『置き手紙』Vaundy。”妄想ストーリー(彼女側視点)”

Vaundy

このページは別記事で描いたVaundyの『置き手紙』という曲をモチーフにした、私の妄想ストーリーの彼女側の視点ですφ(・ω・`)

元記事を読んでいない方は、元記事からご覧になっていただければ幸いです。ρ(._.*)ρ

それでは「置き手紙(彼女側視点)」(´っ・ω・)っすた~と

『置き手紙(彼女側視点)』

第一章:気づいてしまった日

最初は、本当に小さな違和感だった。

言葉にするほどでもない。
誰かに話したら「気のせいじゃない?」って笑われるくらいの。

でも――

そういうものほど、あとになって一番はっきり輪郭を持つ。

あの夜。

「星、見にいこう」

そう言われた時、少しだけ驚いた。

この人が、そんなことを言うのは珍しかったから。

でも同時に、少し嬉しかった。

理由なんていらない。
ただ一緒にいたいって思ってくれたのかなって、
ほんの少しだけ期待した。

「いいよ」

自然に笑えたと思う。

たぶん、あの人が思っている通り、
何も知らない顔で。

でも本当は、その時すでに――

“何か”に気づきかけていた。


歩き出してすぐ、違和感は形になり始める。

距離。

たったそれだけ。

隣にいるのに、少し遠い。

触れられそうで、触れられない。

歩幅が、ほんの少しだけ合わない。

前はこんなことなかった。

もっと自然に隣にいられた。

無理に合わせなくても、勝手に合っていた。

でも今は違う。

どちらかが、ほんの少しだけ意識している。

――たぶん、この人だ。

そう思った。

理由はわからない。

でも、なんとなくわかる。

視線が合う回数が減っていた。

目が合いそうになると、ほんの一瞬だけ逸らす。

その“ほんの一瞬”が、やけに目についた。


「最近さ、忙しいの?」

気づけば、そう聞いていた。

ただの雑談みたいに。

でも、本当は違う。

確かめたかった。

この人は今、どこにいるのか。

私の隣にいるのか、
それとももう少し離れた場所にいるのか。

返ってきたのは、

「……まぁ、ちょっとな」

曖昧な答え。

肯定でも否定でもない。

その瞬間、胸の奥が少しだけ冷える。

ああ、やっぱり。

そう思った。

この人は、何かを隠してる。

でもそれは、浮気とか、そういうわかりやすいものじゃない。

もっと静かで、もっと曖昧で、

もっと――どうしようもないもの。


歩きながら、何度も横顔を見る。

変わっていない。

見た目も、話し方も、仕草も。

でも、“温度”だけが違う。

触れなくてもわかるくらいに。

前はもっと、近かった。

言葉にしなくても、何となく通じていた。

沈黙も、嫌じゃなかった。

でも今は違う。

沈黙の中に、“考えている時間”がある。

何を言うかじゃなくて、
何を言わないかを選んでいる時間。

その違いが、こんなにもはっきりわかるなんて思わなかった。


空を見上げる。

星が綺麗だった。

本当に、綺麗だった。

だからこそ、少しだけ悲しくなった。

こういう瞬間って、本当はもっと楽しいはずなのに。

「きれいだね」

そう言いながら、横を見る。

この人は、空じゃなくて、どこか別の場所を見ていた。

たぶん――

自分の中の何か。

言えない何か。

決めきれない何か。


「なぁ」

声がかかる。

少しだけ期待する。

もしかしたら、ここで何か言うのかもしれない。

今なら、まだ間に合うかもしれない。

そんな、ほんの少しの期待。

でも――

「……いや、なんでもない」

その一言で、全部が静かに崩れた。

ああ、やっぱり。

そう思った。

確信に変わる。

この人は、言わない。

言えないんじゃない。

言わないことを、選んでいる。


その瞬間、不思議と落ち着いた。

悲しいとか、怒りとかじゃない。

ただ、理解しただけ。

この関係は、このままだと終わる。

しかも、誰も悪くない形で。

言葉が足りないだけで。

ほんの少しの勇気が足りないだけで。

それだけで、終わる。


それでも、笑った。

「何も知らない顔」で。

そうしていたかった。

最後まで。

この人が後悔するとしても、

“嫌な記憶”として残したくなかったから。

優しかった時間のまま、終わらせたかったから。


あの夜、私は気づいてしまった。

この人が、少しずつ離れていること。

そして――

それを引き止める言葉を、持っていないこと。


それでも、まだこの時は思っていた。

もしかしたら。

次は。

次の夜には。

この人が、ちゃんと何かを言ってくれるんじゃないかって。


でもその“次”は、

私にとっては――

“終わりの準備”になっていった。

第二章:優しさの正体

あの夜から、少しずつ何かが変わった。

はっきりとした変化じゃない。

むしろ、外から見れば何も変わっていないように見えると思う。

会う回数も、連絡の頻度も、
極端に減ったわけじゃない。

会えば普通に話すし、笑うし、
並んで歩く距離だって、前と同じくらい。

でも――

“中身”が違った。


一番最初に気づいたのは、言葉だった。

少しだけ丁寧になった。

少しだけ優しくなった。

少しだけ、気を遣うようになった。

それは普通なら、嬉しい変化のはずなのに。

どうしてか、素直に喜べなかった。

むしろ逆だった。

違和感が、どんどん強くなっていった。


前はもっと雑だった。

「寒いな」って言いながら勝手に手を引いてきたり、
「腹減った」って言って適当に店に入ったり。

そういう、遠慮のない感じ。

それが心地よかった。

この人は、ちゃんと私の隣にいるって思えたから。

でも今は違う。

「大丈夫?」
「無理してない?」
「疲れてない?」

優しい言葉ばかり増えていく。

でもそれは――

“触れないための言葉”に聞こえた。

踏み込まないように。
距離を保つために。

優しさの形をして、少しずつ離れていく感じ。


「最近、優しいね」

その言葉は、ほとんど無意識だった。

でも本当は、ずっと喉の奥に引っかかっていたものだった。

どう返すのか、見てみたかった。

否定するのか。
認めるのか。
それとも――

何か別の言葉が出てくるのか。

でも返ってきたのは、

「そうか?」

とぼけた顔。

その瞬間、心の中で何かがひとつ落ちる。

――ああ、やっぱり。

気づいてないふりをするんだ。


「前より、遠い感じする」

もう一歩踏み込んでみる。

本当はここで、止めることもできた。

何も言わずに、気づかないふりをして、
このまま続けることもできた。

でも、それができなかった。

この違和感を、そのままにしておくのが怖かったから。

でも――

「気のせいだろ」

その一言で、すべてが確定した。

ああ、この人は、

“わかっていて、見ないふりをしている”。


それは、気づいていないよりも、ずっとつらかった。

気づいていないなら、まだ戻れる。

でも、気づいていて避けているなら――

もう、戻る気がないってことだから。


それでも私は、笑った。

「そっか」

それだけ言って、終わらせた。

それ以上、踏み込まなかった。

踏み込めば、壊れる気がしたから。

でも本当は――

もう壊れ始めていることに、気づいていた。


帰り道。

並んで歩く。

前と同じ距離。

でも、間にあるものが違う。

前は、何もなかった。

ただ一緒にいるだけでよかった。

でも今は――

言葉にしない何かが、ずっと間にある。

触れられない壁みたいなものが。


ふと、思う。

どうしてこの人は、何も言わないんだろう。

怖いのかな。

それとも――

もう、どうでもいいのかな。

どっちなのか、わからない。

わからないまま続く時間が、一番苦しかった。


「魔法の言葉があるとしたら、何がいい?」

あの質問をしたのは、
ただの思いつきじゃない。

もう一度だけ、確かめたかった。

この人は、まだこっちに来る気があるのか。

それとも、完全に距離を取るつもりなのか。

本当は、答えはわかっていた。

でも、それでも――

ほんの少しだけ、期待していた。

もしかしたら。

この人が、ちゃんと何かを言ってくれるかもしれないって。

でも返ってきたのは、

「そんなの、あるわけないだろ」

その一言。

軽くて、簡単で、逃げ道みたいな言葉。


その瞬間、はっきりとわかった。

ああ、この人は――

“言葉にするつもりがない”。

言えないんじゃない。

言わないことを選んでいる。


それがわかったとき、

少しだけ、楽になった。

苦しさが消えたわけじゃない。

でも、“わからない苦しさ”がなくなった。

代わりに来たのは、

“終わりを受け入れる準備”だった。


それでもまだ、

どこかで思っていた。

もしかしたら。

次は。

次こそは。

この人が、何かを変えてくれるかもしれないって。


でも、その“次”は――

もう、私の中では

“終わりに向かう時間”になっていた。

第三章:壊れていく日々の中で

あの夜から、時間の流れ方が少し変わった。

同じ一日なのに、長く感じる。

同じ会話なのに、意味が増える。

何も起きていないはずなのに、
何かが少しずつ終わっていくのがわかる。

そんな時間。


会う頻度は、変わらなかった。

むしろ、少しだけ増えた気がする。

たぶん――

この人なりに、繋ぎ止めようとしているんだと思う。

でもそれは、嬉しいものじゃなかった。

近づいているはずなのに、
どんどん遠くなる感じがしたから。


あの日も、並んで歩いていた。

何でもない帰り道。

コンビニの前を通って、
信号を渡って、
いつもの道を進む。

景色は変わらない。

でも、見え方が変わっていた。

一つひとつの沈黙に、意味がある。

一つひとつの言葉に、迷いがある。

それが全部、わかってしまう。


「最近さ」

私が口を開く。

本当は、こんなこと言いたくなかった。

でも、言わないまま終わるほうが、もっと嫌だった。

「なんか、言いたそうだよね」

できるだけ軽く言ったつもりだった。

冗談みたいに。

でも――

自分でもわかるくらい、少しだけ震えていた。

この一言で、何かが決まる気がしたから。


「……別に」

返ってきたのは、それだけだった。

一瞬、時間が止まる。

ああ、やっぱり。

そう思った。

予想していた通りの答え。

でも――

どこかで、裏切られることを期待していた。


この人は、ずっと“言いかけてやめる”。

それを何度も見てきた。

「なぁ」

そう言って、
何も言わない。

その“途中で止まる感じ”が、
一番つらかった。

言わないなら、最初から何も言わないでほしい。

期待させないでほしい。

そう思うのに――

そのたびに、少しだけ期待してしまう。

もしかしたら今度こそ、って。


公園に着く。

あの夜と同じ場所。

星を見た場所。

でも、同じ景色には見えなかった。

あの時は、ただ綺麗だと思えた。

今は違う。

綺麗なはずなのに、どこか寂しい。

終わりが近いものって、
どうしてこんなふうに見えるんだろう。


「なぁ」

また、声がかかる。

その一言だけで、わかる。

――また、言わないんだろうなって。

でも、それでも振り向く。

期待してしまうから。

「……いや、なんでもない」

やっぱり。

心の中で、何かが静かに崩れる。

音はしない。

でも確実に、形が変わる。


その瞬間、はっきりと理解する。

この人は、言わない。

これからも、たぶんずっと。

大事なことを、
大事なタイミングで、
ちゃんとした言葉にすることができない人なんだ。

それは悪いことじゃない。

ただ――

私とは、続けられないだけ。


それでも、最後にもう一度だけ聞いてみる。

「それってさ、ただの思いつき?」

星を見に行こうって言った理由。

本当は、どうでもいい質問。

でもこれは、

“意味があるのかどうか”を聞いている。

この時間に。

この関係に。

私たちに。


「……まぁ、そんなもんだろ」

軽い答え。

迷いもない。

その一言で、全部が終わった。


ああ、この人にとっては、

これは“ただの時間”なんだ。

特別でも、意味があるわけでもない。

ただ、なんとなく過ごす時間。

その中に、私はいる。

それだけ。


「そっか」

そう返す。

それ以上は、もう何も言えなかった。

言っても意味がないって、わかってしまったから。


ベンチに座る。

隣にいる。

でも、もう隣じゃない。

同じ場所にいるだけで、
同じ方向を向いていない。


「もしさ」

自分でも驚くくらい、静かな声だった。

「このまま、何も変わらなかったらさ」

一瞬、息を止める。

怖かった。

この質問の答えで、
全部が確定する気がしたから。

「それって、いいことだと思う?」


本当は、答えは決まっていた。

“よくない”。

でもそれを、この人が言うかどうか。

そこだけを見ていた。


「……わかんないな」

その一言で、すべてが終わる。

否定もしない。
肯定もしない。

ただ、選ばない。


それが、この人の答えだった。


その瞬間、不思議と苦しくなかった。

悲しいとも思わなかった。

ただ――

静かに納得した。

ああ、ここまでなんだって。


それでも、笑った。

最後まで、同じ顔でいたかったから。

この人が後で思い出すとき、

嫌な顔じゃなくて、

“何も知らない顔で笑ってた私”を思い出してほしかったから。


その夜、はっきりと決めた。

もう、終わらせようって。

このまま続けるのは、優しさじゃない。

ただ腐っていくだけだから。


それでも、ほんの少しだけ思ってしまう。

もし、この人があの時、

たった一言でも違うことを言っていたら。

もし、逃げずに向き合ってくれていたら。

私たちは、どうなっていたんだろうって。


でも、その“もし”は――

もう、どこにも存在しない。

第四章:魔法の言葉

その日、少しだけ空気が違っていた。

理由はわからない。

でも、こういう日はだいたい何かが起こる。

終わる日か、
始まる日か。

どっちか。


待ち合わせの場所に向かいながら、考える。

たぶん――

終わる日だ。

そう思っているのに、
足は止まらない。

心のどこかで、まだ期待している。

もしも。

ほんの少しでも。

この人が、違う選択をするかもしれないって。


姿が見えた瞬間、少しだけ安心する。

いつも通りの顔。
いつも通りの歩き方。

何も変わっていないように見える。

でも――

もう騙されない。

変わっていない“ふり”をしているだけだって、知っているから。


「最近、優しいね」

あの日の言葉が、ふとよぎる。

あれはもう、終わりの入り口だった。

今日は、その先。


並んで歩く。

距離は同じ。

でも、意味が違う。

前は“自然な距離”だった。

今は、“保たれている距離”。

どちらかが崩せば、すぐに変わる。

でも、どちらも崩さない。

その均衡が、やけに苦しい。


「ねぇ」

声をかける。

少しだけ、間を置いて。

「もしさ」

この言い方を、何度しただろう。

でも今日は、意味が違う。

これは――

最後の問い。


「魔法の言葉が一つだけあるとしたら、何がいい?」

できるだけ軽く言う。

冗談みたいに。

でも内側では、息を止めている。

この人が、どう答えるかで、全部が決まる。


本当は、答えは一つしかない。

わかっている。

この人も、きっとわかっている。

だからこそ――

それを言うかどうかを見ている。


少しの沈黙。

風の音がやけに大きい。

時間が、ゆっくりになる。

期待してしまう。

やめたほうがいいってわかっているのに。


「……そんなの、あるわけないだろ」

その一言で、すべてが静かに終わる。


ああ、やっぱり。

そう思った。

驚きはなかった。

悲しみも、もうなかった。

ただ、最後の可能性が消えたのを確認しただけ。


それでも、まだ一つだけ残っていた。

ほんのわずかな、最後の余白。


別れ際。

いつもの場所。

いつもの流れ。

でも今日は違う。

ここが、本当に最後になる場所。


「じゃあね」

そう言いながら、手を振る。

その瞬間、思う。

――今だよ。

ここで言えば、まだ間に合う。

さっき言えなかったなら、今でもいい。

どんな言葉でもいい。

不器用でもいい。

ちゃんと“選ぶ”言葉なら。


少しだけ待つ。

ほんの一瞬。

でも、自分にとっては長い時間。


「またな」

返ってきたのは、それだった。


ああ。

終わった。

完全に。


その一言は、優しかった。

でも同時に、決定的だった。

“これ以上、何も変えない”っていう意思。

“このままでいい”っていう選択。


「うん、またね」

笑って返す。

ちゃんと、いつも通りに。

最後まで崩さない。

そう決めていたから。


背を向ける。

歩き出す。

振り返らない。

振り返ったら、たぶん終われなくなる。


少し歩いてから、気づく。

涙は出ていなかった。

代わりにあったのは――

静けさだった。


これでよかったんだと思う。

ちゃんと確認した。

ちゃんと待った。

ちゃんとチャンスも残した。

それでも、この人は来なかった。


だったらもう、

終わらせていい。


“魔法の言葉”なんて、本当は特別なものじゃない。

ただの一言。

でもそれを言わない選択をした時点で、

その関係はもう、続かない。


家に帰る。

ドアを開ける。

部屋に入る。

静かな空間。

ここに、この人が来ることは、もうない。


机の前に座る。

ペンを取る。

紙を一枚出す。

迷いはなかった。


書く。

たった一行。

それでいいと思った。


『腐りきるまで、別てぬ二人で』


それは、約束じゃない。

願いでもない。


“なれなかった未来”を書いただけ。


もし、あの人が言っていたら。

もし、ちゃんと向き合っていたら。

もし、逃げなかったら。


私たちは、

ちゃんと続けられたのかもしれない。


でも、そうはならなかった。

だから――

ここで終わらせる。

腐る前に。


ペンを置く。

紙を机の上に残す。

それだけで、十分だった。

第五章:不死の病

部屋は、やけに静かだった。

さっきまで普通に生活していたはずなのに、
急に音がなくなったみたいに感じる。

時計の針の音。
外を走る車の音。
どこかの部屋のテレビの音。

全部、聞こえているはずなのに、
自分の中には入ってこない。

ただ、空気だけが重い。


机の上の紙を見る。

まだ書いたばかりの一行。

『腐りきるまで、別てぬ二人で』

インクは乾いていない。

指で触れたら、少し滲みそうなくらいに。

それなのに、その言葉はもう――

動かせないものになっていた。


「不死の病か」

ぽつりと呟く。

あの時、自分で言った言葉。

軽く言ったつもりだった。

冗談みたいに。

でも本当は、ずっと考えていたことだった。


終わらない関係。

変わらない距離。

名前のつかないまま続いていく時間。

それって、一見やさしい。

壊れないし、傷つかないし、
何も失わないように見える。

でも――

それは違う。


ゆっくりと、椅子に座る。

天井を見上げる。

何もない白い天井。

そこに、自分の考えだけが浮かぶ。


終わらないってことは、

“進まない”ってことだ。

どこにも行けないってことだ。


好きなら、進みたい。

ちゃんと近づきたい。

ちゃんと触れたい。

ちゃんと名前をつけたい。


でも、それをしない関係は――

ただそこに“留まり続ける”。

変わらないふりをしながら、
少しずつ中身だけが崩れていく。


「腐る」

小さく言葉にする。

ああ、そうだ。

これだと思った。


私たちは、壊れるんじゃない。

腐るんだ。

ゆっくりと。

誰にも気づかれないまま。

気づいたときには、もう元には戻らない形で。


あの人は、それでもいいと思っていたのかもしれない。

このままでもいいって。

曖昧なままでも、隣にいられるならそれでいいって。


でも私は、無理だった。

それは優しさじゃない。

ただの先延ばしだと思った。


本当は、怖かった。

終わらせるのが。

いなくなるのが。

この人と、完全に離れるのが。


でもそれ以上に怖かったのは、

このまま続くことだった。


ずっと、この距離のまま。

ずっと、この温度のまま。

ずっと、“言葉がないまま”。


それはきっと、

“ゆるやかな窒息”みたいなものだ。

苦しくないようで、
でも確実に息ができなくなっていく。


「もし私が、不死の病にかかったら」

あの時の言葉を思い出す。

あれは、未来の話じゃない。

今の話だった。


終わらない関係にいる私たちは、

もうすでに“かかっていた”んだと思う。


「ずっと一緒にいられる?」

あの質問の本当の意味。

あれは、“願い”じゃない。

“確認”だった。


この人は、このままでもいいと思っているのか。

それとも、ちゃんと変えようとするのか。


答えは、出ていた。

何度も。


「わかんないな」

「そんなの、あるわけないだろ」

「また今度でいいだろ」


その全部が、答えだった。


変えない。

進まない。

でも、終わらせもしない。


それが、この人の選択。


私は、その中にいられなかった。


机の上の紙に、もう一度目を落とす。

『腐りきるまで、別てぬ二人で』

少しだけ笑ってしまう。


これは、理想だ。

なれなかった形。


もし、ちゃんと言えていたら。

もし、逃げなかったら。

もし、向き合えていたら。


私たちは、

腐る前に、ちゃんと続けられたのかもしれない。


でも現実は違う。


だから私は、

“腐る前に終わらせる”ことを選んだ。


それが、一番残酷で、

でも一番優しい選択だと思ったから。


立ち上がる。

部屋を見渡す。

何も変わっていない。

でも、ここにはもう戻らない。


この人が来る前に、出ていこう。

そう思う。


最後まで、同じ顔でいたい。

責めることも、怒ることもなく、

ただ、静かに終わらせた人として。


ドアの前に立つ。

一瞬だけ、止まる。

少しだけ、迷う。


それでも、手をかける。


「……これでいい」

小さく呟く。

誰にも聞かれない声で。


ドアを開ける。

外の空気が、少し冷たい。


一歩、踏み出す。


これで終わり。

でも同時に――

やっと、ちゃんと終われる。

最終章:それでも残ったもの

夜の空気は、どこにいても同じだった。

少しだけ冷たくて、
少しだけ静かで、
何かを思い出させるような温度。

あの街を離れてから、しばらく経つ。

新しい部屋。
新しい道。
新しい生活。

全部、ちゃんと進んでいる。

はずなのに。


ふとした瞬間に、戻ってしまう。

夜道を歩いているとき。

コンビニの前を通るとき。

空を見上げたとき。


星が、やけに綺麗な夜。


「……あの時も、こんな感じだったな」

小さく呟く。

誰もいないのに。


思い出すのは、あの人の横顔。

何も知らない顔で笑っていたって、
きっとあの人は思っている。

でも本当は違う。


全部、知っていた。

全部、気づいていた。

全部、わかっていた。


それでも、笑っていた。


あの時間を、嫌なものにしたくなかったから。

最後まで、ちゃんと“好きだった時間”として残したかったから。


歩きながら、ポケットに手を入れる。

そこには何もない。

あの紙は、置いてきた。

あの人のために。


『腐りきるまで、別てぬ二人で』

あの一行。

何度も頭の中で繰り返す。


あれは、願いじゃない。


“できなかったこと”を書いただけ。


もし、あの人が言っていたら。

もし、ちゃんと向き合っていたら。

もし、あの時、逃げなかったら。


私たちは、きっと――


そこまで考えて、やめる。

意味がないから。


“もし”は、どこにも存在しない。

あの時点で、すべて決まっていた。


それでも、思ってしまう。

ほんの少しだけ。


あの人が、最後の最後で

たった一言でも違う言葉を選んでいたら。


私は、きっと――


「……やめよ」

小さく首を振る。

夜の空気を吸い込む。

少しだけ、冷たい。


前に進むって、こういうことだと思う。

忘れることじゃない。

消すことでもない。


抱えたまま、進むこと。


あの人のことを、嫌いになったわけじゃない。

むしろ逆だ。

ちゃんと好きだった。

最後まで。


だからこそ、終わらせた。


あのまま続けていたら、

きっと嫌いになっていた。

言えないことに。

変わらないことに。

どうにもできない関係に。


それだけは、嫌だった。


立ち止まる。

空を見上げる。

星がある。

あの時と同じように。


「魔法の言葉、か」

ふと、思い出す。

あの質問。

あの時、私はもう答えを知っていた。


特別な言葉なんて、いらない。


ただ、

“選ぶこと”ができる言葉。


逃げないで、ちゃんと向き合う言葉。


それが、たぶん――

魔法だった。


あの人は、それを選ばなかった。


でも、それでいいと思う。


あの人はあの人で、

あの時の精一杯だったんだと思うから。


少しだけ、笑う。

本当に少しだけ。


「たぶん、ちゃんと後悔してるんだろうな」

そう思う。

あの人の性格なら。

きっと、何度も思い返している。

何度も、同じ場面で止まっている。


でも、それも含めていいと思う。


私も同じだから。


忘れてはいない。

ただ、もう戻らないだけ。


歩き出す。

さっきよりも、少しだけ軽い足取りで。


これでよかったんだと思う。


ちゃんと気づいて、
ちゃんと待って、
ちゃんと終わらせた。


逃げなかった。


それだけで、十分だった。


最後にもう一度だけ、空を見る。


「……ちゃんと、好きだったよ」

小さく呟く。

誰にも届かない声で。


でも、それでいい。


これはもう、

伝えるための言葉じゃない。


“残しておくための気持ち”だから。


あの一行は、

きっとあの人の中に残る。


そして私の中には、

言えなかった言葉じゃなくて、

“ちゃんと終わらせた記憶”が残る。


それだけで、いい。


これは、

言えなかった人と、

気づいてしまった人の、


少しだけズレた、

同じ愛の話。

~完~

数年後の再会(Ifルート)も書いてみましたのでもしよろしければ読んでみてくださいρ(._.*)ρ

冒頭にも書きましたが、彼側の視点ストーリを読んでいないようでしたら読んでみてくださいρ(._.*)ρ

また、他にも『Vaundy』の名曲を紹介しておりますので併せてご覧くださいρ(._.*)ρ

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