本日ご紹介するのは、『Vaundy(バウンディ)』のナンバーから
『僕にはどうしてわかるんだろう』
【作詞・作曲:Vaundy】
歌詞全文はこちらのリンクから→https://www.uta-net.com/song/372246/
Vaundyの『僕にはどうしてわかるんだろう』は、2025年4月25日に配信限定でリリースされた楽曲で、テレビ朝日系木曜ドラマ『PJ ~航空救難団~』の主題歌として書き下ろされたもの。
この曲の歌詞をざっくり考察します。(´っ・ω・)っすた~と
この曲、かなり“Vaundyらしさの核”に触れている作品です。
結論から言うと――
「なぜ人は、自分の人生の意味を“後から”理解してしまうのか」
「挫折や未熟さすら、自分を作る“作品”だったと気づく物語」
です。
以下、かなり深く分解していきます。
① タイトルの核心
僕にはどうしてわかるんだろう
Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
このフレーズは一見シンプルですが、めちゃくちゃ重要です。
「なぜ今になって理解できるのか?」
「なぜあの時は分からなかったのに?」
つまりこれは
“時間差で訪れる自己理解”への驚き
です。
② 冒頭:プライドを見失う夜
今晩は降りる駅を変え ―
小さなプライドの行方を探したVaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
ここはかなり象徴的。
「駅を変える」=日常からの逸脱
「プライド」=自分を守っていたもの
自分の軸が揺らぎ始めた瞬間
つまりこの曲は、
“何かが壊れ始めた夜”から始まる物語です。
③ 音楽による覚醒
あの聴きなれたリリックで涙を流し出すまで
Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
ここがVaundyらしいポイント。
音楽がトリガーになって本音に気づく
今まで気づけなかった感情が、
歌詞(=他人の言葉)によって引き出される。
つまり
- 他人の言葉なのに
- なぜか自分のことのように分かる
→ これがタイトルに繋がる
④ 「僕以上に僕を作っているもの」
僕以上に、僕以前に、僕よりも
僕のことつくってるVaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
ここはこの曲の“哲学の中心”。
これは何か?
過去・経験・記憶
つまり
- 自分で自分を作ってると思ってるけど
- 実際は「過去」が自分を形作っている
⑤ モノクロの意味
挫折の日々は色づくため全部モノクロ
Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
この一文、かなり重要。
普通なら
- モノクロ=つまらない、暗い
でもこの曲では逆。
「未来で色づくための下書き」
つまり
- 今は意味がないように見える日々も
- 後から振り返ると色がつく
⑥ 中盤:世界の激変(詩的パート)
時は真夏
荒天と海神
蒼炎際立つ
骨相青に溶け
モノクロは焦シアン蒼白へVaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
このパート、かなり抽象的で詩的だけど――
実は曲の中で一番“感情が爆発してる場所”です。
『時は真夏』
感情のピーク・限界状態
真夏=熱・限界・暴走
心理的には「もう抑えきれない状態」
つまり
感情が頂点に達している瞬間
『荒天と海神』
内面の嵐+制御不能な力
荒天=心の混乱・不安・崩壊
海神=自然の力(=抗えない感情)
つまり
自分ではコントロールできない感情に飲まれている状態
『蒼炎際立つ』
静かだけど激しい感情
ここがめちゃくちゃ重要
炎=情熱
蒼(青)=冷静・孤独・切なさ
普通の炎じゃなくて“青い炎”なのがポイント
外に出さないけど、内側で強く燃えている感情(内に溜めてた本音)
『骨相青に溶け』
自分の輪郭が崩れる
骨相=人の本質・存在の形
青に溶ける=境界が消える
つまり
「自分が自分じゃなくなる」感覚
感情に飲まれて “これまでの自分”が崩れていく
『モノクロは焦シアン蒼白へ』
無感情 → 色の回復(でも不安定)
ここがこのパートの核心。
モノクロ=無感情・鈍感・停滞
シアン(青)=感情の回復(でも冷たい)
蒼白=まだ不安定・完全じゃない
つまり
無感情だった状態に、感情が戻り始める瞬間
ただし
まだ“鮮やかな色”ではなく、青白い未完成の色
この一連の流れは
① 感情が限界まで溜まる(真夏)
↓
② 内面が崩壊する(荒天・海神)
↓
③ 抑えていた本音が燃え出す(蒼炎)
↓
④ 自分が崩れる(骨相が溶ける)
↓
⑤ 無感情→感情へ変化(モノクロ→シアン)
この部分の本質は 「壊れることで、初めて“感じる人間”に戻る瞬間」
⑦ 「走馬灯」というキーワード
全てのことが走馬灯、胸に残っている
Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
ここで時間軸が一気に変わる。
人生を振り返る視点
つまり主人公は
- 今を生きているのに
- すでに「回想している」
この感覚がタイトルの答え。
“未来の自分の視点が混ざっている”
⑧ 港=人生の出発点
あの港から光を手繰ってここまで来たんだ
Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
港=スタート地点
人生の始まり・原点
「光を手繰る」=希望を頼りに進む
つまり
自分の人生を自覚し始めた瞬間
⑨ ラストの核心
全ての景色が思い出すためのモノクロ
Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」作詞・作曲:Vaundy
ここがこの曲の最終答え。
“今”は記憶の素材でしかない
つまり
- 今の出来事は
- 後で思い出すために存在している
⑩ この曲の本質(超要約)
この曲はこういう構造です
① 現在(迷い・挫折)
↓
② 音楽・記憶で感情が解放
↓
③ 過去が自分を作っていると気づく
↓
④ モノクロの日々が意味を持つ
↓
⑤ 未来視点で人生を理解する
まとめ
この曲を一言でいうと
「人生は後からしか理解できない物語」
「人生そのものが“エッセイ(作品)」
そしてタイトルの答えはこれです。
“時間が経ったからわかる”のではなく
“未来の自分が、今の自分に重なっているからわかる”
以上私なりの歌詞解釈でした。歌詞が深いなあ…
続きまして、この曲を聴いて膨れ上がった私の妄想ストーリ(歌詞解釈)をチラッとお見せいたします
|ω・)チラッ
『僕にはどうしてわかるんだろう』
第一章【朝倉湊 視点】:モノクロと、はじまりの音
電車のドアが開く。夕方。いつもと同じ時間、いつもと同じ帰り道。
人が流れるように降りていく。その流れの中に、自分もいるはずだった。
だが、朝倉湊の足は動かなかった。
(……降りたくない)
唐突に浮かんだその感覚には理由がなかった。ただ、このまま降りたら何も変わらない気がした。
一歩踏み出せば、いつも通りの道、いつも通りの景色、いつも通りの自分。それが急に嫌になった。
ドアが閉まる。警告音。電車がゆっくり動き出す。
「あ……」
声が漏れるが、もう戻れない。ホームが後ろへ流れていく。
窓に映る自分の顔はどこかぼやけている。焦点が合っていない。
(……なんなんだよ)
軽音部に入っている。ギターも持っている。だが、それだけだ。
曲は作れない。ライブにも出ていない。誰かに見せられるものもない。
ただ“やっているフリ”をしているだけだった。
(俺、何してんだろ)
その言葉は軽いはずなのに妙に重かった。
次の駅で降りる。知らない場所、知らない空気。
夕焼けがやけに濃く、空が広い。
(……こんな広かったっけ)
目的もなく歩き出す。ポケットに手を入れる。何かを探すように。
しかし自分でもわかっている。探しているのは物ではない。
(……何か、失くしたな)
言葉にできないが確かにあったはずのもの。
「……プライド、とかか」
呟いた瞬間、妙にしっくりきた。
できないのにできるフリをしていた。何もしていないのにやっている気でいた。
自分をごまかすための何かが、どこかで剥がれ落ちた。
夕焼けの中、自分だけが少し遅れている気がした。
(……空っぽだな)
冗談のようなその言葉は、まったく笑えなかった。
数日後、夕方の教室。窓の外は、少し赤い。
文化祭の準備で、学校全体が少し浮ついている。
でも、この教室だけは静かだった。
その中で、ふと歌声が聞こえた。
静かで、それでいてはっきりとした声。
思わず振り返る。そこには白石陽菜がいた。
目を閉じて歌っている。
その声は綺麗だった。しかし、それだけではない。
どこか揺れていて、どこか不完全で、それが逆にリアルだった。
(……なんだこれ)
知らない曲、知らない言葉なのに、引っかかる。いや、違う。入り込んでくる。
逃げ場がない。歌が自分の内側に入り込んでくる。
(……やめろよ)
そう思うのに止まらない。自分のことみたいだった。
気づいた瞬間、心臓がわずかに跳ねる。
彼女はこちらに振り返り俺が見ているのに気づくと歌うのをやめた。
(……なんなんだよ、今の歌)
理解できない。だが、無視できなかった。
放課後、帰ろうとした足が止まる。
声をかけるか迷う。
(……別にいいか)
そう思うのに動けない。逃げようとしているのに、その場に残る。
気づけば口が動いていた。
「さっきの歌、良かった」
陽菜が振り返る。少し驚いた顔のあと、柔らかく笑う。
「ありがとう。でも、まだ全然なんだ」
その言い方は本気だった。
「……なんか、刺さった」
言葉が足りないが、それしか言えない。
少しの沈黙。
「……そっか」
小さく頷く。
「わかる人がいてよかった」
その言葉で何かが繋がる。
それは大きなものではないが、確かに始まりだった。
それから放課後の教室。夕焼けの時間。
陽菜が歌い、湊はそれを聴く。
何度か繰り返す。言葉は多くない。
だが沈黙が増えていく。
その沈黙は気まずさではなく、考えている時間だった。
「ねえ」
ある日、歌が止まる。
「湊くんって、曲作らないの?」
「無理」
即答だった。
「なんで?」
「俺、何もないし」
言い慣れた言葉。自分を守るための言葉。
だが、ほんの一瞬だけ引っかかる。
(……ほんとに?)
しかしすぐに消す。考えない方が楽だった。
「ほんとに?」
「うん」
「……変なの」
小さく呟く。
「さっきの顔、普通じゃなかったよ。歌、聴いてたとき。“わかってる人”の顔してた」
時間が止まる。
(……なんだよ、それ)
しかし否定できない。なぜか言い返せない。
夕焼けが教室を染める中、沈黙が続く。
「ねえ」
陽菜が少しだけトーンを変える。
「文化祭、ライブやろうよ」
空気が止まる。
「……無理だろ」
反射的に返す。
「やってないだけ」
その一言で崩れる。
(……ああ)
理解してしまう。図星だった。
できないのではない。やっていないだけだ。
頭の中で声がぶつかる。
やめておけ、無理だ、恥をかくだけだ。
しかし、その奥にもう一つの声がある。
(やってみろよ)
逃げたい。それでも逃げきれない。
(……一回だけなら)
逃げ道をつける。それでも前に進む選択だった。
顔を上げる。陽菜を見る。
「……一回だけなら」
声がわずかに震える。
「やる」
その瞬間、世界が少し動く。
陽菜は一瞬驚き、すぐに笑う。
「うん」
それだけで十分だった。
確実に何かが始まった。
窓の外の夕焼け。
その色がほんの少しだけ、自分の中に入り込んだ気がした。
この選択がすべてを変える一歩になることを、
まだこのときの湊は知らなかった。
第一章【白石陽菜 視点】:はじまりの違和感
夕方の教室。窓の外は、少し赤い。
文化祭の準備で、学校全体が少し浮ついている。
でも、この教室だけは静かだった。
軽く息を吸って、声を出す。
小さく歌う。
まだ完成していないメロディ。
まだ形になりきっていない言葉。
(……これでいいのかな)
自分でもわからないまま、何度も繰り返す。
そのとき、視線を感じた。
振り向く。
朝倉湊がいた。
少し離れた席に座って、こちらを見ている。
(……あ、聴いてたんだ)
歌を止める。
放課後、帰ろうとしていると
「……さっきの歌、良かった」
声をかけられる。少し意外だった。
「ありがとう。でも、まだ全然なんだ」
そう答える。本当に、そう思っていた。
まだ足りない。まだ届かない。
(……でも)
さっきの言葉が、少し引っかかる。
“良かった”と言われることはある。
でも、今のは少し違った。
「……なんか、刺さった」
続けて言われる。
言葉が足りていないのに、なぜか伝わる。
(……この人)
少しだけ思う。
わかってる。
「……そっか」
小さく返す。
「わかる人がいてよかった」
思ったまま言う。
それから、何度か同じ時間を過ごすようになる。
放課後の教室。夕焼けの中で歌う。
湊は、少し離れた場所で聴いている。
話は多くない。
でも、沈黙が増えていく。
その沈黙は、不思議と嫌じゃなかった。
(……ちゃんと聴いてる)
そう感じる。
ある日。歌を止めて、少しだけ考える。
(……聞いてみようかな)
「ねえ」
声をかける。
「湊くんって、曲作らないの?」
少しだけ間が空く。
「無理」
即答だった。
(……あ、やっぱり)
どこかで予想していた。
「なんで?」
「俺、何もないし」
その言葉。
すぐに理解できた。
自分で自分を止めてる。
少しだけ考える。どう言えばいいか。
「ほんとに?」
「うん」
「……変なの」
つい、口に出る。
「さっきの顔、普通じゃなかったよ」
少しだけ言葉を選ぶ。
「歌、聴いてたとき」
「“わかってる人”の顔してた」
時間が止まる。
湊が何も言えなくなる。
(……やっぱり)
気づいてないだけだ。
沈黙。夕焼けが、少し濃くなる。
(……どうしようかな)
少し迷う。踏み込むか、やめるか。
でも、このまま終わるのは違う気がした。
「ねえ」
少しだけ声を落とす。
「文化祭、ライブやろうよ」
言ってしまう。
空気が止まる。
「……無理だろ」
すぐに返ってくる。
(……うん、知ってる)
でも。
「やってないだけ」
そのまま言う。
少し強かったかもしれない。
でも、嘘は言ってない。
沈黙。
湊が迷っているのがわかる。
逃げたい顔。
でも、少しだけ残っている。
(……いける)
そう思った。
「……一回だけなら」
小さく声が返ってくる。
顔を上げる。
「やる」
その一言。
(……ほんとに?)
一瞬だけ驚く。
でも、すぐに笑う。
「うん」
それだけでいい。
(……始まった)
そう思う。
窓の外。夕焼け。
少しだけ、色が濃く見えた。
この選択がどこまで続くのかはわからない。
でも、少なくとも止まってはいない。
それだけで、十分だった。
第二章【朝倉湊 視点】:ズレと崩壊、そして決意
放課後。部室のドアを開けた瞬間、空気が少し違うと感じた。
昨日まではただの場所だったのに、今日はどこか張り詰めている。逃げられない場所になっていた。
しばらくすると陽菜が部室に入ってきた。
「おつかれ」
陽菜はすぐにギターを持ち、軽く音を鳴らす。
その音は安定している。迷いがない。
(……早いな)
陽菜は昨日より、明らかに進んでいる。自分はどうだろう、と考える。
昨日と何も変わっていない気がした。
「文化祭、何やる?」
自然な声。もう始まっている。
(……行くしかないか)
「……コピーでいい」
とっさに口から出る。オリジナルを避ける、逃げやすい選択。
「うん、いいよ」
否定はされない。だが、その受け止め方がどこか静かで、少しだけ引っかかった。
練習が始まる。コードを押さえ、弦を弾き、音を合わせる。
だが、合わない。
リズムがわずかに早い。タイミングが噛み合わない。
「ちょっと待って。今のとこ、もう一回いい?」
「……ああ」
もう一度弾く。やっぱりズレる。
「少し走ってるかも」
(……わかってるよ)
心の中で返すが、口には出さない。
「ごめん」
だが、その言葉は軽かった。納得していない謝り方だった。
何度も繰り返す。弾く、止まる、やり直す。また止まる。
そのたびに、少しずつ空気が重くなる。
「もうちょっと強く弾ける?」「そこ、違うかも」
全部、正しい。だが、全部刺さる。
(……なんでこんな差あるんだよ)
陽菜はちゃんとやっている。音を聴き、修正し、前に進んでいる。
自分はついていくだけだ。
(……置いていかれてる)
その感覚が、はっきりする。
「これで限界なんだけど」
思わず口に出る。少し強い言い方だった。
一瞬、空気が止まる。
「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて」
「……いいよ」
短く返す。会話が噛み合わない。ズレているのは音だけじゃなかった。
帰り道。並んで歩く。沈黙。
「今日、ちょっときつかった?」
「……別に」
本音じゃない。
「そっか」
それ以上、聞いてこない。それが逆に引っかかる。
(なんだよ、それ)
聞いてほしいのか、放っておいてほしいのか、自分でもわからない。
(……めんどくせえな)
それは相手ではなく、自分に向けた言葉だった。
数日後。また部室のドアを開ける。
(……またか)
陽菜はすでに弾いている。音はさらに安定している。
(……違うな)
自分だけ、置いていかれている。
ギターを構える。弾く。指がうまく動かない。リズムがズレる。
「ちょっと待って。今のとこ、もう一回」
やり直す。だが、やっぱりズレる。
「……集中できてないかも」
その一言で、何かが切れた。
「やってるだろ」
声が強くなる。空気が止まる。
「……逃げてるよ」
時間が止まる。
「やってるフリしてるだけ」
言葉が、まっすぐ刺さる。
(……ああ)
わかってしまう。全部、正しい。だからこそ、苦しい。
「……帰る」
立ち上がる。
「え、ちょっと」
呼び止める声。だが、振り返らない。これ以上いたら壊れる気がした。
夜。帰り道。
ドアを閉めた音が、まだ残っている。
(……最悪だな)
何度も同じことを思う。
「逃げてるよ」
あの言葉が離れない。
(……わかってるよ)
でも、わかってるだけじゃ、どうにもならない。
(……もういいか)
そう思いかけて、止まる。
(……ほんとに?)
胸の奥に、引っかかるものがある。
あの教室。夕焼け。
「わかる人がいてよかった」
(……あれ)
胸の奥が、少しだけ動く。
何もなかったわけじゃない。
見てなかっただけだ。
次の日。学校。
廊下を歩く。部室の前を通る。足が止まる。
(……どうする)
開けるか。やめるか。
ノブに手をかけて、離す。
(……今日はいいか)
逃げている。わかっている。
でも、昨日とは少し違う。
“戻ろうとしてる逃げ”だった。
数日。同じことを繰り返す。
来て、止まって、帰る。来て、止まって、帰る。
(……何やってんだよ)
自分で思う。
それでも、少しずつ距離は縮まっていく。
ある日。また部室の前。
深く息を吸う。
(……行くか)
ドアを開ける。
中に、誰もいない。静かだった。
(……いないのか)
少しだけ、安心する。
ギターを手に取る。弦を弾く。
音が鳴る。少しだけズレる。
(……まだだな)
でも、もう一度弾く。
今度は、少しだけ合う。
(……ああ)
小さく、頷く。
そこから、毎日来るようになる。
誰もいない時間に。
一人で弾く。ズレる。直す。またズレる。
繰り返す。
誰にも見られない場所で、ちゃんとやる。
ある日。弾いていると、ドアが開く音がする。
振り返る。陽菜がいた。
一瞬、止まる。
(……やば)
逃げたくなる。
でも、逃げない。
「……来てたんだ」
陽菜が言う。
「……まあ」
短く返す。
沈黙。気まずい。
でも、前と違う。
(……やるか)
ギターを構える。
「……ちょっとやる?」
小さく言う。
一瞬、間。
「……うん」
返ってくる。
それだけで、十分だった。
音を出す。
まだ完璧じゃない。
でも、逃げてない音だった。
少しズレる。陽菜が合わせる。
またズレる。今度は、自分が合わせにいく。
(……これか)
少しだけ、わかる。
“やる”って、こういうことか。
文化祭、前日。部室。
最後の通し。
ミスもある。ズレもある。
でも、止まらない。
最後まで弾く。音が止まる。沈黙。
「……まあ、いけるか」
陽菜が言う。
「……だな」
少しだけ笑う。
完璧じゃない。
でも、明日はやれる気がした。
帰り道。空を見上げる。
(……わかんねえな)
うまくいくか。届くか。何もわからない。
でも。
(……それでもいいか)
そう思えた。
明日、音にするだけだ。
第二章【白石陽菜 視点】:ズレと後悔、言葉の重さ
放課後。部室。
ドアを開けると、少しだけ空気が重いと感じた。
(……来てるかな)
中に入ると、湊がいた。
ギターを持っている。だが、少しだけ動きが硬い。
「おつかれ」
声をかける。
「……おつかれ」
少し遅れて返ってくる。
(……やっぱり)
昨日とは少し違う。
「文化祭、何やる?」
「……コピーでいい」
少しだけ間があってからの返事。
(……そっちにしたか)
無理はしてない。だが、逃げてる感じもする。
「うん、いいよ」
あえて、何も言わない。
練習を始める。音を合わせる。
でも、すぐに気づく。
(……ズレてる)
リズムが少し早い。
「ちょっと待って。今のとこ、もう一回いい?」
「……ああ」
もう一度。
やっぱりズレる。
「少し走ってるかも」
一瞬、間。
「……ごめん」
返ってくる。
でも、その言い方が少し引っかかる。
(……違うな)
納得してない。
何度も繰り返す。
止まる。やり直す。また止まる。
空気が、少しずつ重くなる。
「もうちょっと強く弾ける?」
言ってから、少しだけ迷う。
(……言いすぎかな)
「これで限界なんだけど」
少し強く返ってくる。
空気が止まる。
「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて」
とっさにフォローする。
「……いいよ」
短い返事。
(……ズレてる)
音だけじゃない。気持ちも、ズレてる。
帰り道。並んで歩く。沈黙。
(……どうしよう)
「今日、ちょっときつかった?」
聞いてみる。
「……別に」
すぐに返ってくる。
(……あ、閉じた)
それ以上、踏み込めない。
「そっか」
それだけ言う。
(……違ったかな)
聞き方も、タイミングも。
全部、少しずつズレている気がした。
数日後。また部室。
(……今日こそ)
少しだけ気合を入れる。
でも、入った瞬間にわかる。
(……変わってない)
湊の音が、またズレる。
「ちょっと待って。今のとこ、もう一回」
やり直す。
でも、やっぱり合わない。
(……なんでだろ)
技術じゃない気がした。
「……集中できてないかも」
言ってしまう。
その瞬間、空気が変わる。
「やってるだろ」
強い声。
(……あ)
やってしまったと思う。
でも。
「……逃げてるよ」
止まらなかった。
「やってるフリしてるだけ」
言い切る。
沈黙。
(……言いすぎた)
すぐにわかる。
でも。
嘘じゃないとも思った。
湊が何も言わない。
(……やめればよかった)
頭をよぎる。
でも、もう遅い。
「……帰る」
立ち上がる。
「え、ちょっと」
呼び止める。
でも、振り返らない。
ドアが閉まる。
静かになる。
(……やっちゃった)
小さく呟く。
(……最低だな私)
その場に立ったまま、動けない。
さっきの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
逃げてる。やってるフリ。
(……あの顔)
思い出す。
言われた瞬間の顔。
何も言えなくなった顔。
(……傷つけた)
わかってしまう。
でも、止められなかった。
その理由も、わかっている。
あのまま終わるのが嫌だったから。
でも。
(……それでもさ)
床を見る。
(……もうちょっと、言い方あったでしょ)
誰に言うでもなく、そう思う。
部室に残る音。
さっきまでのズレた音が、まだ残っている気がした。
夜。帰り道。
(……やっちゃったな)
小さく思う。
「逃げてるよ」
自分で言った言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
(……言いすぎた)
わかっている。
でも。
(……あれしか言えなかった)
あのまま終わるのが、嫌だった。
歩きながら、少しだけ立ち止まる。
(……戻ってくるかな)
とりあえず待つ。
次の日。学校。廊下を歩く。部室の前で足が止まる。
(……いるかな)
ドアを開ける。
誰もいない。
(……そっか)
少しだけ、胸の奥が沈む。
ギターを手に取る。弦を弾く。音が響く。
一人で合わせても、意味はない。
それでも、弾く。止めたくなかった。
数日。同じことを繰り返す。
来る。弾く。帰る。誰もいない時間。
(……何やってんだろ)
ふと、思う。
でも。
(……やめたくはない)
それだけで、続ける。
あのままじゃ、終われないと思った。
ある日。部室の前。
(……今日も、いないかな)
そう思いながら、ドアを開ける。
音が聞こえる。
(……あれ)
中を見る。
湊がいた。
一人で弾いている。少しズレている。
でも。
(……違う)
前とは違う。逃げていない音。
その場で、少しだけ立ち止まる。
(……入るか)
少し迷う。
でも、ドアを開ける。
音が止まる。振り返る。目が合う。
一瞬、空気が止まる。
(……気まずい)
でも、前より少しだけ違う。
「……来てたんだ」
「……まあ」
短いやりとり。
沈黙。
(……どうする)
何を言えばいいのか、わからない。
でも、逃げたくはなかった。
「……ちょっとやる?」
湊が言う。
(……あ)
少しだけ、驚く。
でも。
「……うん」
それだけでいい。
音を出す。
最初はズレる。
でも、止まらない。
合わせる。またズレる。
今度は、向こうが合わせてくる。
(……ああ)
少しだけ、わかる。
戻ってきてる。
完全じゃない。
でも、ちゃんとここにいる。
それだけで、十分だった。
それから、また一緒に弾くようになる。
毎日じゃない。でも、少しずつ。
音を重ねる。ズレる。直す。繰り返す。
(……これでいい)
前みたいに急がない。でも、止まらない。
文化祭、前日。部室。最後の通し。
ミスもある。ズレもある。
でも、止まらない。
最後までいく。音が止まる。沈黙。
(……どうだろ)
少しだけ不安になる。
「……まあ、いけるか」
言ってみる。
「……だな」
返ってくる。
少しだけ、笑う。
(……よかった)
完璧じゃない。でも、明日はできる気がした。
帰り道。空を見上げる。
(……大丈夫かな)
少しだけ不安。
でも。
(……大丈夫か)
少しだけ、信じている。
理由はない。
でも。
あの音を、聴いたから。
歩き出す。明日へ
第三章【朝倉湊 視点】:音になる日々、そしてその先へ
体育館。文化祭当日。
ざわめきが満ちている。人の声、笑い声、機材の音。
非日常の熱が空間にこもっている。
その中で、ステージ袖だけが静かだった。
(……来たな)
心臓の音がやけに大きい。ドクン、ドクン、と。
手のひらが少しだけ湿っている。
(……逃げたい)
正直に思う。
「……緊張してる?」
隣で、陽菜が少しだけ覗き込む。
「……してる」
隠さず答える。
陽菜は小さく笑う。
「よかった。私も」
ほんの少しだけ、空気が軽くなる。
沈黙が落ちる。
「……さ」
陽菜が、少しだけ声を落として言う。
「今日、ちゃんと一緒にやろうね」
その言葉は、軽い約束みたいで。
でも、しっかりと届いた。
「……ああ」
それだけで、十分だった。
名前が呼ばれる。ステージに出る。
ライトが目に入る。眩しい。
観客の顔はよく見えない。
(……それでいい)
ギターを構える。指を置く。
少し震える。
(……全部、ここだ)
一瞬、時間が止まる。
夕焼けの教室で「やる」と言ったあのとき。
部室で何度もズレて、合わせられなかった音。
「逃げてる」と言われて、何も言い返せなかった日。
夜の帰り道、イヤホン越しにそれを認めたあの時間。
全部が、頭の中を通る。
(……ここに来るためだったのか)
ピックを持つ。弦に触れる。
音が鳴る。
その瞬間、世界が開く。
(……ああ)
指が自然に動く。リズムが流れる。
昨日までズレていた音が、今はズレない。
横を見る。
陽菜が、ほんの一瞬だけこちらを見る。
目が合う。
言葉はない。
でも、いけると伝わってくる。
音が重なる。声が入る。
陽菜の声は、前より少しだけ強くて、少しだけ揺れている。
(……同じだな)
完璧じゃない。
でも、ちゃんとここにいる音だった。
サビ。
音が広がる。呼吸が合う。
少しだけズレそうになる。
でも、合わせにいく。
視線を一瞬だけ送る。
陽菜がわずかに頷く。
繋がる。
(……わかる)
なぜか、わかる。
届いている。
一音、一音を置いていく。
逃げずに。
過去も、悔しさも、情けなさも。
全部、音にする。
終盤。
音が少しずつ削られていく。余白が増える。
最後のフレーズ。
指がわずかに震える。
でも、止めない。
鳴らす。
最後の一音。音が消える。
静寂。
(……終わった)
拍手が広がる。音が返ってくる。
(……ああ)
隣を見る。
陽菜が、息を少し切らしながら笑っている。
「……できたね」
「……ああ」
短く答える。
それ以上は、いらなかった。
ステージを降りる。
少し歩いて、足が止まる。
「……さ」
陽菜が言う。
「最初さ、絶対やらないって顔してたよね」
少し笑う。
「……してたな」
「でも、やってよかったでしょ」
少し考える。
(……ああ)
「……うん」
その返事は、前よりちゃんとしていた。
陽菜が少しだけ満足そうに笑う。
夜。帰り道。
空を見上げる。
(……わかるな)
人生は、あとからしか理解できない。
でも、今はまだ途中だ。
(……それでいいか)
少しだけ笑う。
歩き出す。
少しだけ後ろで、
「ねえ、またやろうよ」
陽菜の声。
少しだけ振り返る。
(……どうするか)
一瞬考える。
「……考えとく」
その声は、前より少しだけ前を向いていた。
モノクロだった日々は、消えたわけじゃない。
ただ、後から色がついただけだった。
立ち止まる。
少しだけ、空を見上げる。
あのとき、降りなかった駅。
あのとき、言われた言葉。
あのとき、逃げた夜。
全部が、ここに繋がっている。
(……なんでだろうな)
小さく息を吐く。
(……僕には、どうしてわかるんだろう)
答えは、まだはっきりしない。
でも。
わからないままでも、進める気がした。
歩き出す。
音のある方へ。
第三章【白石陽菜 視点】:音の隣にいた理由
体育館。文化祭当日。
ざわめきが満ちている。人の声、笑い声、機材の音。
非日常の熱が空間にこもっている。
その中で、ステージ袖だけが少し静かだった。
(……来たな)
小さく思う。
隣を見る。湊がいる。
手元を見ている。少しだけ震えている。
(……やっぱり、緊張してる)
自分も同じなのに、少しだけ冷静に見てしまう。
(……大丈夫かな)
そう思ってから、すぐに気づく。
(……私もだ)
ちゃんと歌えるか。ちゃんと届くか。
それよりも、ちゃんと“一緒にできるか”。
それが一番、不安だった。
「……緊張してる?」
少しだけ覗き込んで聞く。
「……してる」
正直な返事。
(……よかった)
少しだけ安心する。
「よかった。私も」
言葉にする。ほんの少しだけ、空気が軽くなる。
沈黙。
「……さ」
少しだけ声を落とす。
「今日、ちゃんと一緒にやろうね」
お願いみたいな言葉。
でも、ちゃんと届いた気がした。
「……ああ」
短い返事。
でも、前とは違う。少しだけ、前を向いている声だった。
名前が呼ばれる。ステージに出る。
ライトが眩しい。観客はよく見えない。
でも、隣だけは、ちゃんと見える。
音が始まる。
最初の一音。
(……来た)
空気が変わる。
湊の音が、昨日までと違う。
逃げていない音。
(……よかった)
少しだけ、力が抜ける。
横を見る。目が合う。
ほんの一瞬。でも、それで十分だった。
声を出す。
少しだけ震えているのがわかる。
でも、止めない。
音が重なる。呼吸が合う。
少しズレそうになる。
でも、合わせにくる。
その瞬間。
(……ああ)
一人じゃない、と思う。
サビ。
音が広がる。観客の空気が変わる。
(……届いてる)
なぜか、わかる。理由はない。
でも、ずっと、そうやってきたから。
わからないまま歌って、後から気づく。
ちゃんと届いていたって。
最後のフレーズ。
少しだけ怖い。
でも、隣に音がある。
それだけで、いける。
最後の一音。音が消える。
静寂。
(……終わった)
拍手が広がる。音が返ってくる。
胸が、少しだけ熱い。
隣を見る。
湊が、少しだけ笑っている。
「……できたね」
言葉にする。
「……ああ」
短い返事。
でも、それで全部わかる。
ステージを降りる。少し歩く。
「最初さ、絶対やらないって顔してたよね」
少し笑いながら言う。
「……してたな」
「でも、やってよかったでしょ」
少しだけ間。
「……うん」
その返事を聞いて。
(……よかった)
やっと思えた。
夜。帰り道。
少し後ろを歩く。
「ねえ、またやろうよ」
声をかける。
少しだけ振り返る。
「……考えとく」
その言い方が、少しだけ前を向いていて。
(……そっか)
小さく笑う。
空を見上げる。
今日のこと。あの日のこと。全部が、繋がっている。
(……なんでだろう)
ふと、思う。
あのとき、あの顔を見て。わかる、って思った理由。
あのとき、あの音を聴いて。できる、って思った理由。
(……私には、どうしてわかるんだろう)
答えは、まだわからない。
でも、間違ってなかったことだけは、わかる。
歩き出す。
音の隣へ。
~完~
他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ




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