でも——

足元だけは、ちゃんと照らされている。

「……これでいいか」

小さく呟く。

完璧じゃなくていい。

見えなくていい。

一歩先が分かれば、それでいい。

その光を頼りに、また歩き出す。

コツ、コツ。

足音が、少しだけ強くなった。

見えない地図の上を、
それでも確かに進んでいる。

そんな実感だけが、胸の中に残っていた。

第七章:灯火

ライブの帰り道。

人の少ない通りを、ふたりで歩く。

言葉は少なかった。

でも、不思議と気まずさはなかった。

むしろ——
“何かを越えた後”の静けさみたいな空気だった。

コツ、コツ。

足音が、夜に溶けていく。

「ねぇ」

月菜が、ふいに口を開く。

「さっきさ」

「……ん?」

「怖かった?」

少し考える。

ステージの上。
届かない音。
薄い拍手。

全部、思い出す。

「……ああ」

正直に頷く。

「めちゃくちゃ怖かった」

そのまま続ける。

「でもさ」

言葉を選びながら、ゆっくりと。

「やめたいとは思わなかった」

それは、自分でも少し意外だった。

あれだけうまくいかなかったのに。
あれだけ現実を突きつけられたのに。

それでも——

「なんか……」

少しだけ笑う。

「悔しいけど、楽しかった」

月菜は、その言葉を聞いて、静かに笑った。

「うん」

短く、それだけ。

でも、その一言で伝わる。

同じ感覚を、共有していることが。

少しだけ歩いて、信号で止まる。

赤信号。

車の音だけが、横を流れていく。

「ねぇ」

月菜が、空を見上げる。

「未来ってさ」

「……うん」

「最初から見えてるもんだと思ってた?」

その問いに、少し考える。

昔は、そう思っていた気がする。

“これをやれば、こうなる”
“頑張れば、報われる”

そんなふうに、どこかで“道が用意されている”と思っていた。

「……思ってたかもな」

正直に答える。

「だよね」

月菜は、少しだけ笑う。

「私も」

信号の光が、彼女の横顔を赤く染める。

「でもさ」

少しだけ声が落ちる。

「たぶん、違うんだよね」

静かに、でもはっきりと。

「未来って、“見えるもの”じゃなくて」

一瞬の間。

「“照らしていくもの”なんだと思う」

その言葉が、胸にすっと入る。

理解した、というより——
“腑に落ちた”感覚だった。

「……灯り、みたいにか」

小さく呟く。

「うん」

月菜は頷く。

「全部は見えないけどさ」

「ちょっと先だけ、照らせるでしょ」

信号が青に変わる。

ふたりで、歩き出す。

街灯が、足元を照らす。

その先は、やっぱり暗いまま。

でも——

「……確かに」

一歩踏み出す。

「これでいいのかもな」

全部見えなくていい。

全部分からなくていい。

ただ——

今、踏み出せる一歩が見えていればいい。

「ね」

月菜が、少しだけ笑う。

その笑顔が、やけに自然で。

「だからさ」

彼女は続ける。

「迷ってもいいし、止まりそうになってもいい」

「でも——」

少しだけ真剣な声になる。

「消さないでよ」

その言葉に、少しだけ息が詰まる。

「その灯り」

胸の奥にある、あの小さな光。

何度も消えかけて、
それでもまだ残っているもの。

「……消さねぇよ」

静かに答える。

今度は、迷いはなかった。

最終章:揺るぎない歌

数ヶ月後。

小さなライブハウス。

客は、前より少し増えた。

それでも、満員には程遠い。

でも——

「……いくぞ」

マイクを握る手は、前よりもずっと安定していた。

隣を見る。

月菜が、軽く頷く。

それだけで、十分だった。

ギターを鳴らす。

ジャラン——

その一音が、空間に広がる。

前と同じ場所。
前と似たような状況。

でも——

全然違う。

音が、ちゃんと“前に出ていく”。

届いているかどうかは分からない。

でも、“届かせようとしている音”になっている。

それだけで、違った。

歌い出す。

声は震えない。

完璧じゃない。

でも、逃げていない。

一音一音に、意志が乗る。

“見えない未来”に向かって、投げている感覚。

観客の表情は、まだ読み取れない。

でも——

前より、少しだけ視線が集まっている気がした。

気のせいかもしれない。

それでもいい。

「——」

サビに入る。

声を上げる。

何度でも。

何度でも。

何度でも。

あの時、月菜が言っていた言葉がよぎる。

“何度も声を上げて”

その意味が、今なら分かる。

結果じゃない。

成功でもない。

ただ——

“やめないこと”。

それだけが、確かなもの。

演奏が終わる。

一瞬の静寂。

そして——

拍手。

前より、少しだけ大きい。

それだけで、胸の奥が熱くなる。

「……ありがとうございました」

マイク越しに言う。

その声は、ちゃんと“自分のもの”だった。

ステージを降りる。

月菜が、隣で笑う。

「ね」

「……ん?」

「ちょっとだけ、見えてきた?」

少し考える。

未来は、まだはっきりしない。

成功するかどうかも、分からない。

何も、確定していない。

「……いや」

正直に答える。

「まだ全然見えない」

月菜は、少しだけ笑う。

「だよね」

でも——

続けて、こう言う。

「でもさ」

こちらを見る。

「前より、怖くないでしょ」

その言葉に、少しだけ考える。

そして——

「ああ」

頷く。

「怖くないな」

それは、本当だった。

見えないこと自体は、変わっていない。

でも——

見えないまま進めることを、知ったから。

胸の奥に、小さな光がある。

弱くて、揺れていて、頼りない。

それでも——

確かに、消えていない。

「行こ」

月菜が、先に歩き出す。

その背中を追う。

コツ、コツ。

足音が響く。

最初と同じ音。

でも——

今は違う。

その一歩一歩に、意味がある。

見えない未来へ。

見えないまま。

それでも——

灯火を手に、進んでいく。

ずっと。

~完~

彼女(月菜)側の視点ストーリも書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ

彼女(月菜)の過去編のストーリも書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ

二人の未来編のストーリも書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ

また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ

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