このページは別記事で描いたVaundyの『瞳惚れ』という曲をモチーフにした、私の妄想ストーリーの数年後の再会(Ifルート)ですφ(・ω・`)
元記事を読んでいない方は、元記事からご覧になっていただければ幸いです。ρ(._.*)ρ
それでは「瞳惚れ 数年後の再会(Ifルート)」(´っ・ω・)っすた~と
第一章:何も起きないはずの場所で
あの交差点を、意識して避けていたわけじゃない。
ただ、自然と通らなくなっただけだった。
生活が変わって、通る道が少しずれて、
気づけばその場所は“過去の中の風景”になっていた。
それでも——
完全に消えたことは、一度もなかった。
思い出そうとしなくても、
ふとした瞬間に浮かぶ。
夕焼けの光。
信号の色。
そして——
目が合った、あの一瞬。
「……」
歩きながら、少しだけ息を吐く。
懐かしい、という言葉で片付けるには、少しだけ重い。
でも、苦しさはもうなかった。
あれほど強く残っていた感覚も、
今では静かに、ただ“そこにある”だけになっている。
それが、少しだけ寂しかった。
「……まあ、こんなもんか」
小さく呟く。
人は慣れる。
どんな強い感情でも、時間が経てば形を変える。
消えはしないけど、
生活の中に溶けていく。
それでいいと思っていた。
思っていたはずだった。
その日、その場所に来るまでは。
「……あ」
足が、止まる。
視界の端に、見覚えのある景色が入り込む。
意識するよりも先に、体が反応していた。
「あれ……」
小さく呟く。
そこは——
あの交差点だった。
意図して来たわけじゃない。
ただ、用事の帰りに少し道を変えただけ。
それなのに、なぜかここにいる。
偶然。
それで片付けられるはずなのに。
妙に引っかかる。
「……こんなことあるか?」
苦笑する。
でも、どこかでわかっている。
完全な偶然じゃない。
少なくとも、“来てもいい”と思った自分がいた。
無意識に。
ほんの少しだけ。
「……久しぶりだな」
交差点を見る。
変わっていない。
信号も、歩道も、周りの建物も。
何も変わらない。
あの日と同じまま。
でも——
自分は変わった。
あのときみたいに、立ち止まる理由はない。
もう、何も起きない。
そう思っていた。
「……」
それでも、動けなかった。
数秒。
いや、もっと長かったかもしれない。
ただ、その場に立って、景色を見ている。
何かを期待しているわけじゃない。
それでも——
どこかで、“何かが起きる”気がしていた。
そんなわけないのに。
「……バカだな」
小さく笑う。
過去に引っ張られている。
そんなこと、自分でもわかっている。
それでも、足が動かない。
視線が、自然と人の流れを追う。
理由もなく。
意味もなく。
ただ、なんとなく。
そして——
その“なんとなく”が、形になる。
「あ……」
視界の中に、違和感が生まれる。
人の流れの中に、ほんの少しだけ“ズレ”がある。
周りと同じように動いているはずなのに、
なぜかそこだけ浮いて見える。
その感覚に、覚えがあった。
「……まさか」
心臓が、一瞬だけ強く鳴る。
信じたくないような、でも否定できないような感覚。
視線を、ゆっくりと向ける。
そこに——
彼女がいた。
時間が、一瞬だけ歪む。
あの日と同じ。
音が、ほんの少しだけ遠くなる。
でも、完全には消えない。
ちゃんと現実は動いている。
それでも——
何かが戻ってきている。
「……え」
思わず、声が漏れる。
小さく。
でも、確かに。
彼女が、こちらを見る。
目が合う。
——同じだ。
一瞬でわかる。
あの日と同じものが、そこにある。
でも、違う。
今回は、止まらない。
時間は流れている。
呼吸もできる。
逃げようと思えば、逃げられる。
それでも——
動けない。
視線が外せない。
あのときほどじゃない。
でも、確実に引き寄せられている。
「……」
言葉が出ない。
何を言えばいいのか、わからない。
数年ぶり。
なのに、その実感がない。
まるで、昨日の続きみたいに。
でも同時に、確実に時間が経っている。
その両方が混ざって、うまく処理できない。
「……ほんとに?」
心の中で呟く。
現実かどうかを確認するみたいに。
でも、わかっている。
これは夢じゃない。
ちゃんと、ここにいる。
彼女も、自分も。
同じ場所に。
同じタイミングで。
「……」
彼女の表情が、少しだけ変わる。
驚きと、戸惑いと、
ほんの少しの——
懐かしさ。
その感情が、はっきりと見えた。
それだけで、十分だった。
同じだ。
同じものを持っている。
同じ一瞬を、同じ形で。
「……」
少しだけ、息を吸う。
今なら、わかる。
あのときとは違う。
これは、もう“瞳惚れ”じゃない。
あの一瞬の衝動じゃない。
でも——
あれがあったから、ここにいる。
あの一瞬が、ここに繋がっている。
それだけは、確かだった。
「……」
一歩、踏み出す。
逃げない。
逸らさない。
今度は、自分で選ぶ。
それが、あのときとの違いだった。
そして——
口を開く。
「……久しぶり」
あの日には言えなかった言葉が、
今は、ちゃんと出た。
第二章:止まらなかった時間
「……久しぶり」
自分の声が、少しだけ遅れて届く。
ちゃんと出たはずなのに、
どこか他人の声みたいに聞こえた。
それくらい、現実感がなかった。
彼女は一瞬だけ、何も言わなかった。
ただ、こちらを見ている。
あのときと同じように。
でも——
違う。
決定的に違う。
あのときは、時間が止まった。
音が消えて、呼吸が乱れて、
何もかもが“そこだけ”に引き寄せられた。
でも今は——
ちゃんと、世界が動いている。
車の音も、人の声も、
全部そのまま聞こえている。
「……ほんとに」
彼女が、やっと口を開く。
声が、少しだけ震えている。
「……ほんとだね」
続けて、小さく笑う。
その笑い方に、少しだけ安心する。
変わっていない部分が、そこにあった。
でも同時に——
変わった部分も、はっきり見える。
「……元気だった?」
ありきたりな言葉。
でも、今はそれが一番自然だった。
「……うん、まあ」
彼女が、少しだけ考えるように答える。
「それなりに」
その言い方が、少しだけ懐かしい。
曖昧で、でもちゃんと意味がある。
「そっか」
それだけで、会話は一度途切れる。
沈黙。
でも、気まずくない。
あの頃とは違う。
逃げる必要がない沈黙。
ただ、言葉を選んでいる時間。
「……」
彼女が、少しだけ周りを見る。
交差点。
人の流れ。
夕焼け。
そして、またこちらに視線を戻す。
「……変わらないね」
ぽつりと、呟く。
景色のことなのか、
この場所のことなのか。
それとも——
自分たちのことなのか。
「……ああ」
短く答える。
でも、内心では少し違うと思っていた。
変わっていないようで、確実に変わっている。
あのときの自分たちは、もっと不安定だった。
もっと危うくて、もっと強く引き寄せられていた。
でも今は——
ちゃんと立っている。
自分の足で。
「……ねえ」
彼女が、少しだけ真剣な声で言う。
「覚えてる?」
その問いに、迷いはなかった。
「……ああ」
すぐに答える。
忘れる理由がない。
忘れられるはずがない。
彼女は、少しだけ目を細める。
その表情に、確信がある。
同じだ。
同じものを持っている。
「……だよね」
小さく頷く。
それだけで、十分だった。
説明はいらない。
あの一瞬を共有している。
それだけで、全部伝わる。
「……あれさ」
彼女が続ける。
少しだけ言葉を探すように。
「あのときのやつ」
曖昧な言い方。
でも、意味ははっきりしている。
「……ああ」
軽く頷く。
あれしかない。
あの一瞬。
あの感覚。
あの光。
「……恋じゃなかったよね」
彼女が言う。
その言葉に、少しだけ笑う。
「……ああ」
すぐに答える。
それが、一番正確だった。
恋じゃない。
もっと前で、もっと速い。
「なんか……」
彼女が、また言葉を探す。
「もっと一瞬で、終わってるやつ」
その表現に、思わず息を吐く。
「……わかる」
完全に一致していた。
あのとき感じていたもの。
言葉にできなかったもの。
それが、今はちゃんと形になっている。
「……変だね」
彼女が、小さく笑う。
「今なら言えるのに」
その言葉に、少しだけ考える。
確かにそうだった。
あのときは、何も言えなかった。
言葉が追いつかなかった。
でも今は違う。
時間が、間にある。
距離が、クッションになっている。
だから、言葉にできる。
「……あのときは無理だろ」
正直に言う。
「あれは……」
少しだけ言葉を選ぶ。
「考える前に終わってた」
その表現に、彼女が少しだけ笑う。
「……それ」
小さく頷く。
完全に一致していた。
「……ほんと、やばかったよね」
彼女が、少しだけ遠くを見る。
あの日のことを思い出しているのがわかる。
「……ああ」
同じように、少しだけ視線を外す。
あのときの自分たち。
不安定で、でも強く繋がっていた。
でも、続かなかった。
続けられなかった。
「……でもさ」
彼女が、ゆっくりとこちらを見る。
「今は違うね」
その一言が、静かに落ちる。
ああ、と納得する。
確かにそうだった。
今は、止まらない。
時間は流れている。
自分たちも、その中にいる。
あのときみたいに、支配されていない。
「……そうだな」
頷く。
これはもう、“瞳惚れ”じゃない。
あれは、あの瞬間だけのもの。
今ここにあるのは——
その“あと”だ。
「……なんか、不思議」
彼女が言う。
「一回終わったのに、また話してるの」
その言葉に、少しだけ考える。
終わった。
確かに、終わった。
でも——
完全には消えていなかった。
だから、今ここにいる。
「……終わってなかったんだろ」
そう答える。
正確には、終わったけど残っていた。
形を変えて。
彼女は、少しだけ黙る。
それから、小さく頷く。
「……そっか」
その一言に、納得があった。
無理に続けるわけじゃない。
でも、無理に終わらせる必要もない。
今なら、ちゃんと選べる。
その前提が、そこにあった。
「……」
信号が変わる。
人が流れる。
あのときと同じ景色。
でも、今は違う。
立ち止まっていない。
ちゃんと、ここにいる。
「……」
ふと、彼女の目を見る。
あのときほど強くはない。
でも、確かに同じ光がある。
消えていない。
ただ、形が変わっている。
「……なあ」
自然に、声が出る。
今度は、迷いがなかった。
これは衝動じゃない。
ちゃんと、自分で選んでいる。
「……どうしたの?」
彼女が、少しだけ首を傾げる。
その仕草が、少しだけ懐かしい。
でも、もう違う。
「……」
一瞬だけ、考える。
そして、決める。
あのときとは違う。
今回は——
ちゃんと進む。
「……コーヒーでも行く?」
自然に、言葉が出る。
無理じゃない。
ただ、そうしたいと思ったから。
彼女は一瞬だけ驚く。
それから、ゆっくりと笑う。
「……いいよ」
その答えは、あまりにも静かで。
でも、確かだった。
これが——
瞳惚れの、その先だった。
第三章:並んで歩く距離
並んで歩く。
それだけのことが、妙に不思議だった。
さっきまで、数年ぶりに再会した相手だったのに。
こうして横にいると、時間の感覚が曖昧になる。
初めてじゃない気がする。
でも、当然そんなはずはない。
「……」
言葉は、特に必要なかった。
無理に何か話さなくても、
沈黙が苦しくならない。
あの頃とは違う。
あのときは、沈黙さえも強すぎた。
視線も、距離も、空気も、
すべてが過剰で、逃げ場がなかった。
でも今は——
ちゃんと余白がある。
呼吸ができる距離。
「……なんか」
彼女が、小さく言う。
「変な感じ」
少しだけ笑いながら。
「なにが?」
軽く返す。
「普通に歩いてるのが」
その言葉に、少しだけ考える。
確かにそうだった。
あのときは、“普通”が存在しなかった。
すべてが極端で、すべてが一瞬だった。
でも今は違う。
ゆっくり進んでいる。
ちゃんと、時間が積み重なっている。
「……まあな」
小さく頷く。
それ以上の言葉はいらなかった。
彼女も、それで十分みたいだった。
「……」
しばらく歩く。
足音が、一定のリズムで重なる。
信号を渡る。
人の流れに混ざる。
すべてが、普通の出来事。
でも——
その“普通”が、どこか特別だった。
「……ねえ」
彼女が、少しだけ声のトーンを落とす。
「さっきのさ」
「うん?」
「“終わってなかった”ってやつ」
その言葉に、少しだけ考える。
「……ああ」
軽く頷く。
言いながらも、完全に整理できていたわけじゃない。
ただ、そう感じただけだった。
「……どういう意味?」
彼女が、ゆっくりと聞く。
問い詰めるわけじゃない。
ただ、確かめるみたいに。
「……」
少しだけ、言葉を選ぶ。
適当には答えたくなかった。
「……終わったのは」
ゆっくり話す。
「形だけだろ」
彼女が、黙って聞いている。
「会わなくなって、それで終わっただけで」
少しだけ視線を前に向ける。
「中身は、残ってた」
それが、一番しっくりくる説明だった。
完全に消えたわけじゃない。
ただ、外に出なくなっただけ。
彼女は、少しだけ歩く速度を緩める。
考えているのがわかる。
「……そっか」
小さく呟く。
その声に、納得が混ざっていた。
「……私も、そんな感じ」
少しだけ笑う。
「消えたわけじゃなかった」
その言葉に、少しだけ安心する。
やっぱり同じだった。
どちらかだけじゃない。
両方が、同じものを持っている。
「……厄介だな」
軽く言う。
彼女が、小さく笑う。
「ほんとにね」
そのやりとりが、妙に自然だった。
あの頃にはなかったもの。
言葉で共有できる距離。
それが、今ここにある。
「……」
ふと、横を見る。
彼女がいる。
当たり前みたいに。
でも、本当は当たり前じゃない。
一度、終わった関係。
それが、こうしてまた繋がっている。
その事実が、少しだけ現実離れしていた。
「……ねえ」
彼女が、また言う。
「今ってさ」
少しだけ、間を置く。
「どういう状態なんだろうね」
その問いに、少しだけ考える。
あの頃なら、答えられなかった。
そもそも、考える余裕がなかった。
でも今は違う。
ちゃんと、言葉にできる。
「……普通だろ」
そう答える。
シンプルに。
「普通?」
彼女が少しだけ首を傾げる。
「再会して、話して、歩いてる」
少しだけ笑う。
「それ以上でも、それ以下でもない」
あえて、そう言う。
過剰に意味を持たせない。
今は、それでいいと思った。
彼女は少しだけ黙る。
それから、小さく頷く。
「……うん」
納得したように。
でも、その奥には少しだけ揺れがある。
完全には割り切れていない。
それも、わかる。
「……」
歩き続ける。
距離は、変わらない。
近すぎず、遠すぎず。
ちょうどいい位置。
あのときとは違う。
あの頃は、近づきすぎていた。
だから壊れた。
でも今は——
ちゃんと保てている。
それが、少しだけ心地よかった。
「……でもさ」
彼女が、ふと笑う。
「やっぱりちょっとだけ」
視線をこちらに向ける。
「変だよ」
その言葉に、少しだけ笑う。
「……まあな」
完全に普通じゃない。
それは、お互いわかっている。
でも——
それでもいいと思えた。
「……」
空を見上げる。
夕焼けが、少しだけ柔らかい。
あの日と同じ色。
でも、眩しさが違う。
痛くない。
ちゃんと見ていられる。
「……」
ふと、思う。
あのときは、奪われた。
でも今は違う。
ちゃんと、自分でここにいる。
選んでいる。
それが、何よりの違いだった。
「……」
少しだけ、息を吐く。
そして、決める。
この時間を、ちゃんと続けてみようと。
無理にじゃない。
ただ、そうしたいと思ったから。
「……」
横を見る。
彼女が、同じように前を見ている。
その表情は、あの頃よりも少しだけ穏やかだった。
それが、答えだった。
これはもう——
瞳惚れじゃない。
でも。
あれがあったから、ここにいる。
その事実だけは、変わらなかった。
静かに。
でも確かに。
二人は、同じ方向に歩いていた。
第四章:揺り戻しの光
店に入る。
ガラス扉が閉まる音が、少しだけ現実を区切った。
外の夕焼けとは違う、柔らかい照明。
人の話し声。
コーヒーの匂い。
全部が、日常の中にあるもの。
さっきまでの交差点とは違う空気だった。
「……なんか安心するね」
彼女が、小さく笑う。
「なにが?」
席に座りながら聞く。
「普通の場所って感じ」
その言葉に、少しだけ納得する。
確かに、ここには“あのとき”の気配がない。
あの交差点みたいに、何かが歪む感じもない。
ただの店。
ただの時間。
それが、逆に新鮮だった。
「……まあな」
コーヒーを頼む。
何気ないやり取り。
店員の声。
メニューを選ぶ時間。
全部が、ちゃんと地続きの現実だった。
あの頃にはなかった感覚。
「……」
注文が終わる。
少しだけ、間が空く。
向かい合って座る。
距離は、さっきよりも近い。
テーブル一枚分。
でも、不思議と緊張はなかった。
「……ほんとにさ」
彼女が、少しだけ真面目な顔になる。
「変だよね」
「またそれか」
軽く笑う。
「だって」
彼女が続ける。
「一回終わったのに、普通に話してるし」
その言葉に、少しだけ考える。
確かにそうだった。
あのときは、終わるしかなかった。
続けることができなかった。
でも今は、こうして向かい合っている。
矛盾しているようで、でも自然だった。
「……終わり方が中途半端だったんだろ」
静かに言う。
「だから、どっかに残ってた」
彼女は、少しだけ目を細める。
その言葉を、ちゃんと受け止めている。
「……うん」
小さく頷く。
「たぶん、そう」
コーヒーが運ばれてくる。
湯気が、ゆっくりと上がる。
その動きを、少しだけぼんやりと見る。
「……」
一口飲む。
苦い。
でも、その苦さがちょうどよかった。
「……ねえ」
彼女が、ふいに言う。
顔を上げる。
視線が、合う。
その瞬間——
少しだけ、時間が揺れる。
ほんの一瞬。
あの感覚に近い何か。
強くはない。
でも、確かにある。
「……」
言葉が止まる。
彼女も、同じだった。
わかる。
同じように、感じている。
あのときの残り火みたいなものが、
一瞬だけ浮かび上がる。
「……今の」
彼女が、小さく呟く。
「ちょっとだけ、戻ったね」
その言葉に、苦笑する。
「……ああ」
否定できない。
完全には消えていない。
あの“瞳惚れ”の感覚。
形を変えて、まだ残っている。
「……でも」
彼女が続ける。
「大丈夫だね」
その言葉に、少しだけ考える。
さっきの感覚。
確かにあった。
でも——
飲み込まれなかった。
あのときみたいに、支配されなかった。
ちゃんと、戻ってこれた。
「……ああ」
ゆっくり頷く。
それが、答えだった。
あの頃とは違う。
同じものを持っているけど、
同じ状態ではない。
「……不思議」
彼女が、少しだけ笑う。
「残ってるのに、支配されない」
その言葉に、少しだけ納得する。
「……たぶん」
少しだけ言葉を選ぶ。
「一回終わったからだろ」
彼女が、静かに聞いている。
「中途半端に続いてたら、まだやばかったと思う」
正直に言う。
もしあのとき、無理に続けていたら。
きっと、もっと壊れていた。
今みたいに落ち着いて向き合うことは、できなかったはずだ。
「……そっか」
彼女が、小さく息を吐く。
「じゃあ、あれでよかったんだ」
その言葉に、少しだけ間が空く。
「……たぶんな」
完全に正しいとは言い切れない。
でも、間違いでもなかった。
そう思えた。
「……」
また、沈黙が落ちる。
でも、今度は静かだった。
落ち着いている。
さっきみたいな揺れは、もうない。
「……ねえ」
彼女が、少しだけ柔らかい声で言う。
「今ならさ」
顔を上げる。
「ちゃんとできる気がする」
その言葉の意味は、すぐにわかった。
あのときは無理だった。
強すぎて、速すぎて、
何も選べなかった。
でも今は違う。
ちゃんと、自分で選べる。
「……ああ」
迷いはなかった。
これは、衝動じゃない。
瞳惚れじゃない。
でも——
あれがあったから、ここにいる。
それだけは、変わらない。
「……」
彼女が、少しだけ笑う。
あのときと同じ笑い方。
でも、違う。
今は、ちゃんと意味を持っている。
「……なんかさ」
彼女が言う。
「やっとスタートって感じ」
その言葉に、少しだけ驚く。
そして、少しだけ笑う。
「……遅いな」
軽く言う。
「ほんとにね」
彼女も笑う。
でも、その遅さがちょうどよかった。
早すぎたあのときとは違う。
今のこの速度が、ちょうどいい。
「……」
コーヒーを飲む。
少し冷めている。
でも、それくらいがちょうどいい。
ふと、彼女を見る。
目が合う。
さっきと同じ。
でも、違う。
揺れない。
逃げない。
ちゃんと、ここにいられる。
「……」
静かに、息を吐く。
あのときは、奪われた。
でも今は——
選んでいる。
それが、すべてだった。
この先どうなるかは、まだわからない。
でも、それでいい。
無理に決める必要はない。
ただ、進めばいい。
この距離で。
この速度で。
瞳惚れの、その先へ。
エピローグ:あの一瞬の続き
時間は、ちゃんと進んでいた。
特別なことなんて、ほとんどない。
朝が来て、仕事に行って、
くだらない話をして、笑って、
気づけば一日が終わる。
そんな日々の繰り返し。
でも——
それでよかった。
「……眠い」
小さく呟きながら、コーヒーに口をつける。
向かいに座る彼女が、少しだけ笑う。
「昨日遅かったもんね」
「誰のせいだよ」
軽く返す。
「私のせいじゃないでしょ」
そんなやりとりが、自然に続く。
あのときとは違う。
言葉に困ることもないし、
距離に迷うこともない。
全部、ちゃんとここにある。
選んできた時間として。
「……」
ふと、窓の外を見る。
夕焼けが広がっている。
少しだけ、懐かしい色。
「……どうしたの?」
彼女が、少しだけ首を傾げる。
「いや」
軽く笑う。
「ちょっと思い出しただけ」
「なにを?」
少しだけ間を置く。
言葉を選ぶ必要はない。
でも、ちゃんと選びたかった。
「……最初のやつ」
それだけで、彼女は理解する。
少しだけ、目を細める。
「……ああ」
小さく頷く。
あの交差点。
あの視線。
あの一瞬。
「……ほんと、変な始まり方だったよね」
彼女が、少しだけ笑う。
「普通じゃなかった」
「普通じゃなさすぎたな」
軽く返す。
でも、それが一番正確だった。
あれは、普通じゃなかった。
恋でも、好意でもなくて。
もっと速くて、もっと理不尽で。
一瞬で全部を持っていくものだった。
「……でもさ」
彼女が、コーヒーを見ながら言う。
「なかったら、こうなってないよね」
その言葉に、少しだけ考える。
「……まあな」
素直に頷く。
あの一瞬がなかったら。
ここに座っていない。
この時間も、この距離も、存在していない。
「……なんか、不思議」
彼女が呟く。
「一瞬だったのに、ずっと続いてる」
その言葉に、少しだけ笑う。
「続いてるのは、別のやつだろ」
「別のやつ?」
「今のやつ」
そう言うと、彼女が少しだけ笑う。
「なにそれ」
「わかるだろ」
軽く返す。
あのときの“瞳惚れ”は、もう終わっている。
あれは、あの一瞬だけのもの。
でも——
そこから繋がっている今は、別物だ。
ちゃんと時間をかけて、
ちゃんと選んできたもの。
「……そっか」
彼女が、少しだけ柔らかく笑う。
納得したみたいに。
「……でも」
少しだけ視線を上げる。
「やっぱり、あれが一番強かった気がする」
その言葉に、少しだけ考える。
否定はできない。
あの瞬間の強さは、他の何とも違った。
一瞬で、全部変わった。
「……まあな」
小さく頷く。
「でも、あれだけじゃ続かない」
それも、確かだった。
あれは、始まりじゃない。
きっかけですらないかもしれない。
ただの“現象”。
それでも——
確かに、すべてはそこから始まった。
「……ねえ」
彼女が、少しだけ静かな声で言う。
「もしさ」
その言い方に、少しだけ懐かしさを感じる。
「もし、あの日会ってなかったら」
少しだけ間が空く。
「どうなってたと思う?」
その問いに、すぐには答えなかった。
考える。
でも——
すぐに答えは出る。
「……会ってるだろ」
そう言う。
彼女が少しだけ驚く。
「なんで?」
「なんとなく」
少しだけ笑う。
「どっかで、同じことになってた気がする」
理由はない。
でも、そう思った。
あの出会いは、偶然じゃない。
あの形じゃなかったとしても、
どこかで繋がっていた気がする。
彼女は、少しだけ黙る。
それから、小さく笑う。
「……それ、ずるいね」
「なにが」
「なんか、全部肯定してる感じ」
その言葉に、少しだけ笑う。
「……いいだろ、別に」
正解なんてない。
でも、これが一番しっくりくる。
「……まあ、いいか」
彼女が、コーヒーを飲む。
少しだけ、間が空く。
静かな時間。
でも、心地いい。
「……」
ふと、思う。
あのとき。
目が合った、あの瞬間。
あれは、確かに“瞳惚れ”だった。
一瞬で、すべてを奪われるもの。
でも——
それだけじゃなかった。
そこから先に、続くものがあった。
時間をかけて、選んで、重ねていくもの。
それが、今ここにある。
「……ほんと」
小さく呟く。
「眩しかったな」
彼女が、少しだけ笑う。
「今は?」
その問いに、少しだけ考える。
そして——
「……今も」
そう答える。
あのときほどじゃない。
でも、確かにある。
形を変えて、ここに残っている。
彼女が、少しだけ目を細める。
その表情を見て、思う。
ああ、これでよかったと。
あの一瞬も。
あの別れも。
あの再会も。
全部、必要だった。
だから、今ここにいる。
窓の外で、信号が青に変わる。
人が動き出す。
その流れを、ぼんやりと見つめる。
「……」
もう、振り返らない。
振り返る必要がない。
あの一瞬は、過去にある。
でも同時に——
今にも繋がっている。
それでいい。
それがいい。
すべては、あの一瞬から始まった。
そして、今も続いている。
静かに。
確かに。
これが——
あの一瞬の、続きだった。
~完~
冒頭にも書きましたが、彼側の視点ストーリを読んでいないようでしたら読んでみてくださいρ(._.*)ρ
また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ






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