『瞳惚れ』Vaundy。”妄想ストーリー(彼女側視点)”

Vaundy

このページは別記事で描いたVaundyの『瞳惚れ』という曲をモチーフにした、私の妄想ストーリーの彼女側の視点ですφ(・ω・`)

元記事を読んでいない方は、元記事からご覧になっていただければ幸いです。ρ(._.*)ρ

それでは「瞳惚れ(彼女側視点)」(´っ・ω・)っすた~と

『瞳惚れ(彼女側視点)』

第一章:気づいてしまった瞬間

最初に気づいたのは、私の方だった。

あの日、何かが少しだけズレていた。

朝からずっと、違和感があった。

理由はわからない。
体調が悪いわけでもないし、何か特別なことがある日でもない。

でも、すべてがほんの少しだけ噛み合っていなかった。

歩く速度。
周りの音。
自分の呼吸。

全部が、わずかにズレている。

「……なんだろ」

小さく呟く。

答えは出ない。

でも、その違和感は消えなかった。

むしろ、時間が経つほど強くなっていく。

まるで——

“何かに近づいている”みたいに。

交差点に着く。

いつもと同じ場所。

人が集まり、信号を待ち、青になったら一斉に動き出す。

ただそれだけの場所。

でも、その日は違った。

空気が、少しだけ重い。

音が、少しだけ遠い。

色が、ほんの少しだけ濃い。

世界が、わずかに歪んでいる。

「……」

立ち止まる。

周りの人たちは普通に動いているのに、
自分だけがそこから切り離されている感覚。

そのときだった。

視線を感じた。

強いわけじゃない。

むしろ、自然すぎるくらい自然な視線。

それなのに、なぜか確信した。

——あ、見られてる。

ただそれだけのこと。

でも、なぜか無視できなかった。

普通なら、そのままやり過ごす。

知らないふりをする。

それが一番楽だから。

でも——

できなかった。

体が、先に反応した。

振り返る。

そこに、彼がいた。

少しだけ遅れて立ち止まっている。

周りの人たちの流れから、ほんの少しだけ外れている。

その“ズレ”が、やけに目についた。

「あ……」

小さく、声が漏れそうになる。

なぜか、わからない。

でも——

見た瞬間に、理解してしまった。

これは、普通じゃない。

関わってはいけない。

そう思った。

はっきりと。

理由なんてないのに。

でも、確信だけがあった。

「……だめだ」

心の中で呟く。

逃げなきゃいけない。

関わったら、きっと戻れなくなる。

そんな予感が、確かにあった。

それなのに——

目が離せなかった。

まるで、引き寄せられるみたいに。

視線が固定される。

外そうと思えば外せるはずなのに、
その“外す”という選択が、存在しないみたいに。

そして、彼がこちらを見る。

目が、合った。

その瞬間——

世界が、静かに崩れた。

音が遠ざかる。

車の音も、人の声も、全部一度沈む。

代わりに、自分の鼓動だけが大きくなる。

ドクン、と一つ鳴る。

それが合図みたいに、何かが始まる。

時間が、引き伸ばされる。

ほんの一瞬のはずなのに、異様に長い。

その中で、私は“わかってしまった”。

——ああ、これだ。

この違和感の正体。

朝から続いていたズレ。

全部、ここに繋がっていた。

この瞬間に、辿り着くために。

「……知ってる」

なぜか、そう思った。

初めて見る顔なのに。

初めて会ったはずなのに。

この目を、この距離を、この空気を。

どこかで、すでに経験している気がした。

夢かもしれない。
記憶の断片かもしれない。

でも、そんなことはどうでもよかった。

重要なのは——

“こうなることを知っていた”という感覚だった。

怖かった。

本当に、怖かった。

未来が決まっているみたいな感覚。

ここから先、どうなるのか。

全部わかってしまいそうで。

それでも——

目を逸らしたくなかった。

むしろ、逸らしたら終わる気がした。

この瞬間ごと、失ってしまう気がした。

「……」

息が浅くなる。

呼吸の仕方を忘れたみたいに。

でも、不思議と苦しくはない。

むしろ、どこか心地いい。

落ちていく感覚。

抵抗しようとしても、意味がないとわかる。

もう遅い。

視線が合った時点で、すべては始まっていた。

——いや。

始まる前に、もう終わっていたのかもしれない。

言葉が追いつく前に、
感情が追いつく前に、
すべて決まってしまう。

そんなものがあるなんて、知らなかった。

「……」

彼の目を、ただ見ている。

そこに、自分が映っている気がした。

そして同時に、全部奪われていく感覚。

視界も、思考も、感情も。

全部、そっちに引き寄せられていく。

「……だめなのに」

もう一度、心の中で呟く。

でも、意味がない。

止められない。

これはもう、意志の問題じゃない。

もっと深いところで、決まっている。

信号が変わる。

周りの人たちが動き出す。

世界が、また音を取り戻す。

でも、自分だけが少し遅れている。

彼も、同じだった。

一瞬だけ、時間の外にいた。

そんな感覚。

やがて、距離が近づく。

すれ違う。

ほんの一瞬。

でも、その瞬間が、やけに濃い。

甘い香りがした。

どこからなのかは、わからない。

でも、それが記憶に焼きつく。

この瞬間を、忘れられなくするための“何か”みたいに。

触れそうで、触れない。

そのまま、すれ違う。

終わる。

……はずだった。

でも、終わらない。

体の奥に、何かが残る。

熱のようなもの。

違和感の正体。

「……始まっちゃった」

小さく呟く。

誰にも聞こえない声で。

認めたくなかった。

でも、もう無理だった。

これは、ただの偶然じゃない。

ただの出会いでもない。

もっと一瞬で、もっと抗えないもの。

目が合った、その瞬間に。

すべてを奪われる。

言葉にする前に、すでに落ちている。

——瞳惚れ。

その言葉は、まだ知らなかった。

でも、確かに理解していた。

これは——

戻れない何かだと。

第二章:近づいてしまう理由

あの日から、すべてが少しずつ変わってしまった。

大きな変化なんてない。

学校も、街も、いつも通り。
やることも、話す人も、何一つ変わっていない。

それなのに——

“あの一瞬”だけが、浮いている。

日常の中に、明らかに異質なものとして残っている。

朝、目を覚ます。

ぼんやりと天井を見つめる。

その数秒後には、もう思い出している。

あの視線。

あの距離。

あの光。

「……なんで」

小さく呟く。

理由なんてわかっている。

忘れられないからだ。

忘れる前に、思い出してしまう。

意識する前に、もうそこにある。

まるで最初から、自分の中に組み込まれていたみたいに。

「……やめたいのに」

布団の中で、目を閉じる。

でも、逆効果だった。

暗闇の中の方が、はっきりする。

あの瞬間が、鮮明に再生される。

音の消え方。

呼吸の浅さ。

目が合ったときの、あの感覚。

——落ちる、みたいな。

「……だめだ」

思わず、起き上がる。

これ以上考えると、どこかに引きずり込まれそうだった。

日常に戻る。

準備をして、外に出て、歩く。

いつもと同じ道。

同じ景色。

でも——

足が、少しだけ迷う。

本来通るはずのない道を、無意識に選びそうになる。

「……やめとこ」

わざと、別の道を選ぶ。

あの交差点を避ける。

それが正しいと、わかっているから。

行かなければいい。

見なければいい。

それだけで、すべてはなかったことになる。

——はずだった。

でも。

数分後、気づく。

自分が、戻っていることに。

遠回りしていたはずなのに、
なぜか同じ方向に向かっている。

「……うそでしょ」

小さく呟く。

自分の意思で選んでいない感覚。

気づいたら、そうなっている。

引き寄せられている。

そんな言葉が、頭に浮かぶ。

認めたくないのに、否定できない。

そして——

交差点が見えてくる。

「……」

足が、止まる。

行くか、戻るか。

その選択だけが、目の前にある。

でも、どちらも正しくない気がした。

行けば、戻れなくなる。

戻れば、きっと後悔する。

「……」

数秒の沈黙。

その間に、もう決まっていた。

体が、前に出る。

意思よりも先に。

抗えない流れみたいに。

そして、視線を上げる。

——いた。

やっぱり。

そこに、彼がいた。

「……来てる」

思わず、息が詰まる。

偶然じゃない。

絶対に違う。

これは、選んで来ている。

お互いに。

理由なんてないのに。

でも、来てしまう。

「……やっぱりだ」

確信する。

あのときの感覚は、間違っていなかった。

これは、ただの興味じゃない。

もっと深い。

もっと速い。

もっと危険なもの。

——瞳惚れ。

まだ言葉にはしていないのに、
その意味だけは理解している。

目が合った瞬間に、すべてが決まる。

逃げようとしても、もう遅い。

だから——

「……また会ったね」

できるだけ、普通に言う。

何も特別じゃないみたいに。

偶然の延長みたいに。

でも、本当は違う。

全部、わかっている。

これは偶然じゃない。

もう、引き返せないところまで来ている。

彼の反応を見る。

少しだけ戸惑っている。

でも、その奥に同じものがある。

わかる。

言葉にしなくても、わかる。

同じところにいる。

同じように、引き込まれている。

「……やばいね」

心の中で呟く。

でも、止められない。

むしろ——

止める気がない自分がいる。

彼と話す。

ほんの少しの会話。

内容なんて、どうでもいい。

何を話したかよりも、
“話した”という事実だけが残る。

その時間が、やけに濃い。

一秒一秒が、重い。

でも、あっという間に終わる。

「……なんで」

また思う。

どうしてこんなことになるのか。

どうして、ここまで引き寄せられるのか。

答えは出ない。

でも、一つだけわかっている。

——もう、止まらない。

彼を見ていると、わかる。

少しずつ、深く入り込んでいる。

距離が、自然と縮まっていく。

視線が、外せなくなっていく。

同じだ。

完全に、同じ状態。

「……戻れないね」

小さく呟く。

声には出さない。

でも、確かにそう思った。

このまま進めば、どうなるか。

なんとなくわかっている。

壊れる。

きっと、どこかで終わる。

それでも——

今は、それでいいと思ってしまう。

この時間を、もう少しだけ続けたい。

この感覚を、もう少しだけ味わいたい。

理屈じゃない。

説明もできない。

ただ、そう思ってしまう。

「……ほんと、だめだな」

自分で呟く。

でも、その言葉に力はない。

止める気がないから。

わかっているのに、やめられない。

それが一番、危険だった。

彼が少しだけ笑う。

その瞬間、また心が揺れる。

簡単に、全部持っていかれる。

「……ああ」

理解する。

これはもう、“惹かれている”じゃない。

もっと深い。

もっと速い。

目が合った瞬間に、すでに終わっている関係。

でも、それでも続いてしまうもの。

——瞳惚れ。

それが、今ここで確かに進行している。

止められないまま。

落ちていくみたいに。

静かに、確実に。

第三章:距離を壊せない理由

好きだ、なんて言葉じゃ足りなかった。

そもそも、それに当てはめるのも違う気がしていた。

もっと速い。

もっと乱暴で。

もっと、一瞬で全部を奪っていくもの。

それが、彼だった。

「……ほんとにやばい」

一人でいるとき、何度も呟く。

彼と会ったあと、必ず思う。

今日はもう少し距離を取ろう、とか。
次はちゃんと普通に接しよう、とか。

何度も、決める。

でも——

全部、崩れる。

次に会った瞬間に。

交差点に向かう足は、もう止められなかった。

行かない選択は、存在しているはずなのに、
実際には選べない。

気づいたら、そこにいる。

彼も、同じだった。

言葉にはしないけど、わかる。

同じように、ここに来ている。

理由もなく。

説明もなく。

ただ、来てしまう。

「……ほんと、ずるいよね」

小さく呟く。

彼じゃない。

この状況が、ずるい。

逃げ場を用意してくれない。

一度踏み込んだら、もう引き返せない。

それなのに——

その先に進みたくなってしまう。

「……来た」

彼がいる。

視界に入った瞬間、呼吸が変わる。

体温が、少しだけ上がる。

心臓が、わずかに速くなる。

意識しなくても、反応してしまう。

それがもう、答えだった。

「……まただ」

心の中で呟く。

同じことの繰り返し。

でも、慣れない。

むしろ、回を重ねるごとに強くなる。

彼の前に立つ。

距離が近い。

前よりも、ほんの少しだけ。

それが自然なことみたいに感じるのが、怖かった。

「……ねえ」

わざと、声をかける。

自分から距離を詰める。

試している。

どこまで行けるのか。

どこで壊れるのか。

「どうしたの?」

彼が、少しだけ戸惑った顔で答える。

その表情を見て、少しだけ安心する。

——まだ、同じ場所にいる。

自分だけが進んでいるわけじゃない。

彼も、同じように巻き込まれている。

「……なんでもない」

軽く笑う。

本当は、なんでもなくない。

全部、わかっている。

でも、それを言葉にしたら終わる気がした。

この曖昧さが、この関係を保っている。

だから、壊せない。

「……ほんとに」

彼を見ながら思う。

この距離。

この空気。

この温度。

全部が、危うい。

少しでも踏み込んだら、崩れる。

でも——

その“少し”が、やめられない。

一歩、近づく。

意図的に。

ほんの少しだけ。

それだけで、彼の反応が変わる。

視線が揺れる。

呼吸が浅くなる。

その変化を見て、確信する。

——同じだ。

同じように、壊れかけている。

それが、安心であり、同時に怖かった。

「……だめだよね」

心の中で呟く。

でも、体は止まらない。

むしろ、もっと近づこうとする。

彼の目を見る。

深く、覗き込むように。

そこに、自分が映っている気がした。

そして同時に、引き込まれる。

底が見えないみたいに。

「……」

言葉が出ない。

何かを言わなきゃいけない気がするのに、
何も浮かばない。

でも、それでいい気もした。

言葉がない方が、正確だった。

この感覚は、説明できるものじゃない。

ただ、感じるだけのもの。

「……ねえ」

彼が何か言いかける。

その瞬間、少しだけ怖くなる。

踏み込まれる。

この曖昧な関係に、名前がつけられる。

それが、怖かった。

「……いい」

思わず、遮る。

彼が驚く。

でも、構わなかった。

これ以上は危ない。

言葉にしたら、戻れなくなる。

「……このままで」

小さく言う。

聞こえるか聞こえないかくらいの声で。

彼は何も言わない。

でも、その沈黙が答えだった。

理解している。

同じように感じている。

だからこそ、踏み込まない。

それが、この関係の限界だった。

「……ほんと、ずるい」

もう一度、呟く。

誰に向けた言葉かはわからない。

彼かもしれないし、自分かもしれない。

この状況そのものかもしれない。

でも、確かなことがある。

——壊せない。

壊したくない。

この曖昧な距離。

この危ういバランス。

これがあるから、続いている。

でも同時に——

これがあるから、終わる。

それも、わかっていた。

彼が少しだけ笑う。

その瞬間、また全部が揺れる。

簡単に、持っていかれる。

「……ああ」

理解する。

もう、完全に同じ場所にいる。

彼も、自分も。

逃げられない。

止められない。

でも、進みすぎることもできない。

その中間に、ずっといる。

それが、この関係だった。

——瞳惚れ。

目が合った瞬間に始まって、
終わりまで決まっているもの。

それでも、途中をやめられないもの。

静かに、確実に。

壊れていくことを知りながら。

それでも、離れられないものだった。

第四章:知ってしまった終わり

限界は、静かに近づいていた。

音もなく。
形もなく。

でも確実に、そこにあるとわかる距離で。

「……そろそろだよね」

誰もいない部屋で、小さく呟く。

答えは返ってこない。

でも、自分の中ではもう決まっていた。

終わらせなきゃいけない。

このまま続けたら、壊れる。

どこが、とは言えない。

関係かもしれないし、自分かもしれないし、彼かもしれない。

でも——

“何かが壊れる未来”だけは、はっきり見えていた。

それが、怖かった。

「……」

目を閉じる。

思い出す。

あの交差点。

あの視線。

あの一瞬。

全部、鮮明に浮かぶ。

時間が経っても、少しも薄れない。

むしろ、余計なものが削ぎ落とされて、
核心だけが残っている。

「……ずるいな」

小さく笑う。

こんなに残るなんて、聞いてない。

こんなに強くなるなんて、思ってなかった。

たった一瞬のはずなのに。

それだけで、ここまで来てしまうなんて。

「……だめだよね」

もう一度、呟く。

確認するみたいに。

でも、答えは変わらない。

だめだ。

続けてはいけない。

そうしないと——

本当に戻れなくなる。

次の日。

交差点に向かう。

足取りが重い。

いつもと同じ道なのに、妙に長く感じる。

一歩進むたびに、何かを失っていく気がした。

「……まだ、戻れるかな」

ふと思う。

今日行かなければ、全部終わる。

あの一瞬も、あの時間も、
ただの“偶然”として片付けられる。

何もなかったことにできる。

でも——

それは、できないとわかっていた。

すでに“なかったこと”にできる段階は過ぎている。

だからこれは、選択じゃない。

ただの“終わらせ方”の問題だった。

交差点が見える。

遠くからでも、わかる。

彼が、いる。

「……やっぱり」

小さく息を吐く。

来てしまう。

お互いに。

何度でも。

それが、もう答えだった。

「……最後だね」

心の中で、そう決める。

今日は、ちゃんと終わらせる。

曖昧なままじゃなくて。

逃げるでもなくて。

でも——

傷つけない形で。

それができるかどうかは、わからない。

でも、やるしかなかった。

近づく。

距離が縮まる。

彼の視線が、こちらに向く。

その瞬間、やっぱり思う。

——無理かも。

全部、やめたくなる。

このまま何も言わずに、また同じ時間を繰り返したくなる。

でも。

それは、もうできない。

「……ねえ」

声をかける。

少しだけ、震える。

でも、止めない。

彼が答える。

その声を聞くだけで、また揺れる。

簡単に、全部崩れそうになる。

「……もしさ」

時間を戻せるなら。

そう言ったとき、自分でもわかった。

これは、確認じゃない。

決断のための言葉だった。

彼がどう答えるかで、
自分がどうするかを決めようとしている。

ずるい。

自分でもそう思う。

でも、それくらいしないと決められなかった。

「戻さない」

即答だった。

迷いもなく。

その一言で、全部わかる。

ああ、同じだ。

同じところまで来てしまっている。

だから——

終わらせなきゃいけない。

これ以上進んだら、本当に戻れなくなる。

「……そっか」

笑う。

できるだけ、いつも通りに。

でも、たぶん無理だった。

胸が痛い。

呼吸が浅くなる。

それでも、表には出さない。

出したら終わる。

「……」

少しだけ、視線を外す。

逃げたいわけじゃない。

でも、このまま見ていたら、決断が揺らぐ。

彼の目は、危険だった。

見ているだけで、全部持っていかれる。

「……ごめんね」

心の中で呟く。

声には出さない。

出したら、意味がなくなる。

これは、彼に伝えるためじゃない。

自分が踏み出すための言葉だった。

「……」

沈黙が落ちる。

重い。

でも、必要な時間だった。

ここで何も言わなければ、また続いてしまう。

だから——

終わらせる。

「……またね」

そう言う。

軽く。

何も特別じゃないみたいに。

でも、その中に全部を込める。

終わりも、感謝も、全部。

彼は、何も言わない。

でも、わかる。

伝わっている。

同じように、理解している。

だからこそ、追わない。

それが、この関係の最後だった。

背を向ける。

歩き出す。

一歩一歩、離れていく。

振り返らない。

振り返ったら、終われない。

それだけは、わかっていた。

「……これでいい」

自分に言い聞かせる。

正しいかどうかなんて、わからない。

でも、これしかなかった。

あのまま続けていたら、
きっともっと深く壊れていた。

だから——

ここで止める。

それが、自分にできる唯一の選択だった。

風が吹く。

少しだけ、あの香りがした気がした。

でも、振り返らない。

もう、見ない。

見たら、戻れなくなる。

歩き続ける。

そのまま、交差点から離れていく。

「……終わった」

小さく呟く。

でも、不思議と空っぽじゃなかった。

何かが、ちゃんと残っている。

それだけが、救いだった。

——瞳惚れ。

目が合った瞬間に始まって、
終わりまで決まっているもの。

だからこそ、自分で終わらせるしかなかった。

それが、私の選択だった。

第五章:消えたあとの世界

行かなかった日から、時間の流れが変わった。

ちゃんと進んでいるはずなのに、
どこか“抜けている”感覚があった。

朝が来る。

目を覚ます。

天井を見る。

——思い出す。

反射だった。

もう習慣みたいに、何も考える前に浮かぶ。

あの交差点。

あの視線。

あの一瞬。

「……」

息を吐く。

止めようとはしない。

止められないと、もうわかっているから。

むしろ——

止めたくない自分がいることにも、気づいていた。

「……ほんとに終わったのかな」

小さく呟く。

答えは出ない。

終わったはずだった。

自分で決めて、自分で終わらせた。

だから、これでよかったはずなのに。

どこか、納得していない自分がいる。

「……だよね」

苦笑する。

終わるわけがない。

あんな終わり方で。

言葉にしないまま。

気持ちも、意味も、全部曖昧なまま。

ただ“離れただけ”。

それを終わりと呼ぶには、少し足りなかった。

それでも——

行かない。

あの場所には、もう行かないと決めた。

もし行ったら、また会ってしまう。

そして、同じことを繰り返す。

それがわかっているから。

「……」

外に出る。

いつもの道を歩く。

わざと、違う道を選ぶ。

あの交差点を避けるように。

でも、意識している時点で意味がない。

頭の中では、ずっとそこにいる。

「……いるかな」

ふと思う。

今、この瞬間。

彼はあの場所にいるのかもしれない。

自分がいないことに気づいているのかもしれない。

待っているのかもしれない。

——やめて。

すぐに、その思考を遮る。

考えたら終わる。

揺らぐ。

決めたことが、崩れる。

だから、考えない。

考えないようにする。

それでも——

完全には止められない。

「……ほんと、弱いな」

小さく呟く。

終わらせたのは自分なのに。

自分で決めたのに。

それでも、揺れている。

それが、一番苦しかった。

家に帰る。

部屋に入る。

静かすぎる。

前と何も変わらないはずなのに、
何かが決定的に違う。

「……」

座る。

何もせずに、ただ時間が過ぎるのを待つ。

でも、進まない。

体感だけが遅い。

思考だけが、同じところを回っている。

目を閉じる。

——すぐに思い出す。

あの視線。

あの距離。

あの沈黙。

「……やめてよ」

小さく呟く。

でも、止まらない。

むしろ、鮮明になる。

あの日よりも、はっきりと。

余計なものが削ぎ落とされて、
核心だけが残っている。

まるで、記憶の中で再構築されているみたいに。

「……残りすぎでしょ」

苦笑する。

消えるどころか、濃くなっている。

時間が経てば忘れるなんて、嘘だった。

むしろ逆だった。

時間が経つほど、形がはっきりしてくる。

「……ほんとに、これでよかったのかな」

また思う。

同じ問い。

何度目かもわからない。

答えは変わらないはずなのに、
何度も繰り返してしまう。

——よかった。

そう思わなきゃいけない。

あのまま続けていたら、きっと壊れていた。

それは、今でも確信している。

でも。

それでも。

「……会いたいな」

ぽつりと、漏れる。

止められなかった。

一瞬だけ、本音が出る。

その言葉を、自分で聞いてしまう。

「……ほんと、だめだ」

すぐに否定する。

でも、消えない。

一度出た感情は、簡単には戻らない。

むしろ、そこから広がっていく。

彼の顔が浮かぶ。

声が浮かぶ。

あの笑い方。

あの距離。

全部、戻ってくる。

「……」

呼吸が浅くなる。

胸が、少しだけ痛む。

でも、不思議と嫌じゃない。

この感覚を、どこかで受け入れている。

それが、さらに苦しかった。

「……終わってないじゃん」

小さく呟く。

それが、答えだった。

終わっていない。

ただ、会わなくなっただけ。

それだけで、全部が消えるわけじゃない。

むしろ——

見えなくなった分だけ、内側に残る。

深く。

静かに。

確実に。

「……そっか」

ようやく、納得する。

これは、終わるものじゃない。

消えるものでもない。

ただ——

“形を変えるだけ”。

外にあったものが、内側に移る。

それだけ。

「……ほんと、厄介だな」

苦笑する。

でも、少しだけ楽になる。

消そうとしなくていい。

忘れようとしなくていい。

ただ、そこにあるものとして受け入れればいい。

それだけでいい。

「……」

窓の外を見る。

夕焼けが広がっている。

あの日と同じ、少し眩しい光。

少しだけ、目を細める。

「……元気かな」

自然と、そんな言葉が出る。

届かないとわかっている。

でも、それでよかった。

もう、会わない。

それは変わらない。

でも——

消えることもない。

あの一瞬は、確かにここにある。

同じように、彼の中にも残っているはず。

そう思うと、少しだけ救われる。

「……瞳惚れ、か」

ようやく、その言葉を口にする。

目が合った瞬間に、すべてが決まるもの。

始まる前に、終わっている関係。

それでも、消えない。

だからこそ——

こんなにも、残る。

「……ほんと、すごいね」

誰に言うでもなく、呟く。

あの一瞬が、ここまで続くなんて。

思ってもいなかった。

でも。

それでよかったと思えた。

少しだけ。

ほんの少しだけ。

そう思えた。

最終章:瞳惚れ

時間は、ちゃんと進んでいた。

あの日、交差点から離れてからも。

何も変わらない日々が続いて、
何も起きないまま、季節が少しずつ変わっていく。

朝が来て、夜が来て。
人と話して、笑って、また一日が終わる。

普通の生活。

あの一瞬が、嘘みたいに思えるくらいに。

「……」

それでも、消えなかった。

完全に忘れることなんて、一度もなかった。

ふとした瞬間に、思い出す。

理由なんてない。

きっかけもない。

ただ、突然浮かぶ。

あの視線。

あの距離。

あの光。

「……ほんと、しつこいな」

小さく笑う。

でも、嫌じゃなかった。

むしろ——

消えないことに、少しだけ安心していた。

あれがなかったことになる方が、怖かった。

「……変なの」

自分で呟く。

終わらせたのは自分なのに。

それでも、残っていてほしいと思っている。

矛盾している。

でも、それが正直な気持ちだった。

ある日、ふと思う。

「……行ってみようかな」

理由はない。

ただ、なんとなく。

確かめたいわけでもない。

会いたいわけでもない。

ただ——

“あの場所に立ってみたくなった”。

それだけだった。

足が、自然とそっちへ向かう。

久しぶりだった。

あの道を通るのも、
あの交差点を見るのも。

でも、体は覚えている。

迷わない。

そのまま、辿り着く。

「……」

変わらない。

景色は、何も変わっていなかった。

信号が変わる。
人が流れる。
風が吹く。

全部、あの日と同じ。

でも——

そこに、彼はいない。

それが、少しだけ現実だった。

「……だよね」

小さく呟く。

期待していなかったはずなのに、
ほんの少しだけ何かが落ちる。

でも、それでよかった。

もう、探していない。

会うために来たわけじゃない。

ただ、ここに立つために来ただけ。

「……」

目を閉じる。

すると、すぐに思い出す。

あの瞬間。

あの一秒にも満たない時間。

でも——

それが、すべてだった。

「……ほんと、すごいね」

小さく呟く。

たった一瞬で、ここまで残るなんて。

恋、なんて言葉じゃ足りない。

好き、とも違う。

もっと速くて、もっと強くて、もっと理不尽なもの。

「……そうか」

ようやく、理解する。

あのとき、自分は“恋をした”んじゃない。

もっと前の段階で、すべて決まっていた。

目が合った、その瞬間に。

心が動く前に、
感情が追いつく前に、
全部、奪われていた。

「……瞳、か」

あのときの彼の目を思い出す。

逃げられなかった理由。

逸らせなかった理由。

全部、そこにあった。

ただ見ていただけなのに。

それだけで、すべてが変わった。

「……瞳惚れ、か」

その言葉が、やっと腑に落ちる。

目で惚れる。

考える前に、落ちている。

だから、止められなかった。

だから、離れたあとも消えなかった。

「……」

目を開ける。

夕焼けが広がっている。

あの日と同じ、少し眩しい光。

少しだけ、目を細める。

でも、逸らさない。

もう、逸らす必要はなかった。

あのときは、奪われた。

でも今は、違う。

ちゃんと、自分の中に残っている。

失ったものじゃない。

持っているものになっている。

「……ありがと」

小さく呟く。

彼に向けてかもしれない。

あの時間に向けてかもしれない。

でも、確かにそう思えた。

あの出会いは、間違いじゃなかった。

終わらせたことも、間違いじゃなかった。

全部、必要だった。

あの一瞬があったから、
今の自分がいる。

それだけで、十分だった。

信号が青に変わる。

人が動き出す。

自分も、歩き出す。

もう、迷わない。

立ち止まらない。

振り返らない。

でも——

忘れることもない。

そのまま、抱えていく。

それでいい。

ふと、風が吹く。

一瞬だけ、あの香りがした気がした。

振り返る。

でも、誰もいない。

「……気のせいか」

小さく笑う。

それでも、少しだけ温かくなる。

きっと、どこかで同じように思い出している。

そんな気がした。

会うことはない。

それは変わらない。

でも——

同じ一瞬を、同じように持っている。

それで、十分だった。

歩きながら、空を見上げる。

光が、少しだけ滲む。

「……ほんと、眩しいね」

静かに呟く。

あれは、恋じゃない。

始まりでも、終わりでもない。

ただ一瞬で、すべてを奪っていく現象。

言葉にできない、どうしようもない衝動。

それが——

瞳惚れだった。

~完~

数年後の再会(Ifルート)も書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ

冒頭にも書きましたが、彼側の視点ストーリを読んでいないようでしたら読んでみてくださいρ(._.*)ρ

また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ

コメント