本日ご紹介するのは、『Vaundy(バウンディ)』のナンバーから
『再会』【作詞・作曲:Vaundy】
歌詞全文はこちらのリンクから→https://www.uta-net.com/song/376506/
Vaundyの『再会』は、2025年7月13日に配信限定シングルとしてリリースされた楽曲で、TVアニメ「光が死んだ夏」のオープニング主題歌として書き下ろされたもの
この曲の歌詞をざっくり考察します。(´っ・ω・)っすた~と
Vaundyの「再会」は、一言で言うと“もう一度会えたなら、今度こそすべてを忘れずに愛したい”という後悔と願いの物語です。
かなり深いテーマを持っていて、
時間・喪失・記憶・愛の再定義が重なった曲になっています。
① 曲の核テーマ
「もし、もう一度やり直せるなら」
この曲の中心にあるのはシンプルです。
- 失ってしまった大切な人
- 取り戻せない時間
- でも「もし再会できるなら」という仮定
つまりこれは
“後悔の上に成り立つ愛”の曲です。
② 冒頭:願いの強さと未練
one more time
もう少しで起こすよ magicVaundy「再会」作詞・作曲:Vaundy
ここはかなり象徴的です。
- 「one more time」=もう一度だけチャンスがほしい
- 「magic」=現実では起きない奇跡(=再会)
つまり主人公はすでに
“現実ではもう会えない”ことを理解している状態です。
それでも、
- どうにかしてでも
- 願いを叶えたい
という、かなり強い執着が見えます。
③ 「想いを悟ってくれ」=言葉では届かない距離
一つ願い、聞いてくれ
一つ想い、悟ってくれVaundy「再会」作詞・作曲:Vaundy
ここは重要なポイントです。
- 「聞いてくれ」→物理的に距離がある
- 「悟ってくれ」→もう直接伝えられない
つまりこれは
“会えない相手への呼びかけ”
になっています。
この時点でかなり高い確率で
- 死別
- 永遠の別れ
を示唆しています。
④ 「宇宙一の悲しみ」=スケールの拡張
宇宙一の悲しみと
霧覚める静けさとVaundy「再会」作詞・作曲:Vaundy
ここで一気にスケールが広がります。
- 「宇宙一」=比較できないほどの喪失
- 「静けさ」=相手がいない世界
この表現はつまり
“その人がいないことで世界が無音になる”
という感覚です。
恋愛の次元を超えて、
“存在そのものの喪失”を描いています。
⑤ サビ:この曲の本質
もしもここからまた出会えるのなら
この先は一瞬も一寸の隅も忘れず全部覚えておこうVaundy「再会」作詞・作曲:Vaundy
ここがこの曲の核心です。
ポイントは2つ。
①「もしも」=現実ではない
→ 再会は仮定(願望)
②「全部覚えておこう」
→ 前回は“ちゃんと覚えていられなかった”
つまりこの曲は
「大切な時間をちゃんと大切にできなかった後悔」
を歌っています。
⑥ 愛の再定義
普通のラブソングは
- 好き
- 会いたい
で終わりますが、この曲は違います。
この曲の愛は
「失って初めて完全な形になる愛」
です。
つまり
- 一緒にいたとき → 不完全な愛
- 失ったあと → 完成する愛
という逆転構造になっています。
⑦ 時間の扱い:記憶 vs 瞬間
この曲で繰り返されるのは
- 一瞬
- 一寸
- 全部覚えておこう
という表現。
これはつまり
「時間を記録として保存したい」
という願いです。
なぜなら
“もう二度と同じ時間が来ないと知っているから”
⑧ 解釈その1 死別の物語
最も王道の解釈。
- 大切な人が亡くなった
- もう会えない
- でも記憶の中で再会したい
→ かなり多くの歌詞がこれに一致します
⑨ 解釈その2 すれ違いによる別れ
もう少し現実寄りの解釈。
- 別れてしまった恋人
- 本当はまだ想っている
- もう戻れない
→ 「悟ってくれ」がここに当てはまる
⑩ 解釈その3 人生そのものへの後悔
さらに深い読み。
これは
“過去の自分との再会”
とも読めます。
- あの頃の自分
- あの頃の選択
- 取り戻せない時間
つまり
「人生をやり直したい」という普遍的な願い
⑪ この曲の一番深いポイント
この曲の本質はここです。
「愛は“今あるとき”には気づけない」
だから人は
- 失ってから気づく
- もう遅いと知る
- それでも願ってしまう
⑫ メッセージ
この曲が伝えているのは、かなり現実的です。
「だから今、ちゃんと大切にしろ」
- いつか終わる
- いつか会えなくなる
- それは突然来る
だから
“再会を願う側になる前に気づけ”
というメッセージです。
■ まとめ
「再会」は
- 喪失の物語であり
- 後悔の物語であり
- それでも続く愛の物語
そして最終的には
“今をどう生きるか”を問いかける曲
です。
以上私なりの歌詞解釈でした。
続きまして、この曲を聴いて膨れ上がった私の妄想ストーリ(歌詞解釈)をチラッとお見せいたします
|ω・)チラッ
『再会』
第一章 出会いは、なんでもない日だった
「その席、空いてる?」
振り向いた瞬間、なぜか一瞬だけ時間が遅くなった気がした。
春の教室は、まだ少しだけ冬の空気を引きずっていて、窓際から差し込む光だけがやけに柔らかかった。新しいクラス、新しい席、新しい顔ぶれ。ざわついた空気の中で、俺は机に頬杖をついたまま、少し遅れて「……あ、どうぞ」と答えた。
その声が、自分でも驚くくらい乾いていた。
彼女――陽菜は軽く会釈をして、俺の隣の席に座った。鞄を机の横に掛ける音。椅子を引く音。ノートを開く音。その一つ一つが、なぜか妙に耳に残った。
「よろしくね」
そう言って少しだけ笑う。
その笑い方は無防備なのに、どこかきちんと距離を守っているようにも見えた。
「……ああ」
それ以上の言葉は出てこなかった。
最初は、それだけだった。
でも気づけば、昼休みに同じタイミングで席を立つようになっていた。購買でパンを買って、教室に戻って、机を向かい合わせるでもなく、ただ隣同士のままなんでもない話をする。昨日見たテレビの話。授業がだるいって話。先生の口癖の話。友達と呼ぶにはまだ少し距離があるのに、その距離がむしろ心地よかった。
「なんかさ、こういうのいいよね」
ある日、陽菜がそう言った。
「なにが?」
「普通の会話」
その言葉がやけに引っかかった。
普通。
それまでの俺には、あまり縁のなかった言葉だったからだ。
家に帰っても、ふとその声が頭に残っていた。たぶん陽菜は何気なく言っただけだ。なのに、ずっと胸のどこかに留まっていた。
その時点ではまだ知らなかった。後になって、その言葉がどれだけ大きな意味を持っていたのかを。
第二章 音と距離
俺は家ではほとんど喋らなかった。
父親は厳しく、母親はその空気を壊さないように動く人だった。食卓にはいつも“正しさ”みたいなものが置かれていて、息をするだけで何かを採点されているような窮屈さがあった。
だから部屋にこもって、ギターを弾いていた。
趣味と言えば聞こえはいいけれど、あれはたぶん逃げ場だった。言葉にできないものを、音に押し込めて外に出すための手段だった。腹が立つ日も、何もかも投げ出したい日も、弦を鳴らしている間だけは少しだけ息ができた。
「ねえ、それ聴かせてよ」
放課後、教室に二人だけ残っていたとき、陽菜が言った。
俺は思わず顔を上げた。机の上には開きっぱなしの教科書。窓の外からは運動部の掛け声。西日の傾き始めた教室の中で、陽菜は何でもないみたいな顔でそう言った。
「別に、大したもんじゃないし」
「いいから」
そう言って、半ば強引にイヤホンを差し出してくる。
仕方なくスマホを取り出して、適当に録音していたフレーズを再生した。完成にはほど遠い、ただコードをつないだだけの短い音だった。
陽菜はイヤホンを耳に当てると、少しだけ目を閉じた。
そのまま、動かなくなった。
教室のざわめきも、外の音も、ぜんぶ遠くに引いていく気がした。
「……どう?」
少し怖くなって声をかける。
陽菜はゆっくり目を開けた。何かを探すように一瞬だけ視線を泳がせて、それから言った。
「なんかさ」
そのあと、ほんの少しだけ間を置いて、
「ちゃんと、届くね」
意味がすぐには分からなかった。
音が届くなんて当たり前だと思っていたからだ。でも陽菜の言い方は、たぶんそういう意味じゃなかった。音の奥にある何か――言葉にしないまま押し込めた感情みたいなものまで、ちゃんと伝わってきた、と言っている気がした。
その日から少しだけ、音を鳴らす意味が変わった。
ただの逃げ場だったはずのものが、誰かに届くかもしれないものになった。そんなふうに思えたのは初めてだった。
それから時々、陽菜は俺の作りかけの曲を聴いた。感想はいつも雑だった。
「これ、なんか夕方っぽい」
「こっちは息苦しい感じする」
「さっきのより好きかも」
でも、その雑さが妙に本質を突いていて、俺は少しずつ陽菜に音を聴かせるのが当たり前になっていった。
音と音のあいだに、言葉じゃない信頼みたいなものができていった。
第三章 夏の約束
夏は、気づいたら始まっていた。
蝉の声。湿った風。制服のシャツに張りつく汗。廊下の窓を開けた瞬間に流れ込んでくる、むっとするような熱気。そういうものでようやく季節が変わったことを知る。
「どっか行こうよ」
陽菜がそう言ったのは、放課後だった。
「どこに?」
「遠く」
曖昧な答えだったけど、それで十分だった。
電車に乗って、いくつか駅を過ぎて、降りた先には河川敷があった。広い空と、ゆっくり流れる川と、草の匂い。都会でも田舎でもないような、取り残されたみたいな場所だった。
「いいじゃん、ここ」
陽菜はそう言って靴を脱ぎ、そのまま草の上に座り込んだ。
俺も隣に座る。
しばらく、何も話さなかった。
でも、その沈黙は嫌じゃなかった。むしろ、安心していた。話さなくても壊れない時間が、そこにはあった。
「こういうの、好きなんだよね」
陽菜が空を見上げたまま言う。
「なにが?」
「なんでもない時間」
夕焼けがゆっくり色を変えていく。風が少しだけ強くなって、草の匂いが揺れた。横を見ると、陽菜の髪が頬にかかっていて、それを払う仕草が妙に目についた。
その横顔を見て、なぜか胸の奥が少しだけざわついた。
「あたしさ」
陽菜がぽつりと口を開く。
「こういう時間、なくならないでほしいって思うときある」
「急にどうした」
「別に。ただ、思っただけ」
そう言って笑ったけれど、その笑い方には少しだけ影があった。
「ねえ、来年もここ来ようよ」
唐突だった。
でも、不思議と違和感はなかった。
「なんで来年なんだよ」
「なんとなく」
軽く笑う。
「じゃあ約束ね」
差し出された小指を見て、ほんの少しだけ迷ってから、俺はそれに指を絡めた。
「来るに決まってるだろ」
軽く言ったつもりだった。
でも、その言葉を口にした瞬間、なぜか胸の奥が少しだけ重くなった。
理由は分からなかった。ただ、何か大事なことを口にしてしまった気がした。
帰りの電車の中でも、陽菜は窓の外を見ていた。夕焼けが夜に変わっていく色が、ガラスに映っていた。
「また夏で話そう」
降り際に、陽菜が言った。
俺は「おう」とだけ返した。
その短いやりとりが、あんなに長く尾を引くものになるなんて、その時は思わなかった。
第四章 ズレ
夏の終わりは、いつも曖昧だ。
気づいたら蝉の声が減っていて、気づいたら夕方が少しだけ早くなっている。そんなふうに、ゆっくりと季節がずれていくみたいに、俺たちの距離も少しずつ変わっていった。
最初に違和感を覚えたのは、ほんの些細なことだった。
「ねえ、この曲さ」
いつものようにイヤホンを片方渡す。
でも陽菜は、それをすぐには受け取らなかった。
「あ、ごめん、今ちょっといいや」
そう言って軽く笑う。
その笑顔は前と同じはずなのに、どこかだけ噛み合っていない気がした。
「そっか」
それ以上は何も言わなかった。
言えなかった、のほうが近い。
それから少しずつ、会話が途切れることが増えた。
昼休み、一緒にいるのにスマホを見ている時間が長くなる。何かを考えているような顔で、時々、遠くを見る。
「どうした?」
そう聞くと、
「ううん、なんでもない」
決まって、その言葉が返ってくる。
“なんでもない”が、こんなに重く聞こえる言葉だとは思わなかった。
ある日、帰り道で思い切って口を開いた。
「最近さ」
陽菜が少しだけ振り向く。
「ちょっと変じゃない?」
言った瞬間、少し後悔した。責めているみたいに聞こえた気がしたからだ。
陽菜は一瞬だけ足を止めて、それからまた歩き出した。
「……変って?」
「いや、なんか……元気ないっていうか」
言葉を選びながら、なんとか続ける。
街灯が一つずつ灯っていく。空は、もうほとんど夜の色だった。
しばらく沈黙が流れたあと、陽菜は小さく言った。
「別に、普通だよ」
その声は、少しだけ低かった。
そのあと、しばらく何も話せなかった。
聞けばよかったのかもしれない。
無理やりでも立ち止まらせて、ちゃんと向き合えばよかったのかもしれない。
でも、もしそこで何かが壊れたらと思った。今の関係が終わってしまったらと思った。
だから、踏み込まなかった。
「じゃあね」
いつもより少しだけ早く、陽菜は帰っていった。
その背中を見送りながら、胸の奥に小さな違和感が残る。
でも、その正体を言葉にすることはできなかった。したくなかった。
あのとき、もう一歩だけ踏み込めていたら。
そんな“もしも”は、あとからいくらでも思いつくのに、その瞬間にはひとつも選べなかった。
第五章 消失
連絡が途切れたのは、ある日突然だった。
最初は、ただ忙しいだけだと思っていた。体調が悪いのかもしれない。家の用事かもしれない。そうやって、いくらでも理由をつけることはできた。
既読がつかないメッセージを何度も開いては閉じる。
“起きてる?”
“明日来る?”
“なんかあった?”
どれも、返ってこない。
三日。一週間。十日。
時間が経つほどに、返ってこない言葉は重くなっていく。最初は問いかけだったはずなのに、いつの間にかそれは“届かないことの証明”みたいになっていた。
教室の空気も変わっていった。誰も陽菜の話をしなくなる。何かを知っているような顔で、それでも言わないまま目を逸らすやつがいる。
胸の奥に嫌なものが少しずつ溜まっていく。
そして、放課後。
廊下の隅で、クラスメイトが小さな声で言った。
「……聞いてないの?」
その言い方だけで、もう嫌だった。
「何を」
自分でも驚くほど、声は平坦だった。
相手は言葉を探すように視線を落とした。
「陽菜、事故で……」
その先が、うまく聞こえなかった。
事故。搬送。助からなかった。
言葉は聞こえているはずなのに、意味として頭に入ってこない。耳の奥で、何かが遠く鳴っていた。
「嘘だろ」
ようやく出た声は、自分のものじゃないみたいだった。
その日、どうやって家に帰ったのか覚えていない。電車に乗ったのか、歩いたのか、靴を脱いだのか、晩飯を食べたのか。何ひとつ、はっきりしない。
ただ、部屋に入ってドアを閉めた瞬間、世界の音が急に遠くなったことだけは覚えている。
机の上に置きっぱなしのノート。壁に立てかけたギター。ベッドの隅に脱ぎ捨てたパーカー。
全部、昨日までと同じだった。
なのに、俺だけが昨日までの場所にいられなくなっていた。
その夜、泣けなかった。
泣いたら本当になる気がした。認めたら終わる気がした。
だから、何も感じないふりをして、ただ天井を見続けた。
電気を消した部屋の中で、自分の心臓の音だけがやけに大きかった。
生きている音だ、と思った。
それが、どうしようもなく残酷だった。
第六章 言えなかったこと
喪失っていうのは、いなくなった瞬間より、そのあとに何度も何度もやってくるものなんだと知った。
朝、学校に着いたとき。昼休みにパンを買いに行ったとき。帰り道で駅まで歩いたとき。曲を聴いたとき。夕焼けを見たとき。
そのたびに、「あ、もういないんだ」と思い知らされる。
一度きりじゃない。毎日、何回も、何十回もだ。
教室の席替えがあった日、陽菜が座っていた場所に別の誰かが座っているのを見たとき、胸の奥に何かが沈んでいく感覚がした。
その席は、もう陽菜の席じゃない。
当たり前のことなのに、受け入れられなかった。
放課後、誰もいない教室でしばらくそこを見ていた。
あの席で陽菜はよく頬杖をついて、窓の外をぼんやり見ていた。退屈そうに見えて、実はちゃんと話を聞いていて、ふいに核心みたいなことを言うやつだった。
「普通の会話って落ち着くよね」
最初の頃、そう言って笑った顔を思い出す。
“普通”を大事そうに言うその声に、もっと早く気づくべきだったのかもしれない。
あいつにとって、その普通が簡単には手に入らないものだったのかもしれない。
そう思い始めると、思い当たることはいくらでもあった。
時々急に黙り込んでいたこと。何か言いたそうにして、結局言わなかったこと。笑っているのに、目だけが少し疲れて見えたこと。
あの帰り道だってそうだ。
「最近ちょっと変じゃない?」と聞いたとき、陽菜は一瞬だけ足を止めた。
あの一瞬。あの沈黙。
あのとき、もう一歩だけ踏み込めていたら。
“どうしたの”じゃなくて、“ちゃんと話して”って言えていたら。
“無理しなくていい”じゃなくて、“無理してるの分かるから”って言えていたら。
そんな“もしも”ばかりが頭の中に増えていった。
でも、どれだけ考えても現実は変わらない。
言えなかった言葉は、言葉にならなかったぶんだけ胸の中に残り続ける。
好きだ、でも。
大事だった、でも。
助けたかった、でも。
そばにいたかった、でも。
全部、今さらだった。
夜になると、ベッドの上でスマホを開く。陽菜とのトーク画面。なんでもないやりとりが延々と残っている。
“テストやばい”
“それ毎回言ってる”
“今日の空きれい”
“今見たらもう暗い”
そんな、どうでもいい会話が、今となってはどれも代えがたいものに見えた。
最後のやりとりは、あまりにも普通だった。
“またね”
それだけだった。
別れの言葉なんて、本当はいつもこんなふうに軽い。だから人は、次がある前提で手を振ってしまう。
もし次がないと知っていたら、どんな言葉を選んだだろう。
考えても仕方ない。
それでも、考えてしまう。
第七章 音のない部屋、音のある記憶
それからしばらく、ギターには触れられなかった。
弦を押さえて、音を鳴らした瞬間、全部が本物になってしまう気がしたからだ。
陽菜は、俺の音を聴いてくれた。「ちゃんと届くね」と言った。あの言葉がある限り、音はいつも陽菜と結びついていた。
だからこそ、鳴らせなかった。
音を出せば、いないことがはっきりする。いない相手に向けて鳴らす音が、こんなにも空しいものだとは思わなかった。
でも、ある夜、耐えられなくなってギターを手に取った。
部屋の明かりをつけないまま、ベッドの端に座って、静かにコードを押さえる。
最初の一音は、驚くほど弱かった。指が、少し震えていた。
二音目。三音目。
ぎこちなく続けていくうちに、胸の奥に押し込めていたものが、少しずつ浮かび上がってくる。
あの日の教室。河川敷の風。夕焼けの色。イヤホンを耳に当てたときの、陽菜の横顔。
思い出は、消えるんじゃなくて、音みたいにどこかに残っているのかもしれないと思った。ただ、普段は聞こえないだけで。何かの拍子に、ふいに再生されるだけで。
「……ちゃんと届くね」
誰もいない部屋で、その言葉だけが蘇る。
届いていたのは、たぶん音だけじゃなかった。
言えないもの。見せられないもの。言葉にできない痛みや、寂しさや、祈りみたいなものまで、陽菜は音の向こう側で受け取っていたのかもしれない。
もしそうだったなら、俺は陽菜から、同じように何かを受け取れていただろうか。
受け取れていなかったから、今こうなっているんじゃないか。
そう考えると、また胸が痛んだ。
けれど、その痛みの中でしか、陽菜に近づけない気もしていた。
音を鳴らすたびに、いないことを知る。でも同時に、確かにそこにいたことも知る。
喪失は空白だけど、記憶は空白じゃない。
そこには温度も声も、ちゃんと残っている。
そのことだけが、わずかに俺を救っていた。
第八章 one more time
“魔法なんて、あるわけない”
頭では分かっていた。
死んだ人には会えない。時間は戻らない。約束は途中で途切れることがある。
そんなこと、誰でも知っている。
それでも、何かを願わずにはいられない夜がある。
時計はもう日付を越えていて、窓の外はひどく静かだった。遠くを走る車の音が、ときどき細く聞こえるだけで、世界が寝息を立てているみたいだった。
その中で、俺だけが起きていた。
ギターを膝に乗せて、まだ形にならない音の欠片を何度もつないでは壊す。
言葉にしようとすると嘘になる気がした。うまく綺麗にしてしまった瞬間、本当に言いたかったことから遠ざかる気がした。
だから、乱暴なまま、未完成のまま、それでも指を止めなかった。
「one more time」
不意に、口からこぼれた。
もう一度だけ。たった一度でいいから。もう一度、声を聞きたい。もう一度、隣で笑ってほしい。もう一度、“普通”の会話をしたい。
その全部が、たった四つの英語に押し込まれていた。
「……もう少しで起こすよ、magic」
自分で言って、自分で苦笑する。
子供みたいだと思った。現実を受け入れられないやつの、見苦しい願望だとも思った。
でも、願うことまでやめたら、本当に何も残らなくなる気がした。
音を重ねる。コードを変える。言葉を置いてみる。消す。また置く。
それは曲作りというより、どこにもない航路を探す行為に近かった。
陽菜がいる場所なんて分からない。黄泉の果てなのか、空の向こうなのか、ただ俺の記憶の中にしかいないのか。
それでも、もしどこかに繋がる道があるなら、音はその地図になれるかもしれないと思った。
歌は、呪文に似ている。
声に出すことでしか成立しない。信じることでしか届かない。意味より先に、響きが心臓を揺らす。
だったら、もう会えない相手に手を伸ばす方法として、音楽ほど似つかわしいものはないのかもしれなかった。
その夜、朝方まで弾き続けた。
完成なんてしていない。
それでも確かに、何かが始まっていた。
喪失のあとに初めて、“終わっていない”と感じた夜だった。
第九章 まぶたの裏の季節
人は、忘れることで生きていくんだと思っていた。
実際、学校は続くし、季節は進むし、周りのやつらはそれぞれの日常に戻っていく。何もなかったみたいに笑うやつもいれば、触れないことで優しさを示そうとするやつもいる。
世界は残酷なくらい、続いていく。
最初のうちは、そのことに腹が立っていた。
なんで、と思った。なんで陽菜がいないのに、空は普通に晴れて、コンビニは普通に開いていて、教室では小テストが配られて、テレビではどうでもいいニュースが流れるんだろうと思った。
でも、続いていく世界の中で、俺だけが立ち止まり続けることにも限界があった。
だから少しずつ、歩くふりを覚えた。
ちゃんと寝る。ちゃんと学校に行く。出された課題をやる。適当に相槌を打つ。笑えるところでは笑う。
そうやって表面だけでも元に戻ろうとすると、そのぶん夜が深くなった。
昼間に押し込めたものが、全部そこで戻ってくるからだ。
目を閉じる。
すると、不思議なほどはっきり、陽菜の顔が浮かぶ。ぼんやりした影じゃない。光の当たり方まで思い出せるくらい、鮮明に。
河川敷で空を見上げていた横顔。教室でイヤホンを耳に当てて、目を閉じた顔。帰り道で少しだけ疲れて見えた顔。“なんでもない”と言ったときの、少しだけ弱い声。
記憶は時々、現実より現実らしい。
目を閉じるたびに、俺はその場所に戻っていた。
音も、匂いも、空気の重さも、全部まぶたの裏で蘇る。
陽菜に会えるのは、そこだけだった。
現実ではもう届かない。でも、記憶の中では、何度でも隣に立てる。
そのことに救われながら、同時にひどく苦しくもなった。
会える。でも触れられない。声が聞こえる気がする。でも本当には返ってこない。
手を伸ばした先がいつも空を切る、その感覚だけが残る。
それでも、目を閉じることはやめられなかった。
忘れたくなかった。
一瞬も、一寸の隅も。
河川敷の夕焼けの色も、缶ジュースのぬるさも、陽菜の笑い方も、沈黙のあとの息遣いも。
全部、失いたくなかった。
人は忘れることで生きるのかもしれない。
でも俺は、少なくともこのことだけは、忘れないことで生きていたかった。
第十章 君はそれでも
ふと思うことがある。
俺はこんなに覚えているのに、陽菜はどうなんだろう、と。
もし本当に、この世界のどこかじゃない場所に陽菜がいるとして。もし記憶とか想いとか、そういうものが向こう側にも残るのだとしたら。
陽菜は、俺を覚えているだろうか。
教室でくだらない話をしたこと。イヤホンを半分こしたこと。河川敷で約束したこと。帰り道で、ちゃんと聞けなかったこと。
あの全部を、陽菜も同じように抱えているだろうか。
そう考えると、たまらなく不安になった。
喪失のつらさって、会えないことだけじゃない。
自分の中では確かだった時間が、相手の中ではもう消えているかもしれない、と思ってしまうことでもある。
俺が今こうして苦しんでいるのは、陽菜との時間が本物だった証拠だ。そう思いたい。
でも同時に、もし陽菜がもう何も持っていなかったらどうしよう、という恐怖もある。
胸の奥のどこかに、俺のいた場所はちゃんとあるだろうか。
そんなこと、確かめようがない。答えは永遠に返ってこない。
それでも問いは消えない。
君はそれでも、探すだろうか。
この問いはたぶん、陽菜に向けているようで、本当は自分自身に向けていたのかもしれない。
俺は、この先も探し続けるだろうか。見えない相手を。戻らない時間を。もう届かないかもしれない記憶を。
探し続けることでしか、愛したことを証明できない気がしていた。
だから俺は、答えのない問いを抱えたまま、それでも音を鳴らし続けた。
第十一章 夏へ戻る道
春が過ぎて、梅雨が来て、また夏が近づいてきた。
季節は容赦がない。止まってくれないし、振り返ってもくれない。
でも、その残酷さが逆に俺をある場所へ向かわせた。
河川敷。
去年、陽菜と約束した場所。
来年も来よう、と言われて、来るに決まってるだろ、と答えた場所。
あの日の約束は、片方がいなくなったからって消えるわけじゃない。むしろ、いなくなったからこそ、俺の中で形を変えて残り続けていた。
夏休みに入ってすぐの夕方、俺はひとりで電車に乗った。
あのとき降りた駅で降りて、見覚えのある道を歩く。
草の匂い。熱を持ったアスファルト。少しだけ湿った風。
何もかも、去年と同じようで、何もかもが去年とは違っていた。
河川敷に着くと、空はちょうど夕焼けに染まり始めていた。
俺は、あの日と同じあたりに座った。
隣には、誰もいない。
当たり前だ。分かっていた。
それでも胸は痛んだ。
「来たよ」
口に出した声は、思っていたよりずっと小さかった。
風が吹く。草が擦れる。遠くで子どもが笑う。
世界は静かに続いている。
「約束、守った」
そう言ってみる。
返事はない。
でも、その沈黙は完全な無ではなかった。
目を閉じる。
すると、まぶたの裏であの日の景色が重なった。
隣に座る気配。缶ジュースを開ける音。“こういうの、いいね”と言う声。
記憶の中の陽菜と、今ここにいる俺が、一瞬だけ同じ場所に重なった気がした。
そのとき、ふいに風が頬を撫でた。
本当にただの風だったのかもしれない。偶然、耳の奥で何かがそう聞こえただけかもしれない。
それでも、
「遅いよ」
そんな声がした気がした。
次の瞬間、初めて涙が落ちた。
ああ、と思った。
俺はずっと、ここで泣くために生きてきたのかもしれない。
すぐに受け入れられなかったぶん、ずっとこらえていたぶん、一年越しでやっと、喪失が体に届いた。
泣きながら、笑っていた。
会えたとは言えない。奇跡が起きたとも言えない。
でも確かに、俺はこの夏、陽菜に“再会”したのだと思った。
現実の向こう側でじゃない。
記憶と約束の交差する場所で。
最終章 また夏で話そう
陽が沈みきる前の空は、昼でも夜でもない色をしていた。
境目の色だ、と思った。
出会いと別れのあいだ。記憶と現実のあいだ。喪失と再会のあいだ。
俺はずっと、その境目に立っていたのかもしれない。
前に進んだら忘れてしまう気がして、立ち止まったままだと壊れてしまいそうで、どっちにも行けないまま、ただ陽菜のいた時間を抱えていた。
でも、この場所に来て分かったことがあった。
忘れないことと、進むことは、たぶん両立できる。
忘れないまま生きることはできる。抱えたまま歩くことはできる。
一瞬も、一寸の隅も、全部覚えておこうと思った。
綺麗な記憶だけじゃない。言えなかったことも、踏み込めなかったことも、後悔も、痛みも、全部。
それごと持っていくしかない。
陽菜がいなくなったことは、これから先も変わらない。何年経っても、その事実は消えない。
でも、陽菜がいたことも、同じように消えない。
教室で出会ったこと。音を聴いてくれたこと。“普通の会話”を大事そうにしていたこと。河川敷で来年の約束をしたこと。
あの夏があったことを、俺はこの先も何度でも確かめるだろう。
そしてたぶん、夏が来るたび、ここへ来る。
目を閉じれば会える、なんて、都合のいい慰めなのかもしれない。
それでもいいと思った。
人は、そういう小さな魔法を信じながらじゃないと、大切なものを失ったあとを生きていけない。
「また夏で話そう」
あの日の約束を、今度は俺のほうから言う。
風が吹く。夕焼けが、少しずつ群青に溶けていく。
返事はない。
でも、不思議ともう寂しさだけではなかった。
胸の奥には、ちゃんと痛みがある。けれどその隣に、かすかな熱も残っていた。
生きていくしかない、ではなく、生きていこう、と思えた。
次の夏も、その次の夏も。また思い出して、また痛んで、それでも少しずつ違う自分でここに来るのだろう。
そのたびに、陽菜と過ごした時間は、失われた過去じゃなく、今の俺をつくるものとして生き続ける。
空を見上げる。
去年と同じようで、もう二度と同じではない空。
それでも、確かに続いている空。
俺はゆっくり立ち上がって、最後にもう一度だけ、河川敷を振り返った。
「また来る」
小さく言って、歩き出す。
君に会うためだけじゃない。君を覚えたまま、俺が生きていくために。
夏の終わりみたいな風が、背中をそっと押した。
~完~
自分で書いてて、切ない気持ちになってしまい泣いてしまった
(´;ω;`)ウゥゥ
辛いので、”陽菜がもし生きていたらどうなっていたか”のIFストーリも書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ
また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ






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