『Pretender』Official髭男dism。”決して結ばれない恋…”

Official髭男dism

本日ご紹介するのは、4人組ピアノポップバンド『Official髭男dismのナンバーから。
『Official髭男dism』は、2012年6月に結成。メンバーは大学の軽音学部の仲間、藤原聡(ボーカル・ピアノ)、楢﨑誠(ベース・サックス)、松浦匡希(ドラムス)と、学外で仲の良かった小笹大輔(ギター・コーラス)の4人。バンド名の由来は、聴覚的・視覚的にインパクトのある名前にしたかったからとのことで特に深い意味はないらしいです(;^ω^)。確かにインパクトはあるよね!ヒゲダンと略した愛称も親しみやすいし!『Official髭男dism』の魅力は、歌詞・メロディー・演奏力・歌唱力、すべてが高水準なところ、特にボーカル藤原さんの美声には酔いしれちゃいますよね(*´з`)。聴いていて異物感がないといいますか、心地いい♪若者から絶大な支持を得ており、今大注目のアーティストです。

『Official髭男dism』数ある名曲の中から今回ご紹介する曲は

『Pretender』(作詞:藤原聡 作曲:藤原聡

2019年5月にリリースされたシングル。この曲は2019年の最高の名曲といっても過言ではないでしょう♪

今さら?という声が聞こえてきますが、本当の名曲というのは何回聞いても飽きない、時が経っても色褪せないものだと思います。

この曲の歌詞は、いろいろ解釈ができますね。恋人との別れを決意した男性の心情?手が届かない高嶺の花の女性に恋をしてしまった男性の心情?片思い?それとも不倫?皆様も一度は経験したであろう切ない恋愛体験に当てはめやすく、多くの共感を集めております。

別れるべきなのはわかっているのに別れたくない…そんな自問自答をずっと繰り返しながらズルズルと別れを先延ばしにしてしまっている情景が浮かびます。
一昔前なら男らしくないといわれてしまうような感じですが、この歌詞のような心の弱い部分を綴った歌詞の方が今の若者たちには受け入れられやすいのかもしれませんね。
まあでも昔から男の方が未練がましい、女の人の方が切り替えが早いなんて言われてましたけど(笑)

サビの歌詞がね…
はじめはもうこの恋は終わりにしよう!と強く思って

『グッバイ!君の運命の人は僕じゃない!辛いけど否めない!』

と心の中で叫んだけど

『でもやっぱり離れがたい(汗)。君の髪に触れただけで一気に未練が込み上げてくる。やっぱり別れたくない!辛い!』

と決断が鈍ります

『いや…でも…別れると決めただろ!甘いんだよ俺は!やっぱりグッバイ!僕にとって君は何!?恋人なの!?何なの!?わからないけど!わかりたくもない!!(泣)』

ちゃんと考えてそれを受け入れれば別れを決断できるのでしょうけどわかりたくもないと逃げています(汗)

最終的には

確かなことがひとつある…『君は綺麗だー!』

君は綺麗だ!それで?

結局決断しないところに心の弱さを感じますね(*´Д`)

でもこの感じ私はすごくよくわかります(笑)

歌詞もいいですがメロディも最高で、イントロのギターのアルペジオから一気に引き込まれて鳥肌たっちゃいますよね((>_<))♪

まずはこの曲を聴いて、歌詞を読んでください(^_-)-☆


歌詞全文はこちらのリンクから↓
https://www.uta-net.com/song/266648/

ちなみに『Pretender(プリテンダー)』の意味は、『ふりをする人、詐称者、王位をねらう者、(不当な)要求者』

それではこの曲を聴いて膨らんだ私の妄想ワールド(歌詞解釈)をチラッとお見せいたします |ω・)チラッ

『答えのない場所で』

第一章:視線の始まり

私は不倫をしている。
そう言葉にすると、どこか他人事のように聞こえる。
まるで、ニュースの中の出来事みたいに、距離のある響きになる。

でも実際は違う。
その言葉の内側にあるのは、もっと曖昧で、もっと粘ついた感情だ。

罪悪感だけじゃない。
後ろめたさだけでもない。
むしろ、安心に近い何かがある。

——終わりがあるとわかっている関係は、壊れ方が想像できる

だから、どこかで制御できる気がしてしまう。
それが錯覚だとわかっていながら、私はその感覚に依存している。

出会いは、ジムだった。
平日の昼間。人は少なく、どこか静かな時間帯。

仕事が休みの日、私は決まってここに来る。
事務仕事ばかりで、身体を動かさない日々。
その反動みたいに、無理やり汗を流す。

理由なんて、正直なんでもいい。
身体を疲れさせておけば、余計なことを考えずに済む。

エアロバイクにまたがる。
一定のリズムでペダルを踏む。
カチ、カチ、と小さな音が響く。
呼吸は単調で、思考も単調になっていく。

そういう時間が、嫌いじゃなかった。

その日も、いつもと同じはずだった。

隣に、人が来る。
ただそれだけのこと。
普段なら、意識すら向けない。

でも、その日は違った。

視界の端に入った瞬間、なぜか意識が引っ張られた。
理由はわからない。
ただ、“違和感”があった。

視線を向ける。
そして、止まる。

綺麗だった。

でも、それを「綺麗」と認識するまでの間に、いくつかの情報が同時に流れ込んできた。

姿勢。
無駄のない動き。
視線の落とし方。
呼吸のリズム。

どれも、妙に整っている。
誰かに見せるためじゃない、自分の中で完結している動き。

その瞬間、思った。

——この人は、ちゃんと生活している人だ

さらに言えば、
——誰かと、ちゃんと時間を重ねている人だ

根拠なんてない。
でも、その感覚はやけに確信に近かった。

だから、すぐに理解する。
ここは踏み込んじゃいけない場所だ。

でも、視線を戻せなかった。

もう一度、見る。

彼女の横顔。
ほんの少し汗ばんだ肌。
髪がわずかに揺れる。
視線は前を向いたまま。

こちらには気づいていない、と思った。

そのまま、少し長く見すぎた。

ふと、彼女の視線が動く。
こちらを見る。

目が合う。

時間が止まる、という表現は大げさだと思っていた。
でも、そのときは違った。
確かに、一瞬だけ“間”があった。

気まずくなる前に、視線を逸らそうとした。
でも、その前に。

彼女が、少しだけ笑った。

口角が、ほんのわずかに上がる。
作った笑顔じゃない。
反射的に出た、自然な表情。

それだけ。
たったそれだけのこと。

なのに、なぜか心臓の鼓動が一拍ずれる。

——あ、これはまずい

そう思った。
でもその“まずさ”は、拒否ではなく、むしろ引き寄せられる感覚だった。

視線を逸らす。
でも、頭の中には残る。

さっきの表情。
目の動き。
わずかな笑い方。

たった数秒の出来事なのに、やけに鮮明に残っている。

ペダルを踏み続ける。
でも、リズムが少し乱れる。
呼吸も、わずかにずれる。

意識を戻そうとする。
でも、戻らない。

気づく。

私はもう、隣の存在を意識している。

それは興味とか、好奇心とか、そういう軽いものじゃない。
もっと深い。

「知りたい」という感情に近い。

——この人は、どんな生活をしているんだろう

そう思った瞬間、自分で驚く。

関係のない他人に対して、ここまで踏み込んだ思考をすることは、普段ならない。

それでも、考えてしまう。

結婚しているのか。
どんな仕事をしているのか。
どんな場所で、どんな時間を過ごしているのか。

想像が、勝手に膨らんでいく。

そして、その想像の中で、なぜか自分がその世界に入り込んでいる。

ありえないのに。

でも、その“ありえなさ”が、逆に現実味を帯びてくる。

——やめた方がいい

そう思う。

でも同時に、
——もう遅い

とも思う。

ペダルを踏み続ける。
でももう、最初の目的は消えている。

身体を動かすためじゃない。
隣にいる彼女の存在を、感じ続けるための時間になっている。

そのことに気づいたとき、少しだけ怖くなる。

でも、その怖さよりも、ほんの少しの期待の方が勝っている。

——また会えるかもしれない

それだけのことで、次に来る理由ができてしまう。

その日、ジムを出るとき。
振り返らなかった。

でも、頭の中ではずっと考えていた。

——また会うかもしれない
いや、
——また会いたい

その違いに気づいたとき、すでに始まっていたのだと思う。

第二章:言葉の距離

最初に言葉を交わした日のことは、何度も思い出している。
思い出そうとしなくても、勝手に浮かんでくる。
あのときの空気や、距離感や、声の温度まで、妙に鮮明に残っている。
それだけで、あの瞬間が自分にとってどれだけ特別だったのかがわかる。

それは、ジムの帰りだった。
トレーニングを終えて、少し疲れた身体のまま、更衣室に向かう通路を歩いていた。
頭の中は空っぽに近くて、ただ汗をかいたあとの軽さだけが残っている。

そのときだった。
前から彼女が歩いてくるのが見えた。

一瞬、思考が止まる。
次の瞬間には、どうするかを考えている。
声をかけるか、やめるか。
通り過ぎるか、何か言うか。

ほんの数秒のはずなのに、その中でいくつもの選択肢が浮かんで、消える。

でも結局、選んだというより、身体が先に動いた。
「こんにちは」

口に出した瞬間、少しだけ後悔する。
——なんで今、声かけた
準備もしていない。流れもない。
ただ、衝動だけで出た言葉。

彼女は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
でもすぐに、表情が緩む。
「こんにちは」

その声を聞いたとき、少しだけ安心した。
想像していたよりも、柔らかい声だった。
落ち着いていて、無理がない。

——ああ、ちゃんとしてる人だ

そう思った。
同時に、別の考えも浮かぶ。
——だからこそ、踏み込んだらダメだ

でも、その二つの考えは、もう同じ重さじゃなかった。

それから、少しだけ会話が続いた。
「よく来るんですか?」
「結構来てますね」

それだけのやり取り。
でも、その“それだけ”が、妙に重い。

会話が途切れる。
普通なら気まずくなるはずなのに、不思議とそうならない。
沈黙が、そのままそこにあっても問題ない。

その感覚に、少しだけ戸惑う。
——なんでこんなに自然なんだ

次に会ったとき、彼女の方から言った。
「たまに見かけますよね」

その一言で、少しだけ世界が変わる。
自分が一方的に見ているだけじゃなかった。
向こうも、自分を認識していた。

それだけの事実なのに、妙に嬉しい。
同時に、少しだけ怖い。
——これ、距離が近づいてる

会話は、少しずつ長くなっていく。
仕事の話。生活の話。どうでもいい話。

その流れの中で、彼女が言った。
「主婦ですよ」

その一言で、空気が少しだけ変わる。
頭では理解していたはずのことが、はっきりと現実になる。

やっぱり、そうか。

納得と同時に、胸の奥が少しだけ沈む。
まだ何も始まっていないのに、何かを失ったような感覚。

「子供もいますよ」

さらに現実が重なる。
逃げ場がなくなる。

普通なら、ここで引く。
ここで終わる。
そういうラインのはずだった。

でも、不思議とそうはならなかった。

むしろ、別の感情が出てくる。
——それでもいい

いや、違う。
——それでもいいことにする

この違いに気づいたとき、自分の中で何かがずれているのを感じた。

会話は続く。
「お仕事は?」
「事務です」

当たり障りのないやり取り。
でも、その中にある“間”が心地いい。

無理に盛り上げなくていい。
無理に沈黙を埋めなくていい。
ただ、そこにいるだけで成立する会話。

それが、一番危ない。

帰り際。
「お疲れさまでした」

それだけの言葉。
でも、その一言の中に、次が含まれている気がした。

また会う前提の挨拶。

振り返らない。
でも、背中でわかる。
まだ、終わっていない。

その日の帰り道。
頭の中で、会話を何度も繰り返していた。

言い方は変じゃなかったか。
間はおかしくなかったか。

そんなことを考えている自分に気づいて、少しだけ笑う。

——完全に、意識してる

そして、もう一つ気づく。

私は、次に会うことを前提に考えている。

偶然じゃない。
期待している。

その時点で、もう引き返せない場所に来ていた。

第三章:日常の侵食

ジムに通う意味が、少しずつ変わっていく。
最初は、ただの習慣だった。
身体を動かすため。仕事で溜まった疲れを抜くため。
それだけのはずだった。

でも、気づけば違っていた。

今日はいるか。
どこにいるか。

そればかりを考えている。

ジムに入った瞬間、無意識に視線が動く。
いつも彼女が使っているあたりを探す。

いないとわかった瞬間、ほんの少しだけ気持ちが沈む。
——今日は来てないのか

それだけのことなのに、身体が重くなる。

逆に、見つけたとき。
ああ、いる。
それだけで、呼吸が少しだけ軽くなる。

その変化に気づいている。
でも、認めないようにしている。

——ただの偶然だ
——ただの習慣だ

そう言い聞かせる。
でも、その言葉にはもう説得力がない。

ランニングマシンに立つ。
彼女がいるときは、無意識に隣を選んでしまう。

わざとじゃない、と自分に言い訳をする。
たまたま空いていただけだと。

スピードを上げる。
足音がリズムを刻む。
一定の振動が身体に伝わる。

少しして、彼女が横を向く。
目が合う。

「こんにちは」

もう、自然に言えるようになっている。
最初の頃のような緊張はない。
でも、慣れたわけでもない。

その中間の、曖昧な距離。

「今日も来てたんですね」
「はい、なんとなく」

会話は軽い。
でも、確実に続いている。

走りながら話す。
息が少し上がる。
でも、それが逆にちょうどいい。

言葉が途切れても、不自然にならない。
沈黙が流れる。

でも、苦しくない。

その感覚に、また気づく。
——これ、危ないな

普通は、もっと気を遣うはずだ。
言葉を選んで、間を埋めて、空気を作る。

でも、それがいらない。

ただ並んでいるだけで成立する関係。
それが、少しずつ日常に入り込んでくる。

ある日、彼女が言った。
「この近くに、おいしい洋食屋あるらしいですよ」

ほんの軽い雑談。
テレビで見たとか、誰かに聞いたとか、その程度の話。

でも、その一言で空気が変わる。
会話の流れが、少しだけ前に進む。

「ハンバーグがおいしいらしいです」
「へえ、いいですね」

それだけのやり取り。
でも、どこかで次の言葉を待っている自分がいる。

言うか。やめるか。
ほんの一瞬、迷う。

でも、その迷いの中で、すでに答えは決まっていた。

「今度、一緒に行きませんか?」

言ったあと、ほんの少しだけ時間が止まる。

言いすぎたか。
踏み込みすぎたか。

そんな考えが、一瞬で頭をよぎる。

彼女はすぐには答えなかった。
少しだけ視線を落として、考える。

その“間”が長く感じる。

断られるかもしれない。
それなら、それでいい。
ここで終わるなら、それも一つの形だ。

そう思おうとする。

でも、本音は違う。

——断られたくない

その感情が、はっきりと浮かぶ。

数秒後。
彼女は顔を上げて、少しだけ笑った。

「行きたいです」

その一言で、すべてが変わる。

軽い返事のはずなのに、その中にある意味は重い。

「じゃあ、今度タイミング合うときにでも」

表面上は、あくまで軽く流す。
でも内側では、はっきりと理解している。

——これは、ただの食事じゃない

一歩、踏み込んだ。

その事実だけが、静かに残る。

その日のトレーニングは、ほとんど覚えていない。
走っていたはずなのに、どのくらいの距離を走ったのかも思い出せない。

頭の中は、さっきの会話でいっぱいだった。

「行きたいです」
その言葉を、何度も反芻する。

軽い一言のはずなのに、その奥にある意味を考えてしまう。

ただの社交辞令かもしれない。
でも、そうじゃない気もする。

考えても答えは出ない。
でも、考えるのをやめられない。

帰り際。
「じゃあ、また」

その一言が、いつもより少しだけ重く感じる。

“また”の意味が変わっている。
ただの再会じゃない。
次に繋がる前提の言葉。

ジムを出て、外の空気を吸う。
少しだけ冷たい風。

身体は温まっているのに、頭の中は妙に冷静だ。

——踏み込んだな

そう思う。

でも同時に、どこかで納得している自分がいる。

——これは、ずっと前から決まっていた流れだ

最初に目が合ったときから。
最初に笑ったときから。

少しずつ積み重なって、ここに来ただけだ。

そう思うと、少しだけ楽になる。

でも、それはただの言い訳だとわかっている。

本当は、選び続けているだけだ。

私はもう、戻る気がない。

そのことに気づいたとき、関係は“日常”に入り込んでいた。

第四章:境界線の曖昧さ

店に行くはずだった。
ただ食事をするだけの、軽い約束のはずだった。

でも、気づけば流れは変わっていた。

テイクアウトにしようという話になり、
食べる場所をどうするかという話になり、
そして、自然な流れのように、私の家という選択肢が出てきた。

「俺んちなら、ゆっくりできるけど」

軽く言ったつもりだった。
冗談に逃げられる余白も残していた。

でも、その言葉を口にした瞬間、自分でわかっていた。
——これは冗談じゃない

彼女は少しだけ考えた。
ほんの数秒。

その短い時間の中に、いくつもの意味が詰まっている気がした。

断ることもできたはずだ。
迷うこともできたはずだ。

でも、彼女は言った。
「じゃあ、お邪魔しようかな」

その一言で、境界線が曖昧になる。

引き返せる余地は、まだあった。
でも、その余地を自分から消したのは、きっとお互い様だった。

店で注文をして、料理を受け取る。
ハンバーグとオムライス。
どこにでもあるような、ありふれたメニュー。

でも、その袋を持っているだけで、妙に現実感が薄くなる。

これから何が起きるのか、はっきりとした形ではわからない。
でも、ただの食事では終わらないことだけは、なんとなく理解していた。

車で移動する時間。
会話はある。

でも、どこか上滑りしている。

さっきまでと同じように話しているはずなのに、空気の質が違う。

少しだけ、沈黙が増える。

その沈黙の中で、お互いに同じことを考えている気がする。

——本当にいいのか

でも、その問いに対する答えは、もう出ている。

止まらない。

部屋の前に着く。
「ここ」

そう言ってドアを開ける。

彼女が一歩、部屋の中に入る。

その瞬間、空気が変わる。

ただの部屋だったはずなのに、急に“意味のある場所”になる。

「いい部屋だね」

その一言で、この空間が共有される。

靴を脱ぐ。
部屋を見渡す。
自然な動きで奥へ進む。

初めて来たはずなのに、どこか違和感がない。

それが、妙に怖い。

「座っていい?」
「どうぞ」

そのやり取りも、あまりにも自然すぎる。

距離が近い。
匂いがする。

それだけで、現実感が揺らぐ。

テーブルに料理を広げる。

「どっち食べる?」
「じゃあ、半分こにしようか」

その言葉に、少しだけ引っかかる。

——これ、普通の距離じゃない

でも、その違和感はすぐに溶ける。

食べる。
笑う。
話す。

どれも自然だ。

でも、その自然さが不自然だ。

彼女が言う。
「なんか、落ち着くね」

その一言で、境界線がさらに曖昧になる。

——ここにいてもいい

そう思ってしまう。

食事が終わる。

「洗い物、やるよ」

彼女がキッチンに立つ。

水の音。
食器の触れる音。

その後ろ姿を見ていると、頭の中に別の風景が浮かぶ。

ここで一緒に暮らしている日常。

朝起きて、
同じ場所で食事をして、
何気ない会話をする生活。

ありえない。

でも、その“ありえなさ”が、妙にリアルに感じる。

——これが欲しい

そう思った瞬間、自分で自分に引いた。

彼女が振り返る。
「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

言えない。

この感情は、言葉にした瞬間に壊れる。

時間が過ぎる。
会話は続く。

でも、どこかでわかっている。

ここはもう、ただの“友達の距離”じゃない。

帰る時間が近づく。

「そろそろ帰ろうかな」

その言葉を聞いた瞬間、少しだけ胸が締まる。

——この時間が終わる

でも、それを止める言葉は出てこない。

「気をつけて」

それだけ。

玄関で靴を履く彼女の背中。

その距離が、妙に遠く感じる。

ドアが閉まる。

静かになる。

さっきまであった気配が、一気に消える。

部屋の中に残るのは、わずかな匂いと、食事の痕跡だけ。

その差が、現実を突きつける。

私は立ち尽くす。

——踏み込んだな

そう思う。

でも、後悔はしていない。

むしろ、どこかで納得している。

——ここまで来るのは、最初から決まっていた

そう思うことで、自分を納得させる。

でも、本当は違う。

ただ、自分で選んだだけだ。

その事実だけが、静かに残る。

第五章:共有された時間

十二月に入った頃から、空気が変わる。
街の色が変わる。店の中も、音楽も、匂いも、どこか浮ついていく。
——クリスマス
その言葉が、日常の中に入り込んでくる。

ある日、ジムの帰り。
いつものように並んで歩きながら、彼女がふと聞いた。
「クリスマスって、予定あるの?」

何気ない質問。
でも、その言葉の重さは軽くない。

「ないよ」
そう答えたあと、少しだけ間ができる。

「そっか」
彼女はそれだけ言って、少し笑った。

その“少し”が気になる。
何を考えているのか、わからない。
でも、その先を聞くのは怖い。

だから、そのまま流す。

でも、その日の夜。
彼女からメッセージが届いた。

「やっぱり、クリスマス一人?」

画面を見たまま、少しだけ考える。
なぜ、もう一度聞くのか。

ただの確認か。
それとも。

「一人だよ」
そう返す。

すぐに既読がつく。

「もしよかったら、一緒に過ごさない?」

その一文を見た瞬間、心臓の音が少しだけ強くなる。
理解するまでに、少し時間がかかる。

これは、ただの誘いじゃない。

クリスマス。夜。二人。

意味は、はっきりしている。

「大丈夫なの?」

最初に出た言葉は、それだった。
自分のためじゃない。彼女のための確認。

でも、本当は違う。
——断る理由を探している

彼女はすぐに返してくる。
「大丈夫。家族は出かけるから」

その一言で、状況が整う。
整ってしまう。

逃げ道が、なくなる。

「じゃあ…いいよ」

送信したあと、少しだけ息を吐く。
決めた、という感覚よりも、流れに乗った、という感覚に近い。

でも、その流れを選んだのは、自分だ。

クリスマスイブ。
仕事を終えて、帰る途中。

街は、普段よりも明るい。
イルミネーション。カップルの笑い声。どこからか流れてくる音楽。

その中を歩きながら、自分だけが少し違う場所にいる気がする。

——俺は、どこにいるんだろう

普通の恋人でもない。
ただの友達でもない。

曖昧な場所。

でも、その曖昧さが、今は心地いい。

家に着く。
準備をする。

テーブルを整える。
買ってきたチキンとピザを並べる。

それだけで、“それっぽい空間”ができる。

少しして、インターホンが鳴る。

ドアを開ける。

「メリークリスマス」

彼女が笑う。

その瞬間、少しだけ現実感が薄れる。
いつもと同じはずなのに、どこか違う。

距離が、近い。

「寒かった?」
「ちょっとね」

そんな会話をしながら、部屋に入る。

自然に座る。
自然に笑う。

でも、その自然さの奥に、確実に“特別”が混ざっている。

テーブルに料理を並べる。

「すごいね」
「適当だよ」

軽いやり取り。
でも、その時間が妙に濃い。

「乾杯しよっか」

グラスを合わせる。
小さな音が響く。

「メリークリスマス」

その言葉が、妙に重く感じる。

笑う。食べる。話す。
どれも普通のこと。

でも、その普通が、今だけは特別になる。

彼女が言う。
「こういうの、久しぶり」

その言葉の意味を、考えないようにする。

考えたら、踏み込んでしまうから。

時間が進む。
会話がゆるくなる。
距離が、少しだけ近づく。

彼女の表情が変わる。
少しだけ柔らかくなる。

その変化を、はっきりと認識してしまう。

——今、境界が揺れてる

そう思う。

でも、それを止めようとはしない。
むしろ、そのまま流れる。

この時間が、終わってほしくないと思う。

それだけで、十分だった。

でも同時に、わかっている。
これは、長く続くものじゃない。

だからこそ、今だけを切り取る。

その夜は、静かに、確実に、関係を変えていった。

第六章:一線

時間がゆっくりと流れていく。
さっきまで賑やかだった空気が、少しずつ落ち着いていく。
会話の間が長くなる。言葉の数が減っていく。

でも、それが不自然じゃない。

彼女がソファにもたれる。
「ちょっと眠くなってきた」
そう言って、小さく笑う。

アルコールは強くないと言っていた。
その通り、少しだけ頬が赤い。

「横になっていい?」
「いいよ」

そのやり取りも、自然すぎる。

彼女はゆっくり立ち上がり、ベッドの方へ向かう。
靴を脱いだままの足音が、床に柔らかく響く。

ベッドに腰を下ろして、そのまま倒れ込む。
「ちょっとだけね」

そう言いながら、目を閉じる。

その姿を、少し離れた場所から見ている。

無防備だった。

いつも見ている彼女とは違う。
外で見せている顔じゃない。

力の抜けた表情。
緩んだ呼吸。
何も警戒していない身体。

そのすべてが、距離を壊してくる。

私はその場から動けない。

近づくべきじゃない。
そう思っているのに、視線は外せない。

静かだ。
時計の音だけが、やけに大きく聞こえる。

少しして、彼女の呼吸が安定する。
完全に寝ている。

その事実が、空気を変える。

——今なら

そんな考えが、自然に浮かぶ。

すぐに否定する。
——違う

でも、もう一つの声がある。
——ここまで来て、何もしないのか

頭の中で、二つの声がぶつかる。

「やめろ」
「今しかない」

どちらも自分の声だ。

でも、均衡は崩れている。

足が動く。

気づけば、ベッドの近くに立っている。

距離が近い。

呼吸の音が聞こえる。
わずかな体温が伝わる。

それだけで、理性が削れていく。

顔を覗き込む。

目は閉じている。

眠っているはず。

でも、完全には信じきれない。

ほんの少しだけ、迷う。

ここでやめれば、まだ戻れる。

そう思う。

でも、その“戻れる”という選択肢が、逆に遠く感じる。

ここまで来るまでに積み重ねてきたものが、背中を押してくる。

——もう、いいだろ

その一言で、すべてが決まる。

私は、ゆっくりと顔を近づける。

距離が、ゼロになる。

唇が触れる。

その瞬間、時間の感覚が消える。

何秒なのか、わからない。

ただ、確実に越えた。

頭の中は、不思議なほど静かだった。

興奮でもない。
混乱でもない。

ただ一つの感覚。

——終わった

そう思った。

始まった、じゃない。

終わった。

戻れない場所に来た、という実感だけがある。

その瞬間。

彼女の体が、わずかに動く。

心臓が跳ねる。

次の瞬間、声がする。

「嬉しい」

目が開く。

こちらを見ている。

起きていた。

一瞬、何も言えなくなる。

言葉が出てこない。

「ごめん」

反射的に出た言葉。

謝る理由なんて、わかっている。

でも、それ以外に出てこない。

彼女は、少しだけ首を振る。

「なんで謝るの?」

その言葉に、思考が止まる。

「私、ずっと起きてたよ」

その一言で、すべてが繋がる。

偶然じゃない。

流れでもない。

選んでいたのは、最初からお互いだった。

「私も…同じだった」

その言葉が、静かに落ちる。

ずっと感じていた違和感。
距離の近さ。
言葉の間。
視線の動き。

全部、意味があった。

でも同時に、理解する。

——これで、完全に戻れなくなった

線は、越えた。

曖昧だった関係が、はっきりと形を持つ。

でも、その形は、決して“正しいもの”じゃない。

それでも、止めようとは思わなかった。

むしろ、どこかで納得している。

——こうなるのは、最初からわかっていた

そう思うことで、自分を正当化する。

でも、本当は違う。

ただ、自分で選んだだけだ。

その夜、すべてが変わった。

第七章:続いてしまう関係

あの夜から、すべてが変わった。
はずだった。

実際には、何も変わっていない。

次の日も、普通に仕事に行った。
いつもと同じようにパソコンに向かい、いつもと同じように時間が過ぎていく。

でも、内側は違う。

頭のどこかに、常に彼女がいる。

前日の夜のこと。
彼女の表情。
あの距離。

断片的な記憶が、何度も浮かんでは消える。

集中しようとしても、完全には戻れない。

それでも、表面上はいつも通りに振る舞う。
誰にも気づかれないように。

それが、逆に現実感を薄くする。

——何も起きていないみたいだ

でも、確実に何かは変わっている。

その日の夜。
彼女からメッセージが来る。

「昨日はありがとう」

たったそれだけの言葉。
でも、その中にすべてが含まれている。

軽くもできるし、重くもできる。
どちらにも転べる、曖昧な言葉。

どう返すか、少しだけ迷う。

重くしたくない。
でも、軽くもしたくない。

「楽しかったよ」

結局、当たり障りのない言葉を選ぶ。

送信したあと、少しだけ物足りなさを感じる。

もっと何か言えたはずだ。
でも、それ以上踏み込むのが怖い。

しばらくして、返信が来る。

「私も」

短い。
でも、その短さが逆に意味を持つ。

そこから、やり取りが続くようになる。

内容は、ほとんど変わらない。
日常の話。どうでもいい話。

でも、その“どうでもよさ”が、前とは違う。

一線を越えたあとの会話。
その事実だけで、すべての言葉に別の意味が重なる。

ジムでも会う。

「こんにちは」

変わらない挨拶。

でも、その裏側は変わっている。

お互いに知っている。
あの夜のことを。

それでも、何もなかったように振る舞う。

それが、この関係のルールみたいになっていく。

ある日、彼女のスマホが鳴る。

その瞬間、ほんのわずかに表情が変わる。

「ごめん、ちょっと出るね」

ベランダに出る。

声は聞こえない。
でも、わかる。

——旦那だ

その事実が、ゆっくりと現実を引き戻す。

数分後、彼女が戻ってくる。

「ごめんね」

いつも通りの笑顔。
何もなかったかのような顔。

その“何もなさ”が、一番現実を突きつけてくる。

——この人には、別の生活がある

当たり前のこと。
でも、実感として突き刺さる。

帰り際。

「またね」

その言葉が、少しだけ軽く感じる。

前よりも、距離は近いはずなのに、どこか遠い。

引き止めることはできない。
引き止める資格がない。

それを、はっきりと理解している。

彼女が帰る。

ドアが閉まる。

静かになる。

その静けさが、やけに広い。

さっきまであった気配が消えて、部屋だけが残る。

カップが二つ。
クッションのへこみ。
わずかな匂い。

それだけで、さっきまでの時間が現実だったとわかる。

でも同時に、もうここにはいない。

その差が、きつい。

ソファに座る。

何もする気が起きない。

ただ、ぼんやりと天井を見る。

——これ、どうなるんだろう

ふと、考える。

この関係の先。

未来があるのか。

すぐに答えは出る。

——ない

はっきりしている。

彼女は家庭を捨てない。

自分も、それを望んでいるわけじゃない。

それでも、続けている。

理由は単純だ。

——今が、満たされているから

未来よりも、今を選んでいる。

それが正しいのかどうかは、考えない。

考えたら、続けられなくなる。

スマホを見る。

彼女とのやり取りを、何度も見返す。

同じ文章。
同じ言葉。

でも、そのたびに違う意味を探してしまう。

——俺のこと、どう思ってるんだろう

答えは聞けない。

聞いた瞬間、このバランスが壊れる気がする。

だから、聞かない。

わからないまま、続ける。

その選択をしているのは、自分だ。

私は知っている。

この関係は、どこにも行かない。

進むことも、戻ることもできない。

ただ同じ場所で、少しずつ深くなっていくだけ。

それでも、離れられない。

理由は、わかっている。

——手放したくない

それだけだ。

第八章:答えのない場所

この関係に、答えはない。
最初から、わかっていた。

始まる前から、終わりは見えていた。

続けた先に何があるのか。
どうなるのか。

考えれば、すぐにわかる。

何もない。

未来はない。
約束もない。

ただ、今があるだけ。

それでも、ここまで来た。

やめるタイミングは、何度もあった。

最初に声をかけたとき。
食事に誘ったとき。
家に来たとき。

そして、あの夜。

どこかで止まることはできた。

でも、そのたびに選ばなかった。

やめる理由よりも、
続ける理由の方が強かった。

いや、違う。

理由なんて、なかった。

ただ、手放したくなかった。

それだけだ。

最近、ふとした瞬間に思う。

この関係は、何なんだろう。

恋人じゃない。

でも、他人でもない。

どこにも当てはまらない場所。

曖昧で、不安定で、
でも確かに存在している関係。

彼女といるとき。

時間が、少しだけ歪む。

現実なのに、どこか現実じゃない。

でも、それが終わると、
一気に現実に引き戻される。

その落差に、慣れてきている自分がいる。

それが、一番怖い。

ある日、彼女が言った。

「このままでいいのかな」

突然だった。

でも、その言葉はずっと前から、
どこかにあった気がする。

言葉にしなかっただけで、
お互いにわかっていたこと。

私はすぐには答えなかった。

答えなんて、決まっている。

——よくない

でも、それを言ったら終わる。

だから、少しだけ時間を置いてから言う。

「どうだろうね」

曖昧な答え。

何も決めないための言葉。

彼女は、少しだけ笑った。

「だよね」

それ以上は、何も言わなかった。

それで終わる。

終わってしまう。

問題は解決しないまま、
また同じ時間に戻る。

それが、この関係の形だった。

帰り道。

一人で歩きながら考える。

——このままでいいのか

さっきと同じ問い。

でも、答えは変わらない。

よくない。

わかっている。

でも、それでもいいと思ってしまう。

それが、一番の問題だ。

部屋に帰る。

静かな空間。

何もない。

彼女がいないだけで、
こんなにも違う。

ソファに座る。

スマホを見る。

連絡は来ていない。

でも、待っている。

来るかどうかもわからない連絡を、
ただ待っている。

その時間が、無駄だとは思わない。

むしろ、その時間すら必要だと感じている。

——ここにいたい

そう思っている自分がいる。

この関係の中に。

終わるとわかっている場所に。

それでも、まだ離れられない。

理由は、もうはっきりしている。

満たされているから。

完全じゃない。
不安定で、歪で、
いつ壊れてもおかしくない。

それでも、満たされている。

だから、やめられない。

「君は綺麗だ」

その言葉に、すべてを押し込める。

理由を考えれば壊れるから、
考えないようにする。

単純な言葉に逃げる。

それが、一番楽だから。

私はまだ、この関係の中にいる。

抜け出すことはできる。

でも、しない。

その選択をしているのは、自分だ。

誰のせいでもない。

全部、自分で決めている。

だからこそ、やめられない。

もし終わるとしたら、
それはきっと突然だ。

何かが壊れるか、
どちらかが手放すか。

でも、そのときまでは。

私はここにいる。

答えのない場所で。

終わりを知りながら。

それでも、まだ。

ここにいる。

~完~

彼女側の視点でもストーリを書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ

また、他にも『Official髭男dism』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ

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