このページは別記事で描いたVaundyの『再会』という曲をモチーフにした、私の妄想物語のIFストーリーですφ(・ω・`)
元記事を読んでいない方は、元記事からご覧になっていただければ幸いです。ρ(._.*)ρ
それでは「もし陽菜が生きていたら」のIFストーリー(´っ・ω・)っすた~と
『再会 ~if 君が生きていたなら~』
第一章 途切れなかった夏
「ねえ、来年もここ来ようよ」
河川敷の草の上で、陽菜は空を見上げたまま言った。
夕焼けが川の水面に反射して、夏の終わりにしてはやけに優しい色をしていた。
風はぬるくて、遠くで野球部の掛け声みたいな声が途切れ途切れに聞こえていた。
「来るに決まってるだろ」
俺がそう返すと、陽菜は少しだけ笑った。
「じゃあ約束ね」
差し出された小指に、俺は呆れたふりをしながら自分の指を絡める。
「子どもかよ」
「こういうの、大事なんだって」
その言い方が妙に真面目で、俺は何も言い返せなくなった。
その時の陽菜の横顔は、少しだけ寂しそうにも見えた。
でも、隣にいる俺には、それがどういう種類の寂しさなのか、まだ分からなかった。
ただ、失いたくない時間だと思った。
理由はなかった。
いや、本当はあったのかもしれない。
でも、そのときの俺にはまだ、それを言葉にするだけの勇気がなかった。
帰りの電車の中、陽菜は窓にもたれたまま、流れていく街の灯りを見ていた。
「また夏で話そう」
小さくそう言って、陽菜は笑った。
俺は「おう」とだけ返した。
その短い約束が、あとで俺たちを救うことになるなんて、そのときは思っていなかった。
第二章 ズレの正体
夏が終わってから、陽菜は少しずつ静かになった。
前みたいに笑わないわけじゃない。
話しかければちゃんと返してくるし、昼休みも同じように隣にいる。
でも、何かが薄くなっていた。
透明な膜が一枚、二人のあいだに増えたみたいだった。
「ねえ、この前の続きできたんだけど」
放課後、スマホを差し出す。
俺が夜のうちに作ったフレーズを録音したやつだった。
前なら、陽菜はすぐに「聴く」と言ってイヤホンを耳に入れただろう。
でもその日は、ほんの少し視線を落としてから、
「ごめん、今日はちょっといいや」
と笑った。
その笑顔が、妙に遠く見えた。
「……そっか」
それ以上は聞かなかった。
聞けばよかったのに、と思う。
この先のことを知っている今なら、何度でもそう言える。
でも当時の俺は、壊れるのが怖かった。
“最近ちょっと変だよ”と口に出したら、
本当に何かが変わってしまう気がした。
だから、見ないふりをした。
見えているのに、見えていないことにした。
帰り道、駅までの信号待ちで、陽菜がふいに言った。
「ねえ」
「ん?」
「もし、誰にも言えないことがあったらどうする?」
唐突な問いだった。
「内容によるだろ」
「じゃあさ、自分でもどうしていいか分かんないことだったら?」
俺は少し考えてから、
「……誰かには言うんじゃねえの」
と答えた。
陽菜は前を向いたまま、小さく笑った。
「そっか」
その“そっか”が、ひどく軽くて、ひどく重かった。
青に変わった信号を渡りながら、
俺は胸の奥にざらついた違和感を抱えたままだった。
第三章 消えなかった連絡
三日、返信がなかった。
最初は、ただ体調でも悪いのかと思った。
でも四日目の夜になると、さすがに落ち着かなくなった。
“起きてる?”
“なんかあった?”
“返事できるときでいいから”
送ったメッセージは増えていくのに、既読はつかない。
胸の奥で嫌な予感が膨らんでいく。
でも、それが何なのか、はっきりした形にはならないまま時間だけが過ぎていった。
五日目の放課後、ようやく知らされた。
「陽菜、事故に遭ったらしい」
クラスメイトの声で、頭の中が真っ白になった。
「……は?」
「でも、命は助かったって。今、入院してるって聞いた」
その瞬間、足から力が抜けそうになった。
助かった。
その一言だけが、何度も頭の中で反響する。
助かった。
生きてる。
会えるかもしれない。
その事実だけで、胸の奥が痛いくらい熱くなった。
事故。入院。重傷。しばらく安静。
後から色々聞かされたけど、最初に心を埋めたのはただひとつだった。
失わずに済んだ。
完全には、失わずに済んだ。
第四章 白い部屋
病院に行くまでに二日かかった。
すぐにでも行きたかったのに、家族以外の面会が制限されていた。
その二日が、ひどく長かった。
病院の廊下は白くて、静かで、現実感がなかった。
消毒液の匂いと、足音の反響だけが妙にはっきりしていた。
案内された病室の前で、俺はしばらく立ち尽くした。
ノックをする手が、少し震えていた。
「……どうぞ」
聞こえてきた声は、思っていたよりちゃんと陽菜の声だった。
扉を開ける。
ベッドの上の陽菜は、少し痩せて見えた。
腕には点滴。額の近くに小さなガーゼ。
窓から入る午後の光が、白いシーツの上に落ちていた。
「よ」
自分でも驚くくらい、間の抜けた声だった。
陽菜は一瞬だけ目を見開いて、それから少し笑った。
「なに、その第一声」
「いや……なんて言えばいいか分かんなくて」
「そっか」
その“そっか”は、事故の前に聞いたときより少しだけ柔らかかった。
病室の椅子に座る。
何を言えばいいのか、本当に分からなかった。
大丈夫、って言うのも違う気がした。
会えてよかった、は本音すぎて照れくさかった。
怖かった、なんて、なおさら言えなかった。
しばらく沈黙が続いて、先に口を開いたのは陽菜だった。
「来てくれたんだ」
その声が、想像していたよりずっと弱くて、
俺はそこで初めて、本当にぎりぎりだったのかもしれないと思った。
「当たり前だろ」
少しだけ強く言ってしまう。
陽菜は、そんな俺を見て、少しだけ目を伏せた。
「……ごめん」
「なんで謝んの」
「いろいろ」
曖昧な答えだった。
でも、その“いろいろ”の中に、
返せなかったメッセージも、言えなかったことも、
全部含まれている気がした。
「なあ」
自分でも驚くほど静かな声で言った。
「最近、何かあっただろ」
陽菜の肩が、ほんの少しだけ揺れた。
前みたいに“なんでもない”で終わらせたくなかった。
終わらせたら、今度こそ本当に何かを失う気がした。
「……あったよ」
長い沈黙のあと、陽菜はそう言った。
そのとき、ようやく俺たちの物語は始まったんだと思う。
第五章 言えなかったことを、いま
陽菜はゆっくり話し始めた。
家のことだった。
親とうまくいっていなかったこと。
進路の話をするたび息が詰まること。
学校では平気なふりをしていたけど、本当はだんだん何も分からなくなっていたこと。
誰かに言いたいのに、言葉にした瞬間、本当に壊れてしまいそうで怖かったこと。
「普通にしてるつもりだったんだけどね」
陽菜は窓の外を見たまま、そう言った。
「でも、たぶん、全然できてなかった」
俺は何も言えなかった。
気づいていたからだ。
完全じゃなくても、何かあることには気づいていた。
それでも踏み込まなかった。
見て見ぬふりをした。
壊れるのが怖くて、守るふりだけしていた。
「ごめん」
今度は俺が言った。
陽菜が少しだけ眉を寄せる。
「なんで?」
「気づいてたのに、ちゃんと聞かなかった」
それを口にした瞬間、喉の奥が熱くなった。
「最近変だって思ってた。元気ないのも分かってた。なのに、怖くて聞けなかった」
陽菜はしばらく黙っていた。
責められても当然だと思った。
遅いよって言われても仕方ないと思った。
でも、陽菜は少ししてから、小さく首を振った。
「私も言えなかったから」
「でも」
「ほんとは、ちょっとだけ言ってほしかった」
その言葉は、優しいのに、鋭かった。
胸の奥のいちばん柔らかいところに、まっすぐ刺さった。
「ちゃんと、大丈夫じゃないって、見つけてほしかった」
陽菜は笑おうとしたけれど、うまく笑えなかった。
その顔を見て、俺はようやく分かった。
救うとか、守るとか、そんな大げさなことじゃなくて、
ただ“見つける”ことが必要だったんだと。
見ないふりをしないこと。
言葉にならない痛みを、ちゃんと痛みとして受け取ること。
たぶん、それが一番難しくて、一番大事なことだった。
「次は」
俺は言った。
「次は、ちゃんと聞く」
陽菜は目を丸くしてから、少しだけ笑った。
「次って」
「あるだろ」
「……あるといいね」
「あるよ」
今度は迷わず言えた。
その瞬間、病室の白さが少しだけ和らいだ気がした。
第六章 one more time
陽菜が退院するまでのあいだ、俺は何度も病院に通った。
最初の頃は会話もぎこちなかった。
どこまで触れていいのか分からないことが多かったし、
元気そうに見える日もあれば、ひどく静かな日もあった。
でも、前とは違った。
分からないままにしないこと。
怖くても聞くこと。
平気そうに見えても、それで済ませないこと。
それを少しずつ、俺たちは覚えていった。
「音、作ってる?」
ある日、陽菜が聞いた。
「少しだけ」
「聴きたい」
事故の前、聴けなかったあの続きを、今度はちゃんと聴きたいと陽菜は言った。
病室の椅子に座ったまま、俺はスマホを取り出した。
イヤホンを片方、陽菜に渡す。
再生ボタンを押す。
短いフレーズだった。
まだ途中で、粗くて、形になりきっていない音だった。
でも、今回は最後まで、陽菜はちゃんと聴いた。
目を閉じて、静かに。
曲が終わったあと、少しだけ時間が空いた。
それから陽菜は、目を開けて言った。
「……やっぱ、届くね」
その一言で、張りつめていた何かが少しほどけた。
「今度のは、前よりちょっとだけ苦しい」
「そうかも」
「でも、前よりちゃんと生きてる感じする」
その感想が、すごく陽菜らしかった。
うまく説明できないくせに、本質だけは外さない。
「タイトルあるの?」
「まだ」
「じゃあ仮で“再会”」
俺は思わず笑った。
「そのまんまだな」
「いいじゃん。そのまんまのほうが、今はいいよ」
そう言う陽菜の顔は、事故の前より少しだけ弱くて、でも少しだけ強かった。
失いかけたあとでしか見えない表情が、人にはあるのかもしれないと思った。
第七章 退院後の世界
陽菜が学校に戻ってきたのは、秋が深まった頃だった。
教室の空気は、以前と少し違っていた。
腫れ物みたいに接するやつもいれば、必要以上に明るく話しかけるやつもいる。
でも陽菜は、前みたいに全部を一人で受け止めようとはしなかった。
疲れた日は疲れたと言うようになった。
無理な日は無理だと言うようになった。
帰り道、黙って歩いていても、それを“平気”のサインにしなくなった。
俺も、前みたいには黙らなかった。
「今日しんどい?」
「ちょっと」
「じゃあ駅まででいい」
「うん」
そんな短いやりとりを重ねるだけで、
前よりずっと近くにいられる気がした。
ある日、帰り道で陽菜がふいに言った。
「私さ、事故に遭った瞬間、いろんなこと思ったんだよね」
夕方の踏切の前だった。
遮断機が下りる音が、やけに大きく聞こえていた。
「怖いとか、痛いとかもあったけど、一番最初に思ったのが、まだ約束してたのに、だった」
俺は黙ったまま、続きを待った。
「河川敷。来年も行く約束」
胸の奥が、静かに掴まれる。
「だから、助かったって聞いたとき、最初に思ったの。“まだ間に合う”って」
電車が通り過ぎる。
風が巻き込む。
遮断機が上がるまでの短い時間、俺は何も言えなかった。
「……俺も」
やっと出た声は、少しかすれていた。
「失うかもしれないって思って、初めて分かった」
「なにが?」
「お前のこと、ちゃんと好きなんだって」
陽菜が息を止めたのが分かった。
言ったあとで、遅いかもしれないと思った。
重いかもしれないとも思った。
でも、今さら取り消せるような言葉でもなかった。
陽菜はしばらく何も言わなかった。
夕暮れの色だけが、少しずつ濃くなっていく。
それから、小さく笑った。
「知ってた」
「は?」
「うそ。半分だけ」
「どっちだよ」
「でも、嬉しい」
その言い方が、陽菜らしくて、どうしようもなく救われた。
第八章 また夏で話そう
次の夏、俺たちは本当に河川敷へ行った。
去年と同じ駅で降りて、同じ道を歩いて、同じ草の匂いのする場所へ向かった。
違うのは、隣に陽菜がちゃんといることだった。
風で髪が揺れて、歩幅が少しだけ俺より狭くて、
ときどき足元の草を気にして立ち止まる。
そんな当たり前のこと全部が、奇跡みたいに見えた。
「着いた」
陽菜が小さく言う。
夕焼けは去年と同じように、ゆっくり川を染めていた。
二人で草の上に座る。
しばらく黙っていた。
でも、去年の沈黙とは少し違った。
失うかもしれない時間を知ったあとで共有する静けさは、
ただ穏やかなだけじゃなくて、ちゃんと重みがあった。
「来れたね」
陽菜が言う。
「うん」
「約束、守ったね」
「お前もな」
陽菜は少し笑って、それから空を見上げた。
「ねえ」
「ん?」
「私、前は“普通”がほしかったんだと思う」
その言葉に、俺は静かに耳を傾けた。
「なんでもない会話して、なんでもないことで笑って、来年もまた会えるって信じられるような、そういうの」
「……うん」
「でも今は、普通って、たぶん勝手にあるものじゃないんだなって思う」
陽菜は膝を抱えながら、ゆっくり続けた。
「ちゃんと見て、ちゃんと話して、なくさないようにするから、やっと普通になるんだと思う」
その言葉を聞きながら、俺は去年の自分を思い出していた。
怖くて聞けなかった自分。
壊れるのを恐れて、何もできなかった自分。
「俺、去年ここでさ」
「うん」
「たぶん、もう好きだった」
陽菜は笑う。
「遅い」
「知ってたんだろ」
「半分だけね」
その答えに、俺も笑った。
少し風が強くなる。
草が揺れる。
夕焼けが、少しずつ夜に溶けていく。
「また夏で話そう」
陽菜が、去年と同じ言葉を口にした。
でも今度は、約束の響きが違って聞こえた。
過去をなぞるためじゃない。
ちゃんと未来へ続いていくための言葉だった。
「来年も、その次もな」
俺が言うと、陽菜は少しだけ目を細めた。
「うん」
その声は小さかったけど、確かだった。
俺たちはもう、
奇跡だけを待つ関係じゃなかった。
壊れそうになって、
失いかけて、
それでももう一度ちゃんと向き合って、
ここまで来た。
だからこの再会は、
ただ会えたというだけじゃない。
生きている君と、ちゃんと出会い直した物語だった。
夕焼けの残る空の下、
隣にいる陽菜の体温を、俺は確かに感じていた。
目を閉じなくても、もうここにいる。
それが、何より嬉しかった。
~完~
他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ






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