本日ご紹介するのは、『Vaundy(バウンディ)』のナンバーから
『呼び声』【作詞・作曲:Vaundy】
歌詞全文はこちらのリンクから→https://www.uta-net.com/song/385849/
Vaundyの『呼び声』は、NHK『18祭(フェス)』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲です。全国から集まった1000人の18歳世代の“本気”を受け止めて制作され、夢に向かって一歩踏み出す力強いメッセージが込められた楽曲です。
この曲の歌詞をざっくり考察します。
① 「何か」=正体のわからない衝動や不安
歌詞に何度も出てくる「何か」。
これははっきりした夢や目標じゃなくて、
- 理由はないけどモヤモヤする
- 何かを変えたい気がする
- このままでいいのか分からない
という、**若者特有の“言語化できない感情”**を表しています。
今の若者って、「やりたいことがない」と言われがちだけど、
実は“何かはある”んですよね。
② 「この夢が覚めたら」=現実への恐れ
このフレーズはかなり重要です。
- 夢=今いる場所(安心・逃げ場・未完成の自分)
- 覚める=現実(社会・責任・孤独)
つまり、
「現実に出るのが怖い」
という感情。
でも同時に、
このままじゃいけないって分かってる
という葛藤もある。
③ 「チェンジ」=それでも進めという叫び
サビの「チェンジ」は、この曲の核心。
- 完璧じゃなくていい
- 理由がなくてもいい
- 不安のままでいい
それでも
「変われ」「動け」
という強いメッセージ。
これは優しい応援じゃなくて、ちょっと強引な“背中押し”です。
この曲が伝えているのは、きれいごとじゃなくてリアルです。
夢がなくてもいい
自信がなくてもいい
不安でもいい
でも――
その“何か”を無視するな
「理由なんてなくても、動き出せ」
この曲は、一見抽象的だけど、**現代の若者にかなりストレートに刺さる“生き方のメッセージ”が込められている曲です。
この曲はあなたが『チェンジ』するきっかけとなる!!
おまけとして、この曲を聴いて膨れ上がった私の妄想ストーリ(歌詞解釈)をチラッとお見せいたします |ω・)チラッ
『呼び声』
第一章 終わった音
大学三年の冬。
僕は、バンドをやめた。
「やめた」というより、
終わったと言った方が正しい。
「もう無理だろ」
ベースの亮太が言った。
ライブハウスの外。
夜の路地。
吐く息が白い。
「続けてもさ、意味ある?」
誰も答えなかった。
ドラムの健太はうつむいていた。
僕はギターケースを握っていた。
大学一年の春、僕らはバンドを組んだ。
高校の文化祭で一緒に演奏したメンバー。
あの時は本気だった。
「売れよう」
「絶対いける」
そんなことを本気で言っていた。
でも三年経った。
ライブは月に一回。
客は十人くらい。
CDはほとんど売れない。
SNSのフォロワーは三桁のまま。
「就活もあるし」
亮太が言った。
「そろそろ現実見ないと」
その言葉は、正しかった。
だから誰も反論しなかった。
「……じゃあ、今日で終わりか」
健太が小さく言った。
終わり。
その言葉が、胸に落ちた。
僕は空を見た。
夜だった。
でも、何も見えなかった。
街の光で、星は消えていた。
第二章 就活
それから数ヶ月。
僕はスーツを着ていた。
大学の就活説明会。
白い会議室。
同じ黒いスーツの学生。
「将来のビジョンを教えてください」
面接官が言う。
将来。
僕は言葉に詰まった。
本当の答えは、簡単だった。
音楽。
バンド。
ライブ。
でも、それは言えない。
「……御社の事業に魅力を感じまして」
自分の声が、他人みたいだった。
面接が終わる。
建物を出る。
夕方の街。
胸の奥が、空っぽだった。
家に帰ると、ギターケースがある。
でも、開けていない。
バンドが終わってから、
一度も触っていない。
天井を見上げる。
しみがある。
茶色いしみ。
無数。
そのしみを見ていると、
昔の記憶が浮かぶ。
赤いライト。
ライブハウスの照明。
歓声。
紅色の記憶。
胸の奥が痛くなる。
「この夢が覚めたら」
僕はつぶやいた。
僕は、いつ夢をやめたんだろう。
第三章 父
ある日、実家に帰った。
母に呼ばれたからだ。
「久しぶりに帰ってきなさい」
電話でそう言われた。
食卓。
味噌汁。
焼き魚。
昔と同じ匂い。
父が言った。
「就活どうだ」
僕は答えた。
「……まあまあ」
父は頷いた。
「ちゃんとやれよ」
少し沈黙。
父が続けた。
「お前、バンドやってたろ」
胸が止まる。
「もう終わったけど」
僕は言った。
父は箸を置いた。
「それでいい」
その言葉は、
なぜか刺さった。
「趣味ならいいけどな」
父は言った。
「仕事にはならない」
分かってる。
そんなこと。
でも。
「……やってみないと分からないだろ」
気づいたら言っていた。
父は眉をひそめた。
「夢ばっか言ってる歳じゃない」
その言葉で、
胸の奥が揺れた。
怒りかもしれない。
悲しみかもしれない。
でも、それ以上に
悔しかった。
第四章 声
東京に戻った夜。
僕は駅前を歩いていた。
歩道橋の上。
誰かが歌っていた。
ストリートライブだった。
ギター一本。
若い女の子。
客は五人くらい。
僕は足を止めた。
歌はうまかった。
でも、それ以上に
声が震えていた。
歌の途中で、彼女が言った。
「私、去年まで会社員でした」
客が少し笑う。
彼女は続けた。
「でも、どうしても音楽やりたくて辞めました」
少し沈黙。
「めちゃくちゃ怖いです」
彼女は笑った。
その言葉で、
胸が震えた。
怖い。
そうだ。
僕も怖かった。
夢を追って失敗すること。
誰にも認められないこと。
だから
諦めた。
その時だった。
彼女が歌い出した。
彼女の歌っている表情・姿がキラキラと輝いて見える…
胸の奥が震えた。
まるで
呼ばれているみたいだった。
第五章 チェンジ
その夜。
僕はギターケースを開けた。
久しぶりの音。
弦は少し錆びていた。
それでも、音は鳴った。
コードを鳴らす。
部屋に響く。
胸の奥の空洞が
少し埋まる。
「……これじゃ」
僕は笑った。
「不安だらけだな」
そうだ。
未来なんて、最初から不確かだ。
勘違いかもしれない。
独りよがりかもしれない。
でも。
体が震えていた。
恐怖じゃない。
武者震いだった。
僕はスマホを開いた。
ライブハウス。
オープンマイク。
誰でも出られる日。
申し込みフォーム。
指が止まる。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
でも。
バンドの記憶。
赤い照明。
父の言葉。
歩道橋で聴いた彼女の歌。
全部が言っている。
今、チェンジ。
僕は送信を押した。
第五章 呼び声
ライブ当日。
小さなライブハウス。
客は二十人くらい。
手が震える。
声も震える。
それでも歌い始めた。
歌っている途中で、
客席が見えた。
知らない人。
でも
誰かがうなずいている。
誰かが笑っている。
その瞬間、分かった。
未来なんて
最初から
確かなものじゃない。
それでもいい。
僕らはまだ
歌える。
歌い終わる。
拍手が起きる。
大きくはない。
でも、確かだった。
僕は客席を見た。
そして思った。
ああ。
これが
呼び声だったんだ。
第六章 もう一度、音を鳴らす
ライブが終わったあと、僕はしばらく動けなかった。
小さなライブハウス。
客は二十人くらい。
拍手も大きくはない。
でも、確かにそこにあった。
ステージのライトは赤かった。
文化祭の時と同じ色。
ギターケースを持って外に出る。
夜の空気が冷たい。
胸の奥がまだ熱かった。
「……やっぱり好きなんだな」
僕は小さく笑った。
音楽が。
帰り道、スマホを開いた。
LINEの画面。
グループ名。
「blue noise」
僕らのバンドの名前。
最後のメッセージは、半年前。
亮太
「お疲れ」
健太
「またどっかで」
僕
「ありがとう」
それだけだった。
画面を見つめる。
指が止まる。
送るべきか。
送らないべきか。
バンドは終わった。
それは、みんなが決めたことだ。
でも。
ライブの余韻が、胸の奥で言っている。
まだ終わってないんじゃないか。
僕はメッセージを打った。
「今日、ライブ出た」
送信。
すぐ後悔した。
何やってるんだ。
既読がつかない。
五分。
十分。
三十分後。
スマホが震えた。
亮太
「マジ?」
そのあとすぐ
健太
「どこで?」
僕は思わず笑った。
「下北のライブハウス」
数秒後。
亮太
「動画ある?」
僕はステージを撮ってくれていたスタッフの動画を送った。
しばらく既読のまま動かない。
そして。
亮太
「……お前、まだやるの?」
僕は考えた。
正直に答える。
「分からない」
「でも、やめたくない」
沈黙。
健太
「俺もドラム叩いてない」
亮太
「俺もベース触ってない」
画面を見ながら、
胸がざわつく。
亮太が送ってきた。
「久しぶりにスタジオ入る?」
僕はスマホを見つめた。
半年前の夜を思い出す。
ライブハウスの裏。
冷たい空気。
「もう無理だろ」
亮太の声。
でも。
今は違う。
僕は返信した。
「いいね」
「今度の土曜?」
土曜日。
スタジオ。
ドアを開けると、
健太がドラムの前に座っていた。
「久しぶり」
僕が言う。
健太は笑った。
「半年ぶり?」
その時、ドアが開く。
亮太。
ベースケースを持っている。
「……なんか変な感じだな」
亮太が言った。
誰も笑わない。
でも、少し空気が柔らかい。
「とりあえずやる?」
健太が言う。
僕はギターを構える。
亮太がベースを持つ。
健太がスティックを回す。
三人で顔を見た。
「……あの曲やる?」
健太が言った。
バンドで一番最初に作った曲。
僕は頷いた。
カウント。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ドラム。
ベース。
ギター。
音が重なる。
半年ぶりなのに、
不思議なくらい
体が覚えている。
演奏が終わる。
スタジオが静かになる。
亮太が笑った。
「……やっぱ楽しいな」
健太が言った。
「だな」
僕は息を吐いた。
胸の奥で
何かが動く。
亮太が言った。
「またライブ出る?」
僕は答えた。
「出よう」
亮太が笑う。
「でもさ」
「前みたいに“売れる”とかじゃなくてさ」
少し考えてから言った。
「歌いたいからやるでいいじゃん」
健太が笑った。
「それでいい」
スタジオの空気が少し変わった。
未来はまだ分からない。
売れるかもしれない。
売れないかもしれない。
でも。
三人で音を鳴らしている。
それだけで
十分だった。
帰り道。
夜の空を見上げる。
星は見えない。
でも。
僕は思った。
あの時聞こえた声は
間違いじゃなかった。
胸の奥で
静かに響く。
今、チェンジ。
第七章 初めての“もう一度”
ライブの日は、やけに晴れていた。
九月の終わり。
夏が終わりかけているのに、空はまだ少しだけ青い。
僕はギターケースを肩にかけて、下北沢の駅を出た。
三ヶ月前。
僕らはスタジオで再会した。
半年ぶりに音を鳴らした。
あの瞬間、分かった。
やっぱり、
この三人で鳴らす音が好きだ。
それから僕らは、週一でスタジオに入った。
新しい曲を作った。
昔の曲もやり直した。
亮太は相変わらずベースを弾きながら文句を言うし、
健太はドラムのスネアをずっと調整している。
でも、それが懐かしかった。
ある日、健太が言った。
「ライブ出ない?」
亮太がすぐ言った。
「早くない?」
僕も思った。
まだ曲も少ない。
客も呼べない。
でも健太は言った。
「だから出るんだよ」
その一言で決まった。
そして今日。
ライブハウスのドアを開ける。
地下の空気。
少し湿った匂い。
スピーカーの低い音。
「おー」
健太が手を振る。
亮太はアンプの前でベースを調整している。
「緊張してる?」
健太が笑う。
僕は答えた。
「……ちょっと」
亮太が言った。
「嘘つけ」
「めちゃくちゃしてるだろ」
図星だった。
手が少し震えている。
半年以上、
ちゃんとしたライブはやっていない。
それに今日は、
再結成して最初のライブ。
失敗するかもしれない。
客が盛り上がらないかもしれない。
でも。
健太がドラムスティックを回しながら言った。
「まあさ」
「売れるとかさ」
「そういうのは、もういいじゃん」
亮太が頷く。
「今日はさ」
「楽しいかどうかだけだろ」
その言葉で、
少し肩の力が抜けた。
開演。
客は四十人くらい。
多くはない。
でも、少なくもない。
僕らの出番は三番目。
ステージ袖で待つ。
前のバンドの音が鳴っている。
ドラム。
ギター。
歓声。
胸がドクドクする。
亮太が言った。
「……覚えてる?」
「最初のライブ」
僕は笑った。
大学一年の春。
客は五人。
うち三人は友達。
それでも、
めちゃくちゃ楽しかった。
亮太が言う。
「なんか今日、あの時みたいだな」
健太が笑う。
「初心者バンドだな」
スタッフが言った。
「次、blue noiseお願いします」
僕らは顔を見合わせた。
亮太が言った。
「行くか」
ステージに上がる。
ライトが眩しい。
赤い照明。
客席が少し暗くて見えない。
マイクの前に立つ。
「こんばんは」
僕が言う。
声が少し震えている。
「blue noiseです」
少し拍手。
僕はギターを構える。
亮太がベースを持つ。
健太がスティックを上げる。
三人で目を合わせる。
あのスタジオの時と同じ。
健太がカウントする。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ドラムが鳴る。
ベースが入る。
ギターが鳴る。
音が重なる。
その瞬間。
胸の奥で何かが弾けた。
「……ああ」
これだ。
この感じ。
体の奥まで響く振動。
仲間の音。
客席の空気。
僕は歌い始めた。
声はまだ少し震えている。
でも止まらない。
二曲目。
三曲目。
客席が少し動く。
前の方の人が頭を揺らしている。
誰かが笑っている。
亮太がベースを弾きながら叫ぶ。
「まだいけるだろ!」
健太がドラムを強く叩く。
最後の曲。
僕らが一番最初に作った曲。
文化祭のあとに作った曲。
「この曲は」
僕は言った。
「俺たちが一番最初に作った曲です」
少し間。
「今日、もう一回始めるためにやります」
ギターを鳴らす。
ドラム。
ベース。
音が爆発する。
僕は歌った。
客席の空気が動く。
サビ。
声を張り上げる。
その瞬間、
思った。
未来なんて
分からない。
売れるかもしれない。
売れないかもしれない。
でも。
今、ここで音を鳴らしている。
それだけで
十分だった。
曲が終わる。
一瞬の静寂。
そして拍手。
さっきより大きい。
僕は息を吐いた。
亮太が笑っている。
健太がスティックを掲げる。
僕はマイクに言った。
「ありがとう」
ステージを降りる。
三人で顔を見合わせる。
亮太が言った。
「……やばかったな」
健太が笑う。
「めちゃくちゃ楽しかった」
僕は言った。
「うん」
胸の奥で
静かに響いていた。
あの声。
今、チェンジ。
第八章 客席のいちばん後ろ
ライブの三日前。
僕は、スマホを見つめていた。
メッセージ画面。
送り先は——
父。
最後にやり取りしたのは、半年前。
実家で言い合いになった日。
「夢ばっか言ってる歳じゃない」
父の言葉。
僕はそのあと、ほとんど連絡をしていない。
でも、今。
ライブが近づくにつれて、
なぜかその言葉が何度も思い出された。
本当は、来てほしいのかもしれない。
でも。
来てほしくない気もする。
もし来て、
つまらないと思われたら?
やっぱり無理だって思われたら?
スマホを置く。
天井を見る。
茶色いしみ。
無数。
昔、バンドをやめた頃。
この天井ばかり見ていた。
でも、今は違う。
三日前。
スタジオ。
健太がドラムを叩きながら言う。
「次のライブさ」
「結構人来そうだな」
亮太がベースを弾きながら言う。
「お前の友達がめちゃくちゃ宣伝してる」
僕は笑う。
「ありがたいな」
健太が言う。
「家族とか呼ばないの?」
その言葉で、
手が止まった。
亮太がちらっと僕を見る。
「……親とか?」
僕は少し考えた。
そして言った。
「呼んでない」
健太が言う。
「呼べばいいのに」
亮太が小さく言う。
「まあ……来るかは別として」
その言葉で、
胸がざわつく。
帰り道。
僕はスマホを開いた。
メッセージを書く。
「今度ライブやる」
消す。
書く。
「バンド、またやってる」
消す。
そして、最後に書いた。
「今度ライブやる」
「もし時間あったら」
「来て」
送信。
すぐに後悔した。
既読がつかない。
一日。
二日。
返信はない。
ライブ当日。
ライブハウスの楽屋。
健太がドラムスティックを回している。
「今日さ」
「客多いぞ」
亮太が言う。
「四十人以上いる」
僕は頷く。
緊張している。
でも。
それだけじゃない。
客席を見たい気持ちがある。
父が来ているかもしれない。
いや。
来ていないかもしれない。
ステージの袖。
前のバンドの音が終わる。
スタッフが言う。
「次、blue noiseお願いします」
僕らはステージに上がる。
ライトが点く。
赤い照明。
客席を見る。
前の方は暗くてよく見えない。
僕はマイクを握る。
「こんばんは」
拍手。
一曲目が始まる。
ドラム。
ベース。
ギター。
音が重なる。
二曲目。
三曲目。
客席が動く。
誰かが手を挙げている。
でも、僕は気になっていた。
客席の
一番後ろ。
そこは暗い。
最後の曲の前。
僕は少し息を整えた。
そして、客席を見た。
一番後ろ。
立っている人がいる。
腕を組んでいる。
背が高い。
少し猫背。
見覚えのある姿。
父だった。
胸が止まる。
一瞬、歌詞を忘れそうになる。
でも。
父は何も言わない。
ただ、見ている。
僕はギターを握った。
健太がカウントする。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
最後の曲。
僕らの一番大事な曲。
僕は歌った。
声が少し震えている。
でも止まらない。
サビ。
客席の空気が揺れる。
歌いながら思う。
父はどう思っているだろう。
やっぱり無理だと思っているか。
それとも。
でも。
歌い終わった。
拍手。
今までで一番大きい。
僕は息を吐いた。
ステージを降りる。
亮太が言う。
「めちゃくちゃよかったな」
健太が笑う。
「今日一番だろ」
僕は客席を見る。
父はいない。
帰ったのかもしれない。
少しだけ胸が痛む。
ライブハウスを出る。
夜。
外の空気。
その時。
声がした。
「……おい」
振り向く。
父だった。
少し気まずそうな顔。
沈黙。
父が言った。
「……すごかったな」
僕は驚いた。
父は少し笑った。
「正直言うと」
「びっくりした」
僕は何も言えない。
父が続けた。
「お前」
「ちゃんとやってるんだな」
胸の奥が熱くなる。
父は空を見た。
「俺の時代はな」
「夢なんて言ってる余裕なかった」
少し沈黙。
そして言った。
「でも」
「お前は」
「やれるなら、やれ」
僕は思わず笑った。
「ありがとう」
父は照れくさそうに言う。
「次のライブ」
「また行く」
その瞬間。
胸の奥で
静かに声が響いた。
今、チェンジ。
第九章 あの声の正体
ライブから一週間後。
僕は部屋の床に座っていた。
ギターを抱えて。
コードを鳴らす。
でも、しっくりこない。
「……違うな」
小さくつぶやく。
最近、曲を書こうとしている。
でも、なぜか書けない。
理由は分かっている。
次の曲が
大事すぎる。
再結成してから、ライブは三回。
少しずつ客が増えてきた。
SNSのフォロワーも増えた。
でも、まだ足りない。
僕らには
**“このバンドの曲”**が必要だった。
blue noiseといえばこの曲。
そう言える曲。
でも。
それが、できない。
天井を見る。
茶色いしみ。
無数。
昔、バンドをやめた時。
この天井ばかり見ていた。
あの頃は、
何も聞こえなかった。
でも、今は違う。
胸の奥で
何かが鳴っている。
言葉にならない何か。
まるで
誰かが呼んでいるみたいな感覚。
スマホが震える。
亮太からLINE。
「スタジオ来れる?」
スタジオ。
健太がドラムをいじっている。
亮太はベースを弾いている。
僕は言った。
「曲できない」
亮太が笑う。
「そんな顔してると思った」
健太が言う。
「いいじゃん」
「できなくても」
僕は言う。
「でもさ」
「このバンドの曲、作りたいんだ」
少し沈黙。
亮太がベースを鳴らす。
ドン。
ドン。
「じゃあさ」
亮太が言う。
「このバンドってさ」
「なんなんだろうな」
僕は答えられない。
健太が言う。
「挫折バンド」
亮太が笑う。
「それはある」
健太が続ける。
「でもさ」
「結局戻ってきたじゃん」
亮太が言う。
「なんかさ」
「呼ばれてる感じあるよな」
その言葉で、
胸が止まった。
呼ばれてる。
そうだ。
あのストリートライブ。
最初のライブ。
父の言葉。
全部、
何かに
呼ばれていた気がする。
僕はギターを鳴らした。
ジャーン。
亮太がベースを入れる。
ドン。
健太がスネアを叩く。
パン。
音が重なる。
その瞬間。
言葉が出た。
「この惑星の真ん中で」
自分でも驚いた。
健太が言う。
「いいじゃん」
亮太が言う。
「続きは?」
僕は少し考える。
そして言った。
「時々さ」
「暗い時に」
「なんか光るものあるじゃん」
亮太が頷く。
「ある」
僕は続けた。
「それってさ」
「呼び声みたいな気がする」
健太がドラムを叩く。
タタン。
亮太がベースを弾く。
ドン。
僕は歌い始めた。
「どんな夜も
輝いて消えないものに手を伸ばして」
スタジオの空気が変わる。
亮太が叫ぶ。
「それだ!」
健太がドラムを強く叩く。
音が膨らむ。
僕は歌う。
「僕らまだ
不確かな未来歌えるよ」
演奏が止まる。
静寂。
三人で顔を見る。
亮太が言う。
「……やばくない?」
健太が笑う。
「来たな」
僕はギターを握る。
胸の奥で、
ずっと鳴っていた声。
あの声の正体が
分かった気がした。
それは
誰かの声じゃない。
僕ら自身の声だ。
不安の中でも、
もう一度立ち上がろうとする
自分の声。
僕は小さく言った。
「曲名」
亮太が言う。
「決まってるだろ」
健太が言う。
「うん」
僕は笑った。
そして言った。
「呼び声」
最終章:あの声の届く場所
夏だった。
八月の終わり。
空は高く、少しだけ白い雲が浮かんでいる。
僕らはフェス会場の裏にいた。
巨大な野外ステージ。
観客は何千人。
遠くまで人の波が広がっている。
三年前。
大学のスタジオで始まったバンド。
半年前。
解散したバンド。
それが今、
ここに立とうとしている。
健太がドラムスティックを回している。
いつもより静かだ。
亮太がベースのチューニングをしている。
何度も同じ音を鳴らしている。
僕はギターを握っていた。
手が少し汗ばんでいる。
「……やばいな」
亮太が言った。
「人多すぎだろ」
健太が笑う。
「今さらビビるなよ」
でも。
声が少し震えていた。
僕も笑う。
「正直」
「めちゃくちゃ緊張してる」
三人で顔を見合わせる。
少し沈黙。
亮太が言う。
「覚えてる?」
「最初のライブ」
僕は笑った。
客は五人。
ライブハウスの隅。
健太が言う。
「そのあと客十人のライブ」
亮太が言う。
「そのあと解散」
僕は言う。
「そのあと再結成」
三人で笑う。
健太が言う。
「人生、意味分からんな」
スタッフが来た。
「blue noiseさん、次です」
僕らは立ち上がる。
ステージへ向かう。
ライトが眩しい。
歓声が聞こえる。
想像していたよりも
ずっと大きい。
ステージに出る。
景色が広がる。
人。
人。
人。
僕は少し息を吸った。
マイクを握る。
「こんばんは」
歓声。
「blue noiseです」
拍手が広がる。
亮太を見る。
健太を見る。
二人が頷く。
健太がカウントする。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
ドラム。
ドン。
ベース。
ドン。
ギター。
ジャーン。
音が広がる。
一曲目。
二曲目。
客席が揺れる。
何千人もの人が
体を動かしている。
僕は歌いながら思う。
三年前。
就活の面接。
「将来のビジョンを教えてください」
答えられなかった。
父の言葉。
「夢ばっか言ってる歳じゃない」
あの夜の天井。
茶色いしみ。
バンド解散。
ストリートライブ。
父が初めて見たライブ。
全部が
頭をよぎる。
そして。
今。
ここにいる。
僕はマイクを握った。
「次の曲」
「俺たちの大事な曲です」
少し息を吸う。
「呼び声」
歓声が広がる。
ギターを鳴らす。
ジャーン。
健太のドラム。
亮太のベース。
音が膨らむ。
僕は歌う。
「この惑星の真ん中で」
客席が静かになる。
風が吹く。
夏の夜。
僕は続ける。
「どんな夜も
輝いて消えないものに手を伸ばして」
客席の奥まで
声が広がる。
ふと、
客席の後ろを見る。
遠く。
腕を組んで立っている人がいる。
父だった。
三年前と同じ姿。
でも、
今は笑っている。
胸の奥が熱くなる。
僕は歌い続ける。
「僕らまだ
不確かな未来歌えるよ」
サビ。
健太がドラムを叩く。
亮太がベースを弾く。
客席が手を挙げる。
何千人もの手。
その光景を見て、
僕は思った。
未来なんて
分からない。
売れるかもしれない。
売れないかもしれない。
それでも。
僕らは
ここまで来た。
歌い終わる。
一瞬の静寂。
そして。
爆発みたいな歓声。
拍手。
叫び声。
僕は息を吐いた。
亮太が笑っている。
健太がスティックを掲げる。
僕は空を見上げた。
夜空。
星は少ない。
でも。
確かに思った。
あの時、
天井のしみを見ながら
聞いた声。
あれは
間違いじゃなかった。
胸の奥で
静かに響く。
今、チェンジ。
僕らは
まだ
歌える。
そして。
物語は、
まだ続いていく。
~完~
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